第31話 変態 Part.2

 シスイとルーベの決闘が終わった、その日の夜。


 ルンルンとスキップをしながら、シスイの部屋に堂々と入る者がいた。


「フンッフフ~♪ シッスイ様~♪」


 満面の笑みで鼻歌を歌うエリスであった。


 その行動は、もうはやシスイを舐め切っているようにも見えた。


 というか、舐めている。


 だが、歩く騒音エリスがそんなことをしても、シスイが起きる様子は無い。


 なぜならシスイは、メチャクチャ睡眠が深いからだ。


 そのためエリスは、シスイの睡眠の深さを熟知しての行動だった。


 その勢いのままエリスは寝室の扉を開け、シスイの寝ているベッドへ当たり前のように腰掛ける。


 その一連の行動は、まさに手練れそのものだった。


 毎日毎日、そうしているのだから当然だろうが、余りにも躊躇いが無さ過ぎる。


「わたくしが会いに来ましたよ! シスイ様!」


 そう元気よくエリスが挨拶しても、シスイは静かな寝息を立てており、やはり起きる様子など無かった。


 まるで、永眠でもしているようにも見えるほどの熟睡っぷりだ。


「シスイ様……」


 エリスはシスイの右手を両手で包み込む。


 これも、エリスが犯している犯罪行為の中のルーティンの一つだ。


 そしてエリスは、毎回の如く一方的に語り掛ける。


「わたくし……シスイ様がルーベさんとの決闘を断ったとき……この世の終わりかと思いましたよ? まさか、このままわたくしとルーベさんが結婚をしてしまうのだと……大好きなあなた様と結ばれないのだと……本気でそう思っていましたから……」


 しかし、と言ってからエリスは、沈んだ表情から明るさの中に不気味さを含んだ微笑へと変わる。


「シスイ様は戦わなくとも、わたくしと婚約を結べるとお考えになりましたが、ふとお考えが変わりましたよね? やはり、わたくしと結ばれるには皆に知らしめなければ、証明しなければ……と」


※違うよ? シスイはただ、ルーベ君にバカにされたから勝負を引き受けただけだよ。 


「シスイ様ったら……真面目なんですから……。どれだけ、わたくしたちの愛を多くの人々に祝福されたいのですか……わたくしはあなた様から愛で十分……いえ、傍にいるだけで、笑顔を見れるだけで……わたくしの心はシスイ様で一杯になるのですよ? ふふ……でも、そのお気持ちは凄く嬉しいです。さらに、あなた様のことが……だ、大好きになりました……」


※確かにシスイは、真面目で信念を貫き通すことができる、強い覚悟を持っている。そこは、間違っていないね。だけどね、エリスさん……君は一体いつ、シスイの笑顔を見たんだい? 見たことないよね! というか君、重たいよ! 愛情が!


「ルーベさんとの戦いも……物凄くカッコ良かったです。この世界で最も速さを誇る『光』の属性魔法を持っているルーベさんに、いともたやすく勝って……。あ、あの! 別にシスイ様が勝てないとか思ってないわけじゃないですからね! あっ」


(さ、流石に大声を出し過ぎたような気が……)


「スゥ……スゥ……」


 大声で言い訳をしていたエリスが、そう不安になりシスイの顔を見ると、シスイの安らかな寝息を立て起きる気配はなかった。


 それ見て「ふぅ……」と胸を撫で下ろすエリスは、寝ているシスイにある報告をし始める。


「シスイ様……シスイ様の言った通り、先ほどお父様にこの決闘でわたくしの婚約を賭けたことを報告したのですが、お父様は婚約破棄をしてくださいました。スゴイですね……シスイ様は、お強く美しいだけでなく……聡明なお方で……非の打ち所がないではありませんか! もう!」


 エリスはシスイの頬に指を沈ませる。


 するとシスイは、「あぁ……」と吐息を吐き出した。



 その瞬間、エリスは発情した。



「はぁ……! はぁ……! ……っぐ!」


(な、何なんですか! あの甘くて確実に女を堕落させる吐息は……何なんですか!! 誘ってますよね……誘ってますよね!! シスイ様!! ですが……わたくしは負けません!! 性欲なんかに……絶対負けません!!)


 息を荒くし自分の醜い劣情を必死に抑えるエリスだが、


「はっ……!!」


 シスイの白く美しい鎖骨が目に入ってしまったことで、余計に性欲が搔き立てられ限界ギリギリの状態に陥ってしまう。


(こ、このままでは……!! 本当にシスイ様を襲ってしまいそうです……!! 何とか、この醜い性欲を消し去れなくては……っ!!)


 そう思ったエリスは、シスイを見ないように思いっきり瞼を閉じ、盛大な深呼吸をして心を落ち着かせると同時に、綺麗な空気を取り入れて性欲を吐き出した。


 すると次第に、性犯罪者と化そうとしていたエリスは、ただの変態と戻りつつあった。


※急に、深呼吸してどうしたの? いつものあれはしないのかい?


 そう誰かが思った、次の瞬間―――。


「し、シスイ様……わ、わたくし……己の汚い欲望に打ち勝ちました……勝ってみせましたよ……はぁ……はぁ……」


※あっ、この雰囲気は……。


「きょ、今日は特別ご褒美として……し、シスイ様の足を……清めさせていただきますね……」


 エリスは待ちきれないのか、涎を垂れ流すが、布団をめくる時は慎重でそっとめくり、シスイの生足をじっとりねっとりと舐め回すように見る。


 そして、


「―――はむっ」


 足指を一つ一つ丁寧に、忠犬の如く舐めるのだった。


※やっぱり、やるんだね。しかも、今度は足ときた。中々マニアックだね、君は。


 だけどさ……。


「レ~ロレロレロレロレロ―――」


※こういうことしてるけど、この子はシスイに事を襲わないんだよね。変態な行為をするだけで。普通、こんなことをしたら性欲に駆られると思うんだけど……この子はそんなことをしていない。凄い自制心を持っているよこの子は、感心するよ。


 誰かは、エリスの本能と理性の激戦など露知らず、尊敬の念を抱く。


 そして、エリスの変態的な夜は続いていくのだった―――。





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