第88話 ハーメルンの笛
「カカカッ」
召喚するなり、笑い声を上げるリッチ。
「まさか、そなたに、あのような技が使えるとは思わなんだ。我の不覚じゃったわい」
「お前は、俺と戦っていたリッチか?」
「当たり前じゃ。さればこそ、そなたの呼び掛けに応えたのじゃ。我を倒せぬ者には、召喚されたところで応じぬわ」
「召喚って強制じゃなかったのか?」
「何事も力関係じゃ。それよりも、我に名前を与えよ」
「命令口調か、調子が狂うな。だけど、まあいい。名前だな、ちょっとまて。いま考える」
「早くせよ」
「うるさいな、待てって言ってるだろ」
目の前に現れて点滅している文字も名前付けを促している。
眷属 リッチ
名前を付けると強化される。
「おっ、そうだフィアはどうだ。恐れという意味だ」
「フィアか、気に入った。我は、フィアじゃ」
そう言って頷いたリッチの体が一瞬光った。ステータスを見ると、
名前 フィア
種族 眷属リッチ
性別 女
固有スキル 冥界魔法、アンデッド復活、デス、ヘルゲート
筋力 B-
耐久 B++
俊敏 C++
魔力 SS
抵抗 S
ス
キル ケルベロス召喚1、スケルトン召喚20、火魔法9,闇魔法28、カース18、念動力23
状態 ダブリンの眷属
とんでもなく強い魔物だった。よくこんな奴に勝てたもんだ。
ん、それよりも、性別があるぞ。
「フィアは、女なのか?」
「何百年も前のことではあるが、我は女であった記憶があるぞ。どんな顔や姿をしていたのかは忘れたが」
「そうか、何百年も前か。生きていた頃を見てみたい気もするが、それよりも大事なことがある。ここに子供達が囚われているんだが、まさか、お前に捧げる生贄とかじゃないよな?」
「ふむ、人間どもが生贄と言って、定期的に連れて来ておったな」
「お前は、その子供達をどうしたんだ?」
「我に生贄など必要ない。子供はここで暫く置かれてから、人間どもが連れて帰っていたはずじゃ」
「そもそも、お前はここで何をしていたんだ?」
「我は、かなり昔に、ある魔導士に召喚されて、この洞窟に縛られていたのじゃ。あの人間どもがやって来たのは、だいぶ後の話じゃ」
「それじゃあ、伯爵家に召喚された訳ではないんだな」
「違うな。ここに来た人間どもは、我を恐れて生贄として子供を連れ来おる。我には関係ないから無視しておったが、定期的に子供を連れて来ては、また連れて帰るということを繰り返しておったぞ」
「それなら、なんで俺に襲い掛かって来たんだ?」
「襲い掛かって来たのは、そちらであろう。我は、ただ声を掛けただけだ」
「ん、そうだったのか?しかし、妙なものを連れて来たとか言っていなかったか?」
「そなたが怨霊を連れていたからじゃ。そんなものを連れていたら、魂を食われてしまうぞ」
「そうか、それを、俺が攻撃されたと勘違いしたのか?悪かったな」
「それは良い。お主に倒されたお陰で、この地から解き放たれたからな」
こいつは戦う気が無かったのかも知れない。本気を出せば、俺なんかは簡単に殺せるステータスだから、きっとわざと負けて、解放されたかったのだろう。
だから、
「俺の眷属になったことはいいのか?」と聞くと、
「数百年も続いた退屈よりはましじゃ」と答えた。
「達観しているんだな。それなら協力してくれるか。ここにいる子供達を助けたいんだが、何かいい知恵はないか?」
「ふむ、それでは、お主に笛をやろう」
フィアは、空中から小型の縦笛を取り出して、俺に渡してきた。
「これは?」
「この笛を吹きながら洞窟を出れば、子供達がついて来る」
「うん?何処かで聞いた話だな?」
「そなたの記憶から、今の目的に合った物を創り出したのじゃ」
「それじゃ、やっぱりハーメルンの笛か?」
「我は、元の話までは知らぬ」
「それなら、それはいいとして、子供達を連れ出したいのは、ここの洞窟じゃなくて、ここの砦なんだけどな」
「その笛を吹き続けて砦の外まで連れて行けばよい」
「いや、そんなことをすれば砦の奴らに邪魔されるじゃないか」
「その笛を吹いておれば大丈夫だ」
「精神干渉みたいなものか?」
「我がその笛に与えた特殊な力だ」
「俺は曲なんか吹けないぞ」と言うと、
「笛に任せればよい」と言われた。
俺は、捕らわれている子供達のところに行き、飢えて疲れ切った顔をした子供達を檻から出して、その前で笛を吹いてみた。
俺の指と口が勝手に動き、知らないメロディを奏で始めた。
放心して、虚ろな瞳をしていた子供たちの顔に生気が戻り、俺が歩き始めると、子供達が後ろから付いてきた。
俺の口と指は、俺の意思とは関係なしにメロディを奏で続けて、俺はそのまま子供達を連れて進み、3層から2層へ、2層から1層へと進み、更に坑道の外へ出たが、坑道の入口を見張る兵隊たちは俺達を見て、黙って坑道を閉鎖している建物の扉を開けた。
俺は、俺の意思に関係なく知らないメロディを吹き続け、俺の脚も、俺の意思に関係なく、坑道から砦の門に向かって歩き続けた。その後ろを、子供達がぞろぞろ付いてくる。
砦の門のところに来ると、砦の兵隊たちが、またもや何も言わずに門を開き、俺と子供達は砦の外に出た。
俺の脚と笛は、なかなか止まらず、砦からかなり離れたところまで歩き続け、その後を、子供達が続いている。その間も、俺達を咎める者はいなかった。
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