第26話 序列と内容

 序列というからには、生徒の強さの順位のことだと思うのだが、仕組みが分からない。


 一応、把握するために聞いておくか。


「マリカ、序列について教えてくれ」


 今のエリスはメンタルが不安定で答えられる状態でないと判断し、そうマリカに尋ねる。


 すると、マリカはジト目で俺を見ながら、面倒くさそうに溜息を吐いた。


「……序列というのは、その名の通り学園で生徒一人一人に順位をつけられているのよ。それによって、配属するクラスが決められたりしているの」


「俺様達Sクラスの場合は、序列1位から30位の生徒、計30名が所属している。しかし、今日お前が転校してきたことで31名となったがな」


 急にマリカの説明に割り込み、自信満々に語る金髪男。


「では、俺の序列は何位なるのだ? 31位か?」


「違うわ。あなたは序列だけでいうなら、最下位……151位よ。本来であれば、Dクラスに配属されるけど、エリス様の『専属騎士』という特別待遇で、あなたはSクラスに所属しているの」


 そうだったのか、知らなかったな。ローラ先生……こういうことは初めに聞きたかったのだが……まぁ、人間誰しもそんな完璧に仕事をこなすことなど滅多にできないか。


 今、その実態を知ったのだから良しとしよう。


 しかし、そうなると……。


「ルーベ、俺と戦ってしまえばお前の序列は最下位となる。それでも、俺と勝負するのか?」


「はっ? てめぇ今、何ていいやがった? 序列1位で『最強』であるこの俺様に勝てると……本気で思っているのか?」


 この男、序列1位なのか? 


 なら、尚更俺と戦うことは止めた方がいい。 


「あぁ、確実に勝てる。だから、このまま俺と戦うことになれば、今いる高みの景色から一気に奈落へと落ちることになる。止めた方が得策だ。1位を築いてきた努力が無駄になるぞ」


 面倒事の連続は、もうこりごりだ。さっさと俺の言うことに大人しく従え。


「はぁ? あんたみたいな奴がルーベ様に勝てるわけないじゃん」


「もしかしてあれじゃない~。シルヴァ様に勝ったっていうの……嘘なんじゃない?」


「それな! シルヴァ様に勝てる人間なんかこの世に誰一人も―――」


「―――黙れよ、しゃべんな」


「「「ひっ!!」」」


 ルーべが背後に侍らせている女たちを流し目で睨むと、その女たちは顔を真っ青をにして体を震わせた。


 そして、ルーベはそのまま言葉を続ける。


「シルヴァだろうが何だろうが、俺に勝てる奴なんてこの世にいるわけねェんだよ……。それが、この世界の法則であり真理だ……わかったか?」


 ルーベがそう言うと、女たちは何回も首を縦に振った。


 それを見てルーベは「ふんっ」と鼻で笑う。


「わかればいいんだよ、わかれば―――そしてお前も」


 ルーベが俺を睨みつける。


「…………」


「お前がシルヴァに勝ったかどうかなんて、どうでもいいんだよ。俺様が『最強』であることに変わりはないからなァ。そして、1位を築いてきた努力がどうたらこうたら言ってやがったなァ? てめェ」


「あぁ、言ったな」


「ふざけんじゃねェぞッ!!」


 俺がそう答えると、ルーベは突然、怒鳴り声を上げた。


「この俺様が努力なんかするわけねェだろ? そんなのは底辺で這いつくばっている奴がすることだッ!! そんな奴らと俺様を一緒にするんじゃねェーぞッ!!」


 物凄く自尊心が高いな、この男は。


 しかし、努力は底辺の者だけがすることだと思っているのか……それはそれで可哀想だな。なぜなら、この男は今以上の成長ができないということだからだ。


 それに、弱者だけが努力をしていると思っているだろうが、全くの見当違いだ。


 あのシルヴァだって努力をしているぞ? 


