第2話 一年間の修行
「おお!! やっぱ行くのはフリオニールか!!」
自室に戻り封筒の中を開けると
【フリオニール魔術学園 入学案内】
と書かれた紙や資料が入っていた。
フリオニール魔術学園とは、実力者を多数輩出してきた世界最大規模の魔術学園……という設定だ。
ランクバトルによって決められたランクによって学生の価値を定め、そのランクが高ければ高いほど優秀な生徒として認められる実力主義。
毎年退学者も出ているが、その分高ランクで卒業できた者はその価値と実力を証明でき、輝かしい未来が約束されるという。
前世でプレイしていたスクスロも、このフリオニールが舞台だった。
輝かしい未来ってかなりフワッとしてるなーと思ったけど、多分就職で有利になるとかかな?
でも馴染みのある場所に現実で通えるなんて夢みたいだ。
「で、入学まで後一年、ねぇ」
俺のステータスや魔法を鍛えるには時間が必要。
DLC武器をいきなり使いこなす、なんて芸当はSSランクプレイヤーでも無理だ。
必要な力が足りない。
いくら知識があっても限界はある。
だからこそ、この残された時間は全て修行に使う。
「よし、行くか」
思い立ったら即行動。
俺は扉を出て、どこか使える場所がないか探し始めた。
メイドや執事達の対応はやや冷たかったものの、誰にも邪魔されない場所が一つだけ見つかった。
「使えるのはここだけ、ね」
誰も使っていない敷地の外れにある広いスペース。
所々ホコリが被っており、ゴミまで捨てられている。
多分、物置として使おうとしてたんだろうな。
だけど屋敷からかなり離れてるし、ゴミ捨て場としても不便だから実質放置状態になっていたと。
少し汚いけど修行するには丁度いいか。
まずは俺の習得魔法から見よう。
~魔法一覧~
”シャドーホール”
”シャドーアイ”
”シャドースラッシュ”
「うげっ、初級魔法しか覚えてないじゃん」
本当に自分の将来を諦めてたんだな。
”シャドーホール”は影の塊で視界を塞ぐ魔法。
”シャドーアイ”は魔法や壁越し、暗闇でも敵をハッキリ認識出来る魔法。
”シャドースラッシュ”は影をまとわせた斬撃魔法。
ハッキリ言ってフリオニールで戦うには不十分すぎる。
チュートリアル突破して、すぐにラスボスと戦えって言われてるようなものだ。
「まずは基礎ステータスの向上、次は魔法の習得、最後は”影竜の刃”の訓練……」
これを一年の間にみっちり詰め込む。
ヤバいね!!
クソしんどそうだわ!!
でもモチベーションなら有り余ってる。
戦術だってわかる。
レベルアップの方法も
魔法の習得方法も
”影竜の刃”特有のクセも
これら全てを会得しなければ、フリオニールでは戦えない。
「俺は更なる高みへと行きたい……ただのSSランクじゃない、No.1のSSランクだ」
前世ではSSランクに到達できたし維持もした。
だけどSSランク内での一位だけは手に入れる事が出来なかった。
学業と両立してゲームやってたからね、流石に時間が足りないよ。
SSランクはSランクの上位五十人だけが獲得できる称号。
その中の一位というのは文字通り最強である事を意味する。
前世でも目指していたが、最高順位は二十で止まってしまい一位にはなれなかった。
あの時達成できなかった一位に、俺はこの世界で再び挑戦し成し遂げたい。
「よし!! 頑張るぞ!!」
こうして一年間にも及ぶ地獄の修行生活が始まった。
~~~
【三ヶ月経過】
「ゲホッ!! ゲホッゲホッ!!」
「ゼクス様、まだまだ行きますよ」
「こ、こぉい!!」
一人で筋トレっていうのもなぁ、とトレーニングに付き合ってくれる人を探していたら、レイという執事が見つかった。
何でも
毎日ボッコボコにされるし、体力魔力ギリギリの所まで動かされてくっそしんどい。
命がいくつあっても足りねぇよ。
「身体能力はかなり向上しましたね。ですが魔法の方はまだまだです」
「うっそだろ、手数もだいぶ増やしたのに」
「戦場は常に予想外の連続。分からなくても対処するのが一流ですので」
「くっそお!! もう一回!!」
苦しみあがく俺に対してレイは無表情ながらも楽しそうだった。
成長していく俺が楽しいのか、それとも久しぶりに身体を動かせたからか。
けど、俺をボコボコにできて気持ちよさそうなのは、攻撃を与えるたびに僅かに上がる口角を見て分かった。
気持ちは分かるが趣味悪いぞ……
こうして俺とレイの修行は更に続いていく。
~~~
【六ヶ月経過】
「”影分身”からのそぉい!!」
「おっと、右わき腹が空いてますよ」
「ぐぇっ!!」
”影竜の刃”の固有スキルを生かして攻めるも、相変わらずレイには一太刀も入れられない。
この武器、現実だとゲーム以上に使うのが難しい!!
まず一つ目の固有スキルである”影ノ一撃”
確定急所という字面は素晴らしいが、当てなければ意味がない。
影魔法自体は全体的にスピードは早めだが、風魔法などに比べたら劣る。
それに使う影魔法の性能自体もそこまでなので、他の環境入りしている適正魔法に比べて当てるのが難しい。
なので動きを読んだり他の影魔法で動きを制限するなどして、当てるための動きをしていくのだが、これが現実だと厳しい。
実際に体を使って動かすとなるとこうも違うのか。
そしてもう一つの固有スキルである”影分身”だが……
「頭いてぇ……」
「戦いながらもう一人の自分を操作するのですから。慣れないゼクス様には負担が重すぎますよ」
「慣れたら強いんだよ……」
ゲームだと分身がプレイヤーの入力した簡単な操作や行動をコピーして動いてくれた。
だが、現実の”影分身”は自分の脳内で直接指示して操作しなくてはならない。
つまり戦闘中に考えないといけない事が大幅に増加し負担がえげつない事に。
割と動かせるようにはなってきたけど、頭痛は相変わらず続いている。
後は慣れるだけっぽい。
「相変わらず不思議な武器ですね。何処で入手されたのですか?」
「気づいたらインベントリに入ってたんだよ。嘘みたいな話だけど」
「嘘はついていない……神様からの贈り物ですかね?」
「俺はそう解釈してるよ……」
転生直後にDLC武器をゲットなんて相当ツイてる。
しかも俺の属性に合った専用武器をだ。
やっている事は相当難しい。
だけどモノにしたら俺は絶対に最強格へと近づける。
前世の知識と現世での修行。
これらを上手く組み合わせる為に今日も修行に励むのだった。
【九ヶ月経過】
「おいおいゼクス、いい加減修行なんて辞めたらどうだ? 醜く
「おっと」
「っ!? なんでかわすんだよっ!!」
「いや、当たりたくないし……」
「このおおおおおおお!!」
今日は屋敷に戻ると次男、つまり俺の兄貴であるルークがおり、俺を見るや否や殴りかかってきた。
ルークはフリオニールの二年生でランクはBらしい。
確かフリオニールのランクは七つに別れていた。
下から順に
E、D、C、B、A、S、SS
Bランクの兄貴はそれなりに優秀なハズだが……
(本当に優秀か? 動きが遅すぎるぞ?)
だけど攻撃があまりにも遅すぎる。
まるでスローモーションでも見てるようでかわす俺の方が困惑していた。
Bランクの実力がこの程度とは。
そんなことがあり得るのか?
(だけどここは家だし、魔法を使ったら父さんに怒られる。きっと兄さんは魔法に特化した戦い方なんだろうな)
スイスイッと兄貴の攻撃をかわしながら考える。
レベルが低いのかと疑いかけたが、絶対にありえない。
俺が経験したランクバトルはBランクでもかなりのハイレベルで、見たこともない戦法を使うプレイヤーがゴロゴロいた。
きっと兄さんも本当の実力を隠してるに違いない。
油断するところだったわ、危ない危ない。
「俺、修行に行ってくるわ!!」
「はぁ!? おいちょ、待て……」
なぜか止めようとする兄貴を振り切って、俺はいつもの修行場へと向かった。
入学まで残り三ヶ月しかない。
最後の最後まで油断せず肉体と精神、そして戦術を考えなければ。
だが、俺は気づいてなかった。
俺自身の実力が、レイによってとんでもないレベルまで引き上げられていたのだと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます