第3話 いざ、魔術学園へ

【十一ヶ月目】


「”影分身”!!」


「ほぉ……まずは囲みますか」


 ”影分身”を使ってレイを囲む。

 

 本体は正面、分身は左右に配置。

 初めの頃は一人動かすだけでも頭が痛くなる程だったが、今では複数体動かしても何の問題のないレベルまで成長した。


「はぁ!!」


 ”影分身”をレイに向かって同時に突撃させる。

 レイはその攻撃を身体を僅かに動かすだけで回避し、その場から一歩も動かない。


 レイの行動は舐めプではない。

 最小限の動きにとどめることで体力を温存し、自身の隙を無くしている。


 この無防備に見える強固な守りを崩すのに、俺は今まで苦労していた。


 その日々も、今日で終わらせる!!


「”シャドーホールズ”」


 空中からいくつもの黒い弾が降り注ぎ、地面に円状のスモークが展開される。


 そのスモークの中に分身を含めた三人が入り込む。


「なるほど、見えない場所から奇襲ですか」


 円状のサークルから再び同時に飛び出す。

 素早く飛び出した三人をレイは冷静な表情でじっと見つめ、短剣を構える。


「最初は本物……残念でしたね」


「ぐっ!!」


 敢えて最初に本体が突撃、という考えは見透かされ、俺の振り下ろした剣がナイフで軽々と受け止められる。


 受け止められた剣を滑らせるように動かし、俺の身体が明後日の方向へと飛ばされる。


「まだまだぁ!!」


 分身二人の剣がレイに迫る。

 首元と足元。


 喰らえば致命傷は確実と思われる場所に刃が近づくも、


「甘い」


 軽くジャンプをしナイフを使って攻撃を逸らされる。

 上手い奇襲だと思ったのに!!


「ふふ、ですがいい作戦でしたよ」


 悔しそうにしている俺にレイは成長する我が子を見守るような表情を浮かべた。

 

「……”シャドーブレード”」


「っ!?」


 その悔しそうな顔をしている所までが”作戦”とは気づかずに。 

 突如レイがいた地面から黒い短剣がビュンッ!! と飛び出したのだ。


「どーよ俺のトリックは!!」


 さっきの奇襲は罠。


 最初に突撃したのも”分身より先に俺が攻撃する”という部分に注意を向ける為。


 レイは俺の行動に視線がいき、足元に影魔法の短剣が仕込まれたことに気付かなかった。


 後は苦し紛れに分身を突撃させたと思い込ませて、地面の短剣を放てば……!!


「くっ!!」


 すかさずナイフを構える。

 だがレイの状況は悪い。


 空中という身動きが取れない場所。

 想定外の奇襲。


 それらが合わさり、レイに満足な防御を取らせることを防いだ。


「っ!!」


 スバァ!!


 ナイフをかすらせ、短剣がレイの頬に傷と赤い血を流させた。

 やっとレイに攻撃が!!


 今までレイに攻撃が当たったことなかったから凄く嬉しい!!


「あいてっ」


「最後まで油断は禁物、ですが私に攻撃を与えるとは……成長しましたね」


「成長したよな!? あー頑張った甲斐があったわぁ」


「ふふっ」


 いつの間にか近づかれ、頭を軽く小突かれる。

 

 今までレイには一太刀も攻撃を与えることができなかった。 


 だけど俺がフリオニールに行ってしまうギリギリのタイミングで、当てることが出来た。

 

 身体能力も、魔法も、”影竜の刃”の固有スキルも 

 必要だと思う物は大体習得できた。


「本当にありがとうな、レイ」


「いえいえ、未来の主人の為ですから」


「未来の? 俺は三男だぞ?」


「それはどうでしょうかねぇ」


 何故含みのある言い方をするんだ……まぁいいや。

 

 残り一ヶ月はフリオニール魔術学園に行く準備に時間を費やして身体はある程度休もう。


 入学当初から筋肉痛で過ごすなんてごめんだからな。


~~~


「遂にフリオニール魔術学園が……!!」


 国よりちょっと離れた場所。

 大きな荷物を抱えながら馬車を降りると、目の前に巨大な学校が現れた。


 フリオニール魔術学園。 


 ランクバトルという特殊なシステムを導入し、学校の運営に関しても生徒会を初めとした生徒主導の組織の力を大きく借りているとか。 


 設定では街一個分の大きさがあると言っていたが……これは想像以上だな。


 文字通り世界最大の学園だ。

 俺の生活が今日ここで始まる。


「新入生の皆さんは部屋番号を受け取った後、自室にて荷物を預けてくださーい!! 寮の案内は係りの者が行うのでー!!」


「さて、行くか」


 係りの者に案内されるがまま、部屋番号の紙を貰いに行く。

 フリオニールは全寮制だ。


 既に入学者だけで校門付近が埋め尽くされており、前に行くだけでも一苦労だった。


 それでも少しづつ進んでいく波に従いながら前へと行き、俺は部屋番号の紙を受け取る。


「そちらが部屋番号と初期ランクとなりますので、無くさないようにお願いします」


「初期ランク?」


「フリオニールでは入学前に頂いた生徒の情報を元に初期ランクを決めます。そのランクによって寮も変わっていく仕組みです」


 って事はランクによる格差はかなり酷そうだな。


 ざっくりとした想像だが、高ランクに行けば豪華な寮に住めて低ランクだとボロい部屋になる気がする。


 下に行けば行く程治安も悪くなるだろうし、あんま下のランクには行きたくないな。


 さーて、俺の初期ランクは……


「E……ランク……!?」


「E〜Dランクの方はこちらでーす!!」


「え、あ、はーい!!」


 紙に書かれた初期ランクに驚きつつ、係の人の元へと向かう。

 あれだけ修行したのに最下位からスタート!?


 マジかよ最悪な始まり方だな。


(弱く見られがちな影魔法と一年前のデータを元にしたのか?)


 一年前の時点で俺の入学は既に決まっていた。

 つまり、あの時点で俺はEランク相当の人間だと思われていたワケだ。


 かー、クソシステムじゃねえか。

 もっかいやり直してくれよ。


(ま、ランク盛ればいっか)


 多少手間が増えただけ、と考えればいい。


 一年間の修行を得た俺なら、少なくともCランクまでは余裕で行けるはず。

 勿論、将来的にはSSランクも行きたいし最初からそのつもりでフリオニールには挑んでいる。


 スタートダッシュに失敗した感じもするが、俺の学園生活が幕を開けた。


〜〜〜


「やっぱりボロいなぁ」


 指定された寮に向かい荷物を預け終わったのだが、まぁ酷い。


 見た目は築何十年も経ったボロアパートって感じだ。

 所々落書きされており、壁や階段はボロボロで見るに堪えない。


 そして中は六畳一間ろくじょうひとまでまぁ狭い。

 一応トイレや風呂、キッチンもあるがぎゅうぎゅうに押し込まれており、設備もかなり古そうだった。

 

「うわ、隣の音まで聞こえるなぁ」


 窓も壁も薄くて音漏れしまくっている。

 こんな所に住むのか……せめて冬までには脱出したい。


(後、周りの人間がかなり殺気立っていた……闇討ちされてもおかしくないぞ)


 どいつもこいつも不良のような荒々しい外見で、素行の悪い態度を周りに振りまいている。

 多少の喧嘩ならなんとかなるが、できれば関わりたくない。


 関わるとしても、可愛い女の子が襲われた所に颯爽と参上!! 


 くらいのイベントが無いと動く気に、


「おいおい、随分可愛らしいじゃねえか俺と遊ぼうぜぇ!!」


「や、やめてください……!!」


「へへっ、こいつビビって腰抜けてやがるぜ!! 最高だぁ!!」


 どうやらその時が来たらしい。

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