 決闘の最中、一瞬だけ手を見たが、そこには剣ダコがあった。毎日、剣の鍛錬を行っている証拠だ。


 シルヴァのような強者であっても、努力は積み重ねている。


 しかし、この男は更に強くなれる、努力という成長の機会を放棄し無駄だと論じている。


 つまり、それ以上の高みを目指すことができないということだ。


 可哀想だという他ないだろう。


「改めて聞くぜ―――この俺様と、勝負しやがれェ!!」


 受けるわけないだろ。そんなメリットも何も無い勝負。普通にお断りだ。


 なので、俺はその申し出を断ろうとすると、エリスにローブの袖を摘ままれた。


「シスイ様……」


 エリスは潤んだ瞳で俺に助けを求めていた。


 そう言えば、勝負の内容にはエリスが含まれていたな。


 序列に引っ張られ過ぎてすっかり忘れていた。


 全くもってエリスを賭ける意味が分からないが、当事者であるエリスからしたら不安に思うのも頷ける。


 エリスがどんな処遇になるか聞くとしよう。


「ルーベ、この勝負にエリスを賭けると言っていたが、具体的にどういうことだ?」


「おっと……俺様としたことが忘れていたぜ……。まず、俺様が勝ったらお前は『専属騎士』解任。っんで、決してあり得ないことだが、お前が勝った場合、俺様はエリスとの婚約を―――破棄する。これが、賭けの内容だ」


 賭けの内容はそういうことか……。


「どうだ? やる気の無さそうなお前でも、これをきいちゃァ、やる気も溢れに溢れ受ける気満々だろうよ……。まぁ、俺様が勝つことは決まっていることだがなァ……」


 そう言って、何故か勝利を確信しているかのような笑みを浮かべるルーベ。


 いや、全く受ける気にもならない。むしろ、もっと受ける気が失せたな。


「こ、婚約破棄というのは本当ですか!?」


「あぁ、本当だ。俺様に二言はない。……というか、エリス。何で、そんな嬉しそうにしてるんだよ? まさかお前……この俺様の女になりたくないのか?」 


 ルーベがエリスを鋭く睨むと、エリスは凄む様子も無く「はい!」と元気よく答えた。


「ふ~ん、そうかそうか……。随分とご執心なようだな……男を見る目がないぜ、こりゃ……。この俺様の方が遥かに優秀だというのなァ」


「ご、ご執心!?」


 ルーベが見下したようにそう言うと、その言葉に何故かエリスは顔を真っ赤に染めていた。


「る、ルーベ様の言う通りよ! エリス様といえど、あんな男に惹かれるなんてセンスがないわ! ねぇ!?」


「そ、そうよ! 私だったら絶対嫌だ、あんな男! エリス様の目を疑っちゃうわ!」


 ルーベの女たちは皆、引きつった笑みでルーベの言っている同調し始めた。


 なるほど、先ほどご主人様の機嫌を損ねたから、自分への好感度を取り戻そうと必死なのか。


 大変だな、あの女たち。


「み、皆さん! や、止めてください! バレてしまいます……!」


 エリスは手を前に出し、あわあわとしていた。


 今の会話の流れだと裏口入学のことはバレていないと思うのだが、どういうことだ? 


 何に対して、エリスはバレたのだと思ったのだろうか……。


 俺がそのことについて考えていると、おそるおそると言った様子でエリスが俺を見た。


「し、シスイ様……勝負のご決断を……」


「あぁ」


 俺は言葉を返すと共に、エリスの瞳を見つめる。


 その瞳には、俺とエリスの意志が通じ合っているように感じた。


 俺もお前と同じ考えだ。安心しろ、『専属騎士』としての責務を俺は全うする。


 俺はルーベに向かって、こう言い放つ。


「その勝負、断る」


「「「えっ?」」」


 俺が勝負を断ると、クラスメイト達が間の抜けた声を上げる。


 その中にはエリスやルーベの女たちも含まれており、マリカは無表情ではあるが「はっ?」と声を出したことで、俺に呆れ怒っていることが分かった。


 こいつらやマリカが、そんな反応になるのは分かるが……エリス、お前は違うだろう。


 ここは、断った方が良いと……俺と同じ考えを思い付いたのではなかったのか?


 はぁ……ここまで頭の回らない女だとは……。


 そう呆れた眼差しを横目でエリスに向けた。

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