第25話 全ての女は俺様の物だと豪語するハーレム勘違い男

「シスイ君はぁ~平民である故ぇ~魔法が使えんのじゃ~」


「「「えぇえええええええッ!!」」」


 当然、俺が平民だということを知ったクラスメイト達は、席から立ち上がり驚愕の叫びをあげる。


 たった3、4ヶ月耐えればいいと思っていたが、どうやら無理そうだ。俺は今、物凄くこの国を出たい。


 そんな俺の気持ちなど無視して、老人教師は平然と尋ねる。


「そうですよねぇ~エリス様ぁ~シスイ君~」


 俺はこの老人教師の無神経さに呆れるとともに腹が立った。


 一方、エリスは老人教師の質問に答えることができなかった。


 なぜなら、


「はぇ~………」


 余りにも衝撃的過ぎて、口をぽかんと開け放心状態になっているからだ。


「ありゃぁ~? エリス様ぁ~どうしたのかえぇ~」


 お前のせいだ。


「先生! どういうことですか! なぜ、魔法の使えないゴミ同然の平民が学園にいるのですか!」


「そうだそうだ! 平民がいることで格式高き栄光の歴史を築き上げてきたこの学園の汚点になりかねない! いくら、エリス様の『専属騎士』だからって許されるはずが無い!」


 不機嫌女を皮切りに、次々とクラスメイト達は俺を今すぐ学園から追い出すよう言った。


 予想はしていたが、ここでも俺は差別をされるのだな……。


 やはり、この国の本質は差別国家なのでは?


 そう思っていると、老人教師は「お、落ち着くのじゃぁ~皆の者ぉ~」と騒ぎを止めようとするが叶わない。


 そんな情けない老人教師を見たからか、はたまたこの状況に呆れ果てたのか、マリカは心底面倒くさそうな大きな溜息を漏らした。


「……シスイ君は平民だけど、エリス様の『専属騎士』となるために、王国最強の聖魔騎士であるシルヴァ様と戦い勝った男よ。国王陛下が認めた彼をあなた達が文句を言う資格も権利は無いと思うわ」


 マリカが真実を言うと、沈黙が訪れた。


「う、嘘ですよね……先生……我が国一の聖魔騎士で私たちの目標で憧れでもあるシルヴァ様が負けるなんて……嘘ですよね……」


「いやぁ~それが嘘じゃないんじゃよぉ~。それにぃ~エリス様が言うにはぁ~国王陛下も直々にシルヴァ殿に勝つ場面を見たらしいからのぉ~。そこまで言うのならぁ~嘘である可能性は皆無じゃぁ~」


 狼狽え掠れた声で尋ねる不機嫌女に、老人教師は淡々とそう言った。


 すると、どこからか「へぇ~、面白れェじゃねェか……」という男の声が聞こえてきた。


 その男は、背後に複数の女を侍らせながらこちらに来ると、


「どけ、邪魔だ」


「おぉ~……」


 老人教師の肩を掴み、無理やり退かした。


 この男は……先ほど俺に殺気をぶつけていた金髪男か。


 金髪男は不機嫌女の腰に腕を回すと抱き寄せ、それに不機嫌女は「きゃっ!」と嬉しそうな声を上げた。


 金髪男が侍らせている女たちは、それを「いいなぁ、羨ましい」や「私にもしてよ~」などと、俺には理解できないことを言っていた。


 ただ、一つだけ理解していることがあった。


 あぁ、これが俗に言う―――ハーレムというやつか。


「お前……さっきの話は本当か?」


 金髪男がマリカを舐め回すように見ながら尋ねると、マリカはその視線が酷く不快だったのか、舌打ちをして目にも入れたくないと伝わるように顔を逸らした。


 そして、金髪男もその態度が気に食わず、舌打ちを返してから俺を鋭く睨みつける。


 その目には、嫌悪が一色に染まっていた。


「お前が答えろ……さっきの話は本当か?」


 こいつは命令口調でしか話すことができないのか? 


 人に何かを尋ねる時は、下手に出て相手が答えやすいような態度を心掛けることが必要だと教わらなかったのだろうか。


 貴族の教育水準というのは、意外にも低いのだな。


 思わず俺は、呆れてしまった。


「ほ、本当です……」


 放心状態から帰ってきたエリスがそう言うが……声が震えており目の前の男に怯えているようだった。


「へぇ~……そうかそうか。なら納得だ。エリスが『専属騎士』にしたがる理由……こりゃ面白そうだ……」


 この男、王族であるエリスのことを呼び捨てで呼んでいる。


 大丈夫だろうか? 不敬罪に問われるぞ。


 いや、そんなことよりも……。


 俺は金髪男にこう尋ねる。


「エリスと知り合いなのか?」


「あぁ……知り合いつっかぁ……俺の女、婚約者だ」


「………ッ!!」


 金髪男と女たちは下卑た笑みを浮かべ、エリスは俯き拳を強く握った。


 そうか、王族ともなれば将来のことを見据えて、この年でも婚約者がいることはざらにあることか。


 しかし……今回ばかりはエリスに同情せざるを得ないな。


 こんな浮気男……いや、貴族だから側室を持ってもいいから問題ではないか。


 言い換えよう。こんな節操無しな男と婚約させれて運が無いな。


 何があって婚約が進んだのかは分からないが、最終的に婚約を認めたであろう国王は見る目が無い。


 愛娘を大切にしているのではなかったのか?


 まぁ、どちらにせよ、俺には全く関係ないことだが。


 そう思っていると、金髪男の纏う雰囲気が変わった。


 それは、あの時と同じ殺気を纏った雰囲気だった。


「この世の女は全て俺の女……」


「ん?」


 突然、何をぶつぶつと言っているのだ? 


 だが、まだ続きがありそうなので一応、言葉を待った。


「王家の血を引くエリスも俺の女……女は全て俺の所有物……」


「………」


「それなのにお前は……ッ!!」


 金髪男が怒りに満ちた顔で、机を拳で強くドンッ! と叩きつける。


「―――俺様の女に、手を出しやがったッ!! 万死に値するッ!!」


 全く値しないのだが? それに、いつ俺がエリスに手を出したという。


 俺は『専属騎士』になったというだけで、それ以上の関係ではないのだが。


 というか、『専属騎士』という関係でも十二分に俺は疲れている、疲労困憊だ。


 だから、俺とエリスがそれ以上の関係―――ましてや、恋人などという関係を万に一つもありはしない。


 すると突然、金髪男は制服の胸ポケットからハンカチを取り出し、俺に投げつけてきた。


 この軌道だと俺の顔面に当たるな。しかも、こんな至近距離で投げて来るとは……何を考えている? 


 投げるなら周囲を見てから人のいないところで投げろ。まぁ、別にいいが……容易に取れるからな。


 俺はハンカチが仮面に当たる寸前のところで、普通に手でキャッチした。


「ッ!!」


 金髪男は、一瞬だけ目を見開き驚くが、すぐに見下した表情に戻す。


「ふっ、やるじゃねェか……。しかし、お前……ハンカチを相手に投げつける行為はどういう意味を持っているか知ってるか?」


「? いや、知らないが」


「じゃあ、教えてやるよ……その意味はなッ!」


金髪男が俺を指差し告げる。


「俺様と決闘しろって意味だ……いいかッ!!―――この俺様“ルーベ・ミレムアム”と、序列とエリスをかけて勝負をしろッ!!」


「…………」


 また、決闘か……。


 どうやら、俺がこの国にいる間は、安寧など無いらしい……。


 だが……。


 序列とは一体、何なのだ?


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