第27話 愛?の証明
「お、お前! この勝負は序列だけじゃなくエリスも賭けてんだぞ!『専属騎士』あるまじき行為だ……! お前、本当にエリスの『専属騎士』かァ!! アァンッ!!」
「そうですよ! なぜ、勝負を断るのですか! ここは、わたくしの『専属騎士』として『私がお守りいたします。エリス様』と言って、勝負を引き受ける場面ですよ~! むぅ~!」
ルーベは俺に怒号を飛ばし、エリスは頬を膨らませ怒っていた。
そして、クラスメイト達もそんな二人に同調するかのように「そうだ! そうだ!」と拳を突き上げていた。
お前たちが俺に反感を持つのは分かる。確かに、俺が言ったことは『専属騎士』としてあってはならない行動だ。
しかし―――。
俺はエリスに顔を向ける。
「エリス」
「そうだ! そう―――はい? 何でしょう、シスイ様」
途中まで、クラスメイト達と共に声を上げていたエリスが、きょとんとした顔で俺を見る。
こいつ……。
エリスがクラスメイト達の野次に加わっていたことに腹が立ったが、怒る気持ちを殺し本題へと移る。
「お前は俺を『専属騎士』になって欲しいと言い、最終的には、国王が俺を『専属騎士』になることを認めた。そうだろう?」
「は、はい……そうですけど……」
エリスは俺が何を言いたいのか分からず、戸惑いながらそう言った。
「つまり、俺が何を言いたいのかというと―――この勝負の内容は、遠回しに国王の決めたことを何の権利も無く剥奪させようとする行為、ということだ」
「「「!!」」」
クラスメイト達とエリスが目を見開いた。
その反応……どうやら、俺の言いたいことが伝わったみたいだ。
「よって、俺がこの勝負を断ったとしても、この行為を逆手に取れば、お前は望み通り婚約破棄をできる。いくら、国王が血筋を重んじる人間だとしても、自身の愛娘を勝負の賭けにするような奴が婚約者になることは無視できないからな」
まぁ、本音としてはただ面倒くさいだけだが、この方便でも辻褄は合うだろう。
すると、「確かにあいつの言う通りかもな」と、口々に俺の言ったことに納得している声がチラホラと聞こえた。
一方、エリスは―――。
「確かにシスイ様の言う通りです! 後でお父様に婚約破棄を……! い、いえ、どこか……どこか違うような気がします!! わたくしは……! わたくしは……!! あぁああああああッ!!」
一瞬だけ婚約破棄をできるかもしれないと喜んでいたが、途中から様子がおかしくなり、最終的には人が目の前で殺されたかのような絶叫を上げた。
俺はエリスの望みを叶えたと思うのだが、その姿を見て自分のしたことは間違っているのか、正しいのかどうか分からないため、マリカに尋ね確認を試みる。
「マリカ、俺のしたことは間違っているか?」
「………間違ってはいないけど、間違っているわね」
どっちなんだ、それは。はっきりと教えて欲しいのだが……。
そう不満を抱いていると、
「―――ふざけるなァアアアアアアアッ!!」
突如として、ルーベが強力な魔力を放ちながら、怒りの叫び声を轟かせた。
ルーベの魔力によって強風が引き起こり、クラスメイト達はその風を腕で防ぎ、教室内にある魔石などが吹っ飛んでいった。
ルーベが魔力を抑えると、肩で呼吸をするほど息切れをしており、呼吸が整った直後に回りを見渡した。
「どいつもこいつも、こんな奴の言ったことに納得しやがって……!! 許さねェぞ、てめェらッ!!」
ルーベの叫び声に、クラスメイト達は一瞬、体を震わせた。
そして、ルーベは俺に向かって指を差す。
「てめェもごちゃごちゃうるせェんだよッ!! そんなんで、あの国王が俺とエリスの婚約を破棄するわけねェだろ、バーカッ!!」
俺を挑発するような顔と声をするルーベに、「あぁ……誘われているな、これは」と思った。
残念だが、生憎と俺はお前のように心が狭くない人間だからな。
そうお前の望み通りには行かない。
というか、こいつからしたら俺は、そんな安い挑発に乗ると思っているのか……。
だとしたら、心外だな。
心の広い俺が、そんな安い挑発になど乗るわけが―――。
「はっ! まさか、お前……ビビってんのか?」
今、俺の耳から聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がした。
俺は自分の聞いた言葉と相手の放った言葉を照合するために、ルーベに尋ねる。
「……今、お前は何と言った」
「ビビってんのか?って聞いたんだよッ!! この臆病で負け犬のクソ雑魚がッ!!」
どうやら聞き間違いではなさそうだ……加えて、またも聞き捨てならない言葉が俺の耳に入った。
―――そして、俺は決意した。
俺は席から立ち上がりながら、「それ以上、口を開くな」と言ってから、更にルーベに向かって言い放つ。
「―――お前の望み通り、勝負を受けてやる」
「し、シスイ様!」
「ヘッ!! やっと、その気になったか……!」
俺が勝負を引き受けたことに、エリスは驚愕し、ルーベは俺をボコすイメージを膨らませているのか、気持ち悪く舌なめずりをした。
「そ、その……本当に勝負をするのですか? 先ほど、勝負をしなくとも良いと言っていたのに、どうしてですか……?」
俺はエリスの疑問に、ルーベを見据えたまま答える。
「―――証明をするためだ」
「しょう、めい……」
「あぁ、証明だ」
俺が臆病な負け犬でもなければ、クソ雑魚でないと証明するためのな。
すると、エリスの口から「ふ、ふふ……」と怪しげな微笑みが聞こえてきた。
「そうです……証明……証明するのです……わたくしとシスイ様の愛を……王国だけではなく……世界中に……」
何を言っているか分からない独り言を呟いてから、エリスは花が咲いたような満面の笑みを俺に見せる。
「シスイ様! 思う存分に知らしめちゃって下さい!!」
「あぁ、勿論だ」
二度と俺にそんな口が利けないよう、俺が成敗をしなくては。
「ははっ! 勝負は今日の放課後―――第四闘技場でやる……逃げんなよ?」
「あぁ、逃げるつもりなど毛頭ない」
またも挑発をするルーベに、俺は淡々と返す。
「んまぁ、せいぜい俺を楽しませてくれよ……お前が大舞台のど真ん中で泣き叫ぶ光景が浮かぶぜ……あばよ」
そう言って高笑いを上げながら、ルーベと女たちはまだ授業の途中にも関わらず、教室を後にしようとする。
「ルーベくぅ~ん、まだ授業の途中じゃよぉ~」
今まで止めようともしなかった老人教師が、ルーベたちを引き止めようとやっと動き出した。
しかし、そんな老人教師の制止を無視し、ルーベたちは教室から出ていった。
「はぁ~、授業を再開するのぉ~……はぁ~」
肩をがっくりと落としながら老人教師は再び、教壇の前に立ち授業を再開した。
―――キーンコーンカーンコーン。
鐘の音と共に午前の授業が終わった。
そして、昼休みの時間になり、生徒たちは昼食を取ろうとしていた。
かく言う俺たちも現在、食堂に来ており、そこで食事を始めようとしていたのだが……。
「シスイ様……仮面を外さないのですか?」
箸を持って頂きますのポーズをする俺に、エリスがそんな疑問を投げてきた。
「エリス様、そう言う事を聞くのは良くないですよ。シスイ君が仮面を外さない理由なんて、己の顔がパッとしない地味で特徴のない顔を隠したいからです。察してあげてください。……そうよね」
まぁ、確かに普通の顔だが、理由はもっと別のところにある。
流し目で俺を見るマリカに、内心でそう返した。
「違いますよ! マリカ! シスイ様のお顔は、地味で特徴のない顔なんかではありません! 仮面の中の本当のお顔は『美しい』という言葉では形容できないほどの美しさ! 神々しさを兼ね備えているのです! シスイ様のお顔を見ていないのに、根拠のない憶測を立てるのは止めてください!」
「それは、エリス様の妄想なのではないんですか?」
「妄想なんかじゃありません!」
そうして、エリスは「むぅ……!」と頬を膨らまし、マリカは無言で睨み合うのだが……。
「………」
凄く……居心地が悪い……。
何故、俺がそう思うのかというと、エリスとマリカの間に俺が座っているからだ。
そのため、両者の眼差しが俺というフィルターを通して、バチバチと睨み合いを行っている。
まぁ今は、食事を取ることが先決か。
俺が箸で唐揚げを掴もうとすると、エリスとマリカは睨み合いを止め俺に注目する。
「? 俺のことは気にせず、続けても構わないぞ」
「いえ、今のわたくしはやるべきことがあります」
「私もよ」
「そうか」
やるべきこととは一体、何なのだ?
そう疑問に思いながら、唐揚げを掴み口元に運ぶ。
すると、エリスはごくんっと喉を鳴らし、マリカは無言で俺に顔を近づけてきた。
まさか……俺の食べる瞬間を見ようとしているのか……。
全く、無駄なことだ。
俺は空いている手で仮面を掴み、その隙間から瞬時に唐揚げを口の中に入れる。
「は、早い!」
「はやっ」
俺の神業の如き食事を見て、エリスとマリカは視認できず驚きの声を上げた。
だから言っただろう、無駄なことだと。
それから、俺たちは昼休みを終え、午後の授業を乗り越えた。
―――そして、放課後。
「逃げずによく来てくれたな……てめェらッ!! 公開処刑の時間だッ!! アッハッハッハッ!!」
第四闘技場にて、ルーベとの決闘が始まろうとしていた。
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