第89話 ランズリード侯爵領へ
俺が笛を吹くのを止めると、後ろから付いてきた子供達もその場に立ち止まる。
そして、俺達を追ってきたオーリア達が駆け寄って来た。
「その子供達かい。よく助け出したね」とオーリア。
「追手がないけど、どうやったんだい?」とルビー。
俺の後に付いてきた子供達は、ちょうど30人いた。今は、放心した状態でキョロキョロと周囲を見回している。
砦からの追手は、まだ無いようだ。
フィアは何処に行ったのかと探していると、目の前に姿を現した。
突然現れた髑髏の頭部を持つフィアに、何故か誰も驚かない。
俺がそのことを不思議に思っていると、
「我が力で、余計な警戒を失くしている」
「そんなことが出来るのか。追手が無いのも、フィアがやったのか?」
「ああ、あの笛の音の効果の長さは、我が自在に出来る」
「それなら、今のうちに出来るだけ離れておくとするか」
「この子供達をどうする?王都まで連れて行くのはとても無理だぞ」とルビー。
「伯爵領の領都に行くか、それとも山の民を探して預かってもらうか」と俺。
「山の民は無理だぞ」とサイツが口を挟む。
「いっそのこと、隣の領地に行くのもありだよ」と、珍しくクレラインが提案する。
「隣の領地?」
「ランズリード侯爵領だ。私は暫らく居たことがあるが、よい政ごとが行われていた。それに、伯爵より格上の侯爵領に入れば、伯爵の手下も追って来られないだろう」
「テレナは、証拠が掴めたら影が現れると言っていたが、直ぐには現れないだろう。どうやって、そのことが分かるのか方法が知りたいけどな。たぶん、千里眼のようなスキル持ちがいて、見張っているんだろう。影が現れるまで、隣の領地に向けて移動しておくのもありだな。いざとなったら、隣の領地に逃げ込めるように。しかし、侯爵領まで、どれ位の距離がある?そこに着くまで、子供達が耐えられるのかも問題だ」
「あの尾根を越えたら、直ぐに侯爵領の筈だ」とクレラインが、右前方に見えている尾根を指しながら、
「伯爵の手下に見つかったら、この子達は、また奴隷に逆戻りだ。迷ってる場合じゃない」いつになくクレラインの主張が強い。
「子供のことは、笛を吹いておれば、疲れの心配はない」とフィア。
「それなら、子供ことは笛の力に頼るとして。隣の領地に向けて移動しよう。クレライン方向は分かるか?」
「任せてくれ」
クレラインを先頭にして歩き出したが、俺は笛を吹き続けているので、会話が出来ない。そこで、前にルージュを通じて念話でルビーと意思疎通が出来たことを思い出して、念話でルビーに話し掛けることにした。
『ルビー、オーリアと手分けして、子供達と周囲を注意してくれ』
「言われなくても注意しているよ」とルビー。
オーリアが、ルビーをチラッと見て、直ぐに前を向くが、2人は、俺の後ろから付いて来る子供達の更に後ろを歩いているので、俺から姿が見えているわけではない。
俺の前を歩いているのは、道案内を買って出たクレラインと、クレラインに特に懐いている馬のディアスだけだ。フィアは、俺が呼んだとき以外は、姿を消している。
サイツはルビーの近くを歩いている。
アンデッドにした貴族や伯爵家の影は、ルージュの命令で何処かに行ってしまった。この4人を始め、俺達を襲ってきた奴等からドレイン出来たスキルは光魔法1だけだった。
『ステータスに表れるスキルや魔法は、俺はもうほとんど持っているということなのだろうか?』
トラディション伯爵領とランズリード侯爵領の間にある尾根は、高さが700メートル位で、俺達だけで登るならそれほど時間が掛からない。
しかし、幼児と言ってもいい子供を30人も連れている。この子供達に山登りは無理だ。
では、どうするか?
笛を吹きながら思いついたのは、フィアの眷属に運ばせることだった。
俺は笛を吹くのを一旦止めて、
「フィア、この子達に、山登りは無理だ。眷属のスケルトンに子供達を抱えて運ばせることは出来るか?」
「なるほど、良い思い付きじゃ。しかし、スケルトンは、一度に20体しか召喚出来ぬ。数が足りぬの」
「俺がオークを2体とスタンジーを召喚する。オークなら2人ずつ、スタンジーなら4人は同時に抱えることが出来るだろう。残りは俺達の誰かが抱える。フィアは、誰にも俺たちに気が付かないような魔法を使って欲しい」
「隠蔽するには笛を吹き続けることが一番じゃ。スケルトンのことは承知した」
フィアの言葉に従って、俺は再び笛を吹き始めた。
同時にフィアの周りに、20体のスケルトンが現れた。スケルトンはフィアの指示で、それぞれが、1人の子供を抱き抱えた。子供達は笛の音に魅了されている為か、スケルトンに抱えられても怖がりもせず、ニコニコしているだけだ。
続いて俺がアレックスとバートとスタンを召喚する。
アレックスとパートは、武器を持っているので、片手に1人ずつしか子供を抱けなかった。しかし、スタンは予定通り大きな腕で4人を抱えることが出来たので、残された子供は4人になった。
俺は笛を吹いていて手が離せないので、サイツ、クレライン、オーリア、ルビーが1人ずつ子供を抱き上げた。
ギリギリだったが、何とか手が足りた。
周囲の警戒は、姿を消したフィアに任せて、俺達は、山の尾根を目指して進んで行った。
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