第19話 円卓会議
決闘を終えた、その日の夜。
アスタリオン城にある『軍議室』にて、八人ものアスタリオン騎士が円卓に座っていた。
だが、その一室の空気はどうやら平穏ではなさそうだ。
それは―――ある、一人の者が議題に上がったことによって。
「何なんですか! あの黒ずくめの旅人は! 平民と偽るだけではなく……シルヴァさんの≪喪失魔法≫を反射神経で攻略したって……嘘にもほどがありますよ!」
両手で円卓をドンッ! と叩き怒りを露わにするのは、水色髪のメガネ少女、
「あたいもウェンディの言う通りだと思う。ありゃー、何らかの≪魔法≫を使わない限り無理よ無理」
「俺も姉ちゃんと同じ考えだ。だが、シルヴァの≪喪失魔法≫をどうにかできる魔法なんて、この世にあんのかよ? 聞いたことないぜ」
そうウェンディの意見に同調するのは、
バリスとバリオスは、紫髪で鋭い眼光が良く似た姉弟だ。
しかし、今でも緊張感が漂う空気ではあるが、次の一声によって更に緊張感が満ちる。
「でも……現にあの黒ずくめの人はシルヴァを攻略して勝ったってことは……実質、この国で最強だから、誰も黒ずくめの人に対処できる人はいないんじゃないかな……」
瞬間、何気なく発言した桃色髪の少女―――
「えっ、何!? 私、何かマズいこと言っちゃった!?」
当然、その視線に困惑するヒルダ。
そして……。
「そうです……その通りです! ヒルダさん! これは、アスタリオン王国の存亡に関わることです!」
ヒルダの発言を受け、国家存亡の危機なると考えつき立ち上がるウェンディ。
「アスタリオン王国の存亡に関わることって……どういうこと?」
ウェンディの発言に疑問を持ったのは、灰色髪の少年―――
「トルア君……。ヒルダさんが言いたいのは、黒ずくめの少年が、アスタリオンを滅亡させる恐れがあるってことだよ……。そして、それを止められる人がいないってウェンディさんは言いたいんだよ……」
トルアの疑問に優しい口調で答えたのは、茶髪の大柄の男―――
オーエンが言ったことにトルアは「あー、そういうことねー」と眠たそうに返した。
「ふふ……それは無いと思うわよ……ウェンディ……」
そう言ったのは、緑髪の女―――
「どういうことですか? ソフィア。あなた、黒ずくめの人とは今日が初対面のはずですよね……? どうしてそんなことがわかるのですか?」
「簡単よ……」
ソフィアは淫靡な舌なめずりをしてから口を開く。
「あの男からそういった“野心”が無さそうだったもの……数々の男を食ってきた私が言うんだから、間違いないわ」
「関係ねぇだろ! 男を食いまくったからって、そんなことわかってたまるか!」
ソフィアの謎持論に反論するバリオス。
そして「お、男……食いまくり……!」と赤面しながら呟いた、むっつりヒルダ。
「僕もソフィアと同じで、シスイ君がそんなことをする人には見えないかな」
今まで、この議論を静観していたシルヴァが突如、議論に割り込んできた。
「何を持ってお前はそう思うんだよ……アァンッ!」
バリオスの威嚇に怯む様子も無く、シルヴァは答える。
「実際にシスイ君と戦ったからこそ、僕はそう言えるんだよ。彼の攻撃には悪意が無かった。ただ、そこにあったのは一人の高みを目指す者の修練が詰まった攻撃だった。だから、シスイ君がそんな下らないことをしないと断言できんだよ、僕は。これでも、納得がいかないと言うかい?」
「チッ……」
バリスは舌打ちしながらも、シルヴァの根拠に納得せざるを得ず、顔を逸らす。
しかし、この中に納得のいかない者がいた。
「ですが……シルヴァさん。それは、シルヴァさんの主観ですよね? 黒ずくめの人……シスイさんの本心まではