第7話 天使も悪魔も共に消え(ネタバレ注意)
米映画「ザ・メニュー」2022年
拙著「B級映画の社会学 韓国映画の激情 V.3.1」2023年4月2日の内、「第4話 ザ・メニュー(2022年製作/107分/R15+/アメリカ)」を改編して再度掲載します。
人間、腹が減ればなんでも美味しく食べることができる。
寺での食事に招待された時の将軍、徳川家光は、毎日美味いものばかりを食べている「美食(飽食)家」で有名でした。
しかし、寺に到着後、数時間も待たされて腹の皮がくっつきそうなくらい空腹になった末、坊主から出されたごく普通の沢庵(漬け物)だけで、白飯を何杯も(うまいといって)食べたという。
「ザ・メニュー」という映画に登場するシェフも客も「空腹が一番の調味料」ということを知らない、頭でっかちのインテリ・成金といった「社会的な著名人ながら人間的には軽薄」の部類に入る人たち。
貧乏で頭が悪く底辺の私には、そう見えます。
そんな中、他の客に比べれば極めて貧乏で、気取った頭でっかちのインテリではなく、「身体を張って・肉体を酷使して・汗水流して働く売春婦」という一人の女性だけが、「こんなチャラチャラした料理なんか食えるかよ、あたいはチーズバーガー(日本で言えば、美味い米の飯と梅干し味噌汁)が食いたいんだ !」と啖呵を切る。
ところが、そんな彼女のお下品な言動に呆れる「常識」人たちを尻目に、彼女一人がこの狂った茶番劇ともいうべき「非現実的仮想の狂宴」から解放される。言ってみれば、彼女一人が「コギト・エルゴ・スム 真の我れ」に目覚めたが故に、精神の崩壊から免れた、というわけです。
人間、やはり、頭でっかちの「えせインテリ」ではなく、身体を動かして汗水かいて働く人間だけが、究極の場で正気を保持し生き残ることができる、ということを「教えて」くれる映画、というのが私の感想でした(2023年4月2日)。
ただ、ひとつ引っかかったのは、かの映画では、シェフという「権威」と、彼を盛り立てる料理人たちという「権力」もまた爆沈する、ということだったのですが。
それから約一年、昨今の日本を見れば、あの時の感想はより増幅され、こんな風景が見えてきた。
米映画「マトリックス3部作」に搭乗する「ソース」のような絶対的な存在にとっては、地球の裏側の小さな島(国)の権威や権力など、北極のシロクマや南極のペンギンと同じ価値しかない。
故に、権威や権力という偶像に翻弄される「頭でっかち・情報に翻弄される」日本人は、太平洋戦争の時と同じく全滅はもちろん、天皇・首相・元帥・教祖といったシェフ(権威)、警察や銀行家や軍隊という料理人たち(権力)もまた、それが運命ならば、消えてしかるべき。
そして、野暮なインテリや政府やマスコミのプロパガンダに簡単に欺されるスマホ人間、そして、「彼ら」にとってはチェスの駒でしかない「時の権威や権力」も消えたあとには、本当に「コギト・エルゴ・スム」、しっかりとした我(われ)」という存在感を持つ「シロクマやペンギン」だけが、再びこの島で繁殖する権利を与えられる。
但し、次回は真打ち登場となり、直接的支配者の層がもう一つ増えるのであろうか。
2024年1月23日
V.3.1
平栗雅人
時計仕掛けのオレンジ 悪魔はそこにいる V.3.1 @MasatoHiraguri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。時計仕掛けのオレンジ 悪魔はそこにいる V.3.1の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます