第24話 最悪の初回授業

「それで、次の授業では何をするのだ?」


「魔力媒介学といって、魔石などの媒介に魔力を通すことで、どのような反応があるのかを調べる授業です。簡単に言えば、実験を行う授業ですね」


 特別棟に向かっている途中にそう尋ねると、エリスが授業とその内容について答えた。


 しかし、その答えによって、俺は新たな疑問が生まれた。


「……先ほどローラ先生以外の教師も、俺が魔法の使えない平民だと知っていると聞いたが……それだと俺は、ただ授業に参加するのみとなってしまうが……」


「はい! シスイ様はただ授業に参加するだけで良いのです!」


「………」


 本当にただ参加するだけ、というのは分かったが……俺がこの学園の生徒としていてもいいのだろうか? 


 いくら、王族の『専属騎士』とはいえ……流石に不満に思う生徒が続出するのでは……。


 扱いが違いすぎる……生徒からしたら完全に不公平だ。


 そんな俺の不安を察してか、エリスが俺に微笑みかける。


「ふふっ、シスイ様、ご安心してください! そんな小さなことでシスイ様に文句を言うよう方がいたとしても! わたくしの権力で何とか致します!」


 そう言って、謎の気合が入っているエリスに俺は更に不安を感じた。


 それはそれで、問題な気がするのだが?


「それはそれで、問題だと思いますよ? エリス様」


 俺の心の声を代弁するかのように、マリカがそう言った。


「な、何が問題なのですか!?  別にわたくしは王国を追放させるといったことは致しません! ただ、この学園から去ってもらうだけです!」


 やはり……問題ではないか。


「「はぁ……」」


 マリカも俺と同じように呆れたのか、俺たちは頭を押さえて、同時に溜息を漏らした。


「な、何で二人して溜息を吐いているのですか! むぅ~!」


 頬を膨らませプンプンと怒るエリスと共に、俺たちは特別棟に向かって進み続けた。



「そぉ~それではぁ~魔力媒介学の授業を始めるぅ~。前回の続きのところから再開するぞぉ~」


 そう言って、教壇に立っている老人の教師がチョークを持ち授業を始める。


 今、俺たちのいる教室は第四魔法研究室という場所で、一年Sクラスのような階段教室ではなく普通の平坦な教室だ。


 他にも特徴がある。それは、堂々と居眠りにコケているクラスメイトがチラホラといるところだ。


 そうする理由は、単につまらないか老人教師を見下している、といったあたりか。

 

 老人教師は、そんな生徒たちに注意をすることも無く授業を進める。


 ちなみに、俺たちは横並びで座っており、左が俺、右がマリカ、真ん中がエリスだ。


 この並び順を提案したのは、マリカだ。


 この並びでなら、エリスの願望?を叶え、それが暴走した時にはマリカが止めに入れるからだそうだ。


 俺はその提案に賛成し、エリスも渋々賛成した。


 まぁ、マリカがこの案を提示した本当の狙いは、エリスという壁を設置し、俺と距離を取りたい、という風に俺は考えている。


 この女なら、たとえ仕える主だとしても、そのように利用するだろう。いや、もうしているな。


 そして、ある程度授業を進めたところで、老人教師はこう皆に告げる。


「で、ではぁ~今日はこの『魔石』に魔力を込めてもらうぞぉ~」


 老人教師は、1~2cmあたりの大きさの魔石を摘まんで、クラスメイトたちが見えやすいように掲げる。


 そして、老人教師が魔力を込めると魔石が赤く発光し、今度は込める魔力を下げ光を弱くしたりなどした。


「まぁ~ざっとこんなものじゃ~。今回はぁ~魔石に込める魔力量にどのような反応があるかを調べぇ~加えて魔力のコントロールを学べるぅ~まさに一石二鳥の授業じゃ~。皆の者~取りに来い~」


 老人教師がそう言うと、居眠りしていたクラスメイトが起き、クラスメイト達は前に置いてある魔石を取りに席から立ち上がった。


「私が取ってきますね」


「はい、よろしくお願いします」


 席から立ち上がりながら言うマリカにエリスはそう言うと、マリカは頷いてから魔石を取りに向かった。


 魔石とは魔物が生存する上で必要不可欠な核となるものだ。それが、この学園にあるということは、魔物を討伐する演習で得たか、『冒険者ギルド』から買い取っているのだろう。


 そう思っていると、マリカは「取ってきました」と言って、机の上に魔石を二つ置いた。それにエリスは「ありがとうございます」とマリカに笑みを見せる。


 平民である俺は論外だからな。だから、エリスとマリカの二人分と言う訳だ。


 どうやら、俺は本当に授業にただ参加するだけでいいみたいだ。


 ……複雑だ。


 そう実感を得ると共に、どこか後ろめたい気持ちにもなった。


「シスイ様! これからわたくしが魔石に魔力を込めるので、見ていてくださいね!」


「あぁ」


 いいから、早く始めろ。俺はお前が裏口入学をしていると疑っている。


 つまり、お前がここで魔石を発光できなかったり、強く魔力を込めて微小な光しか発しなかった場合、俺の疑念は晴れ確信へと変わる。


 さぁ、さっさと早く始めろ。


 その気持ちが通じたのか、エリスは「行きますよ!」と魔石に魔力を込め始めようとしていた。


「はぁあ!」


 エリスが目を見開き、魔力を込めると結果は……。


 ―――僅かに光るだけだった。


「あ、あの! これは違うのです! 決して、魔力が弱いわけではないですから! 本当ですから! うぅ~……!」


 エリスが涙目で悔しそうな顔を俺に向けながら、そう言い訳をした。


 これで、白黒はっきりついたな。エリスは確実に―――裏口入学をしてSクラスに所属している。


 やはり、俺の予想は正しかったようだな。


「エリス様、こうやるんですよ」


「……っぐ……何ですか?」


 俺とエリスが、マリカの手の上にある魔石を見ると、マリカが魔力を込め魔石が強い光を放ち始めた。


「むむむ……! マリカ……シスイ様に良い所を見せようだなんて……! わたくしだって、負けません!」


 そう言って、再びエリスは魔石に魔力を込める。


 そう何回やっても、結果は変わらないと思うのだが……。


 俺は魔石に魔力を込める、エリスの真剣な横顔を見る。


「……っぐ! 光が灯りません……もう一回!」


 魔石は光らず、再びエリスは魔石に魔力を込める。


 諦めが悪いな……こいつは。


 俺は仮面の中から口角を上げる。


 だけど俺は、その諦めの悪さに好感を持っているようだ……不思議と。


 未熟で無力な過去の俺と重なったからだろうか……。


 そう思っていると、俺の前に誰かが立っていた。


 顔を上げると、そこには機嫌の悪そうな女のクラスメイトがいた。


「? 何か用か?」


「あんた、どうして魔石に魔力を込めないの? 先生に言いつけるわよ」


 あぁ、そういうことか。授業をサボっていると思われて、注意されているのか。


 しかし、事情を話そうにも話せないからな……不用意に目立ちたくなどない。


 俺がどうにかやり過ごそうと俯き考えていると、お姫様モードを取り繕い、貼り付けた微笑みで女のクラスメイト―――不機嫌女に対峙するエリスがいた。


 その立ち姿には、王族たる覇気のようなものを纏っていた。


「先生に言う必要などありません。速やかに、元のご自分の席にお戻りください」


「ど、どうしてエリス様が、このような怪しいものを庇われるのですか! 真剣に授業を臨んでいないこんな者など……この場にいる資格など無いはずです!」


 エリスの放つ覇気に気圧され、不機嫌女は引きつった顔で意見を言った。


「そっくりとそのままお返しいたします。あなたの方がこの場にいる資格などありません」


「な、なぜ、そう思われるのですか……」


「だって……あなたは……」


 エリスが不機嫌女に向かって指差す。


「―――先ほど、居眠りしていたじゃないですか」


「……ッ!!」


 クラスメイト達が居眠りしていたことは知っていたが、まさか目の前にいる不機嫌女が居眠りをしていた者の一人だったとは驚きだ。


 俺がそう確信を得たのは、この不機嫌女が激しく動揺していた。


「ほぉ~どうしたのかねぇ~」


 俺たちのちょっとした、いざこざが聞こえて様子を見に来たのか、老人教師が女のクラスメイトの横に立った。


「せ、先生!! シスイ君が魔石の実験をしないんです!! 先生からも言ってやってください!!」


「あぁ~そのことかねぇ~。ならぁ~問題はないよぉ~」


「ちょちょちょ待ってください!! せんせ―――」


「―――問題はないって……どういうことですか!?」


 不機嫌女は、老人教師から見えないように、大慌てするエリスの前に立ち隠した。


 ……まさか、あの老人教師……俺の事情を話すつもりではないだろうか……。


 いや、流石にそれはないか。


 いくら何でも、こんな所で俺が平民だと言ってしまえば、この先の展開が読めるだろうから言う訳が無い。きっと、大丈夫だ。


 そう安心をした、次の瞬間―――


「シスイ君はぁ~平民である故ぇ~魔法が使えんのじゃ~」


 見事、俺の期待は裏切られた。




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