第28話 覚醒と始まりの予兆
「逃げずによく来てくれたな……てめェらッ!! 公開処刑の時間だッ!! アッハッハッハッ!!」
「「「きゃぁ~~~!! ルーベ様~~~~!!」」」
ルーベが目の前にいるシスイを両手を広げて煽ると、観客席のほとんどを占めている女子生徒500人が歓喜の声を上げた。
ルーベは1から3学年のほぼ全ての女子生徒を攻略しているため、相手を容易く散らすカッコ良い姿を見てもらうために招集したのだ。
そんな彼らを見て、シスイは憐みを抱き忠告する。
(ルーベも女たちも……これから目の前に現れる現実は、お前たちの望んでいるようなものではない。特に女ども……今すぐ帰った方がいい。確実に後悔するぞ)
「シスイ様……あまりルーベさんをイジメないでくださいね……ぽっ」
「何を言っているんですか? エリス様」
謎に惚気るエリスに、マリカは容赦のないツッコミを放つ。
エリスとマリカが座っている観客席の周囲は勿論、ルーベを応援する女子生徒たちが座っているが、二人とも余裕そうだ。
おそらく、エリスとマリカは、シスイの勝利を確信しているだろう。
しかし、エリスは気づいていない。
―――シスイが戦う、本当の理由を。
「それでは、両者とも準備はよろしいですか?」
少し離れた場所でそう言ったのは、一年Sクラス担任のローラだ。
この学園で決闘を行う場合は、教師の立会いのもと行われるのだ。
ローラは、シスイとルーベが決闘をするという話を聞きつけ、自ら名乗り出て立会人となった。
その理由は―――。
(転校早々、ルーベ君に目をつけられるなんて思わなかったけど……今、私はあなたへの好奇心で一杯だわ。エリス様の『専属騎士』となったその力……たくさん私に見せて頂戴……シスイ君)
シスイを心配しているというのもあるが、一番は実力を間近で見たかったからだ。
「いつでも、いいぜ」
ローラの確認に、ルーベは待ちきれない、と言った様子の歪んだ笑みで答えるが……。
「こちらも大丈夫だが……お前、剣は持たないのか?」
シスイはルーベに注目すると、そこには剣や刀などといった類の武器を携えていなかった。
そのため、シスイはそう問いを投げた。
「あぁ……剣なんてものは……俺には必要ねェからな……」
「そうか」
ルーベはその問いに意味深な感じで返答するが、シスイは全く気にしない様子でそう言った。
そして、ローラは双方の顔を見て、決闘が始められると判断し合図をする。
「では―――始めてください!」
その合図と同時に、
「≪
ルーベは呪文を唱えると、つま先から頭頂部にかけて、白い魔法陣が通り一直線にシスイに向かう。
「る、ルーベさんが消えました!」
エリスが観客席から驚愕の声を上げる。
無論、エリス以外の観客らもルーベが消えたように見えている。
なぜなら、≪
彼らが消えたという認識をしてしまうのは、当然のことだ。
―――ただ、シスイだけは別であった。
(初動で何の溜めもなく、あのような速度を出せるということは……光の使い手か……。なるほど、道理で序列1位になれるわけだ。どうやら、ただの噛ませ犬ではないようだな)
シスイは、そんな思考ができるほど余裕があり、普通に一直線に向かうルーベを視認していた。
(しかし―――)
「死に晒しやがれェエエエエエエエエッ!!」
ルーベは≪光魔法≫で剣を作り、シスイの首を断とうと大振りを放つ。
シスイは≪アカツキ≫を使って防ぐ必要も無い判断したのか、人差し指と中指で挟んで止めた。
「ッ!? クソ……!! 動かねェ……!!」
一瞬、ルーベを目を見開くが、自身の攻撃が届かなかったことを察知し、全身の力を使って剣を押し込むが微動だにしない。
(たった、指二本のみでルーベ君の攻撃を防いだ!)
ローラはシスイの圧倒的な防御に驚愕する。
しかし、それはローラだけではなかった。
「う、嘘でしょ……!? だって、ルーベ様はあの攻撃で今まで瞬殺していたのに……」
「まさか、あの男……!! ルーベ様の≪
観客席にいる、ルーベに好意を持っている女子生徒たちが、ザワザワと落ち着かず困惑していた。
それだけ、目の前の現実が受け入れられなかったのだろう。
「ふふっ、流石わたくしのシスイ様です!」
「何でエリス様が誇らしげにしてるんですか? それに、シスイ君はシスイ君のものですよ」
胸を張って鼻を高くするエリスに、マリカはツッコみ正論を言うと、特段エリスは気にしなかった。
頭の中がシスイで溢れているからだ。
「俺様と戦った奴は全員、今の攻撃で仕留めていたのに……何故ッ!! お前まさか……俺様のことが見えていたのか……!!」
「あぁ」
そう言って、シスイは指に力を込めると、光の剣はバリンッと割れた。
「ッ!? 俺様の剣が……!!」
「確かに俺はお前の動きが見えていた。しかし、お前の姿を捉えることができなくとも、俺はお前の攻撃を防げる」
光の剣が折られ目を見開くルーベに、シスイはそう言った。
「なッ!? どういうことだァ……教えやがれェッ!!」
牙を剥くルーベはシスイの発言が気になり、上から目線ではあるが教えを乞いた。
シスイはそんなルーベを見て、「はぁ……」と呆れた溜息を漏らす。
だか、シスイはルーベに悪印象を抱いているにも関わらず、何かの気まぐれからか、珍しく疑問に答える。
「単純な話だ……お前は攻撃をする所に―――『殺気』を向けている。だから、俺はお前の攻撃を予測できる。それだけだ」
「そ、そんなことでッ!? 俺様の攻撃が読めるだとッ!?」
「あぁ」
鋭く睨みつけるルーベに、シスイは短くそう返してから、更に言葉を続けた。
「お前の攻撃は単調かつ殺気を放っている。それは、実戦において命取りになる行為だ。攻撃が当たらないならまだしも、完全に読まれてしまえばカウンターされ、そのまま最悪死に至るからな」
「だ、だか俺様の攻撃を読める奴な誰も―――」
「今までお前と戦ってきた人間が、お前と同じく実戦経験がほほ皆無に等しいからだ。容易に勝利を得て来れたのは、それが理由だ」
「ッ!?」
ルーベはシスイの言葉に驚愕する。
(どうやら、自分でも思い当たる節があるみたいだな)
ルーベの反応を見て、シスイはそう確信し非情な現実を突きつける。
「たった一度の攻防で全てが分かっただろう。お前は『最強』でもなければ、『優秀』でもない」
「違うッ!! 俺様は究極で完璧で顔も……才能も能力も……何もかも秀でていて……ハイスペックを体現化していて……最強で……天才で!!」
ルーベは自己暗示を掛けながら、目を強く瞑り両手で強く耳を塞いだ。
しかし、シスイはは止まらない。
「生まれ持った才能に溺れ、努力を怠り慢心しているだけの」
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う―――」
「―――外の世界を知らない、籠の中の鳥だ」
「違ァアアアアアアアウッ!!!」
ルーベが天に向かって吠えると、ルーベは魔力を放出し、その体から光の柱のような現れた。
「くっ……!!」
「「「きゃあああああああッ!!」」」
ルーベの魔力に発生した眩い光と風圧を、ローラと観客らは腕でそれらを防いだ。
「……ッ!」
「な、何なんですか……! あの高密度な魔力は……!」
無表情のマリカでもこの魔力の圧には、僅かに顔を歪ませ、エリスは腕の隙間から光の柱を覗き込み、驚愕した。
(ここからが……本番ということか……)
「はぁ……」
シスイは溜息を吐いた。この後にある戦いの続きに対して、嫌気が差したのだろう。
だが、ある所でその光を見た者は、そんなシスイの気持ちとは対照的であった。
「へぇ~、負の感情が込められた、中々良い魔力だね~。ふふっ、彼で試してみようかな」
―――憎きあの小僧を消せるかどうか。
楽しそうな声で独り言を言うのは、王都の空中に佇んでいる一人の少女だ。
「百聞は一見に如かずって言うもんね。もう少し近くで見ようかな」
そう言って、少女は第四闘技場へと向かっていくのだった。
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