第15話 上級ダンジョンでの戦い①

「目標は五階層のフロアボスを倒す事。わらわは後ろで見ておるから好きにせい」


 そう言われたのでダンジョンの奥へ三人で入る。


 マヤ先生は見ているだけ。

 戦力として数えない方がいいだろう。


 俺達三人で、縛りアリの上級ダンジョンを攻略しなければならない。


「う、しんど……」


「ご主人様、身体を支えましょうか?」


「ありがたいが多分マヤ先生が許さないと思う。これくらいならギリなんとかなりそうだし、大丈夫だよ」


「無理だけはなさらないで下さい……せめて、これだけでも」  


 そう言って俺に差し出してきたのは水筒。

 動きにくい俺に配慮し、メイは水筒の蓋を開けて飲ませてくれた。


「あ、美味い。ジュース?」


「薄く切ったレモンと塩を入れた飲み物です。身体を動かすのでちょうどよいかと」


「え、いいなー!! アタシも飲みたい!!」


「ふふっ、リリィ様の分もありますよ」


 いつの間にこんな物を……

 今日一日メイが俺のそばを離れる所を見てないし、常備していたのだろうか。

 

「っ!! 早速現れたぞ!!」


 和やかなムードが一変。

 

 岩陰から現れた狼型モンスターに対し、全員が武器を取る。


 人間より一回り大きい体格にギラリと光る鋭い牙。

 グルル……と唸らせながらこちらへ近づく度に重い音をたてながら砂埃をまわせる。

 

(フォレストウルフか……こーいう時に素早いモンスターは勘弁してほしいなー)


 緑色の体毛を生やし草系の魔法を使う。

 だからフォレストウルフ。

 

 素早い上に遠距離から魔法を使ってくる、かなり手強い敵だ。

 一応メイが前を張ってくれるし、リリィもかなり素早いから対処は出来る。


 だけど、俺は一つ試したい事があった。


「悪いが俺一人でやらせてほしい」


「「え!?」」


 無謀とも思える挑戦に二人に困惑した表情を浮かばせる。


「ご主人様、いくら何でもそれは無茶です!!」


「そーだよ!! 普段ならまだしも、一部の魔法と重力状態でまともに動けないのに!!」


「だからこそ、一人でどこまで出来るか試したいんだ」


 これは修行だ。


 普段のランクマッチではどんな事が起きても全て一人で対処しなければならない。


 状態異常になった時。

 大怪我を負った時。

 なにかしらの呪いで魔法を封じられた時。


 あらゆる状況が考えられる。

 それらに対して事前に対処できるようになれば、俺は更にワンランク上へと成長することができる。


「む、無理だけはしないでくださいね!!」


「ヤバくなったらバビュン!!って行くから!!」


「おけ、二人ともありがとう」


 重い足を動かしてフォレストウルフへ近づく。

 フォレストウルフも前に出た俺に敵意を向け、今にも襲い掛かりそうだ。


 この戦い、素早さでは完全にこちらが負けている。

 一つ一つの行動が重要だ。


「”シャドウシューティング”!!」 


 牽制用に影の遠距離魔法を放つ。


 それなりに素早い魔法。


 フォレストウルフの行動を見る為に放ったそれは、いとも簡単にかわされる。


「グルオオオオオオ!!」


 かわした足を捻って今度は直接襲いかかってきた。

 

 やっぱり早いな!!


 スピードだけなら”シャドウシューティング”に近いかもしれない。


 少し考えている間にフォレストウルフは俺に近づき、鋭い牙で噛み付こうとしたのだが、


「”シャドウナックル”!!」


「グルッ!!」


 突進に対し、俺は影魔法の拳で立ち向かった。


「凄い!! パンチと身体を少し動かしただけでかわしちゃった!!」


「流石ご主人様です!!」


 後ろから歓喜の声があがる。

 ちょっと嬉しい。


 フォレストウルフの攻撃は早いが直線的だった。

 だからパンチで突進の方向をずらし、身体を少しだけ動かすだけで避けられるよう調整したのだ。


 似たような事はレイとの修行でもやったが、前よりキレが増している気がする。


「グルォオオオオオ!!」


 今度は遠距離魔法か。


 緑色の魔法弾を俺に向けて放つも、所詮は直線攻撃。

 再び身体を捻ってかわした。


 だが、フォレストウルフの攻撃は終わらない。


「うわ!! 連射も出来るの!?」

 

 ズドドドドド!!と緑色の魔法弾を連射してきたのだ。 

 継続的な攻撃を前にかわし続けるのは不可能。

  

 だったらぶつけるしかないな。


「”シャドウガトリング”!!」


 こちらも応戦して影魔法の連射攻撃をする。

 緑と黒の弾が空中でぶつかり合い、状況が拮抗する。


「グォオオオオオオオ!!」


 その状況をぶっ壊すべく、フォレストウルフの切り札とも言える遠距離魔法が発動する。


 地面から巨大なツルがいくつも生え、ムチのようにしならせた。


 これは……ちょっとマズイかも。


「ォオオオオオオ!!」


「っ!!」


 ドオオオオオオオン!!


 ツルが地面に振り下ろされ、周辺に砂埃と瓦礫をまわせる。


 なんて破壊力だ。

 あんなの二、三回喰らっただけでアウトじゃねえか。


「ご主人様!!」


「大丈夫だ!! こいつを倒す手段は見つかってる!!」


「え、そうなの?」


 けど、あのツルはそこまで早くないし利用できそう。


 ツルをかわしながら、俺はフォレストウルフへ向けて大声で煽り始める。


「どうした!! お前の攻撃はそれでおしまいか!?」


「グルォオオオオオ!!」


 モンスターに人間の言葉がわかるかは怪しいが、少なくとも怒ってるっぽい。

 ツルの数と振り下ろすスピードが加速し、俺はどんどん追い詰められていく。


(もう少し……もう少し……)


 俺は待っていた。

 

 フォレストウルフの攻撃がとある場所から来るのを。

 ひたすらその位置に集中しながら回避を繰り返す。


 そして……


「っ!!」


 ピシッ……


 突然、地面が割れる音がした。


 これだ、これを待っていたんだ!!


「うおおおおおおおおお!!」


 ドカァアアアアアン!!と轟音をたてながら俺の足元から生えるツル。 


 誰もがまともに喰らったと思っていただろう。


 しかし、その攻撃は当たる直前に俺の足がツルを挟み込む事で完全に防がれていた。


「あがれえええええ!!」


 天井まで打ち上がるツル。


 俺はある程度の高さまでいった事を確認し、ツルから足を離してフォレストウルフへと飛びかかる。


「”シャドウバインド”!!」


「グルッ!?」


「少しだけ大人しくしてろ!!」


 このままだとやられる、と本能で察知したフォレストウルフが俺から離れようとするも、影の鎖によってその場で拘束されてしまう。


 あのレベルのモンスターで拘束できる時間は恐らく二〜三秒程度。

 だけど俺の攻撃を当てるには十分な時間だった。


「”シャドウスタンプ”!!」


 影魔法を全身に纏わせた体当たり。

 

 それは落下の衝撃と重力による重さが加わり、とてつもない破壊力を生み出す。


「グゥオオオオオオオオオ!!」


 ドカァアアアアアアアン!!

 

 その一撃がフォレストウルフにヒットすると、とてつもない衝撃波を周囲に広げた。


「ご主人様!! 大丈夫ですか!?」


「あぁ、なんとかな」


 駆け寄ってきたメイに引っ張ってもらい立ち上がる。

 

 今のでフォレストウルフは死んだ。

 身体の中心にクレーターのような巨大な凹みを作り、地面に倒れていた。


「落下だけではなく、わらわの重力魔法も利用するとは……お主やるのう」


「へへっ、使わせてもらいましたよ」


 怪我の功名ってやつかな?


 デメリットも考え方によってはメリットになると言う事だろう。


 あれ、そういえばリリィはどこに……


「すごーい!! フォレストウルフの素材だなんて貴重だよ!! アイテム作りが捗るな〜!!」


 もう解体してる!?


 俺が倒したにも関わらず、遠慮なくフォレストウルフの死体にナイフを突き立てるリリィ。


 どんだけ素材が欲しかったんだよ。


「フォレストウルフ如きで驚くでない。下に行けばもっと凄い素材が見つかるじゃろう」


「えー、すっごく楽しみなんだけど!! 頑張ろ!!」


「現金だなぁ……」 


「あはは、元気なのはいい事だと思います」


 リリィのバイタリティに圧倒されながら、俺達も解体を手伝う。

 さて、この調子でどんどん進めていこう。













「余が寝ている間に……誰か来た?」

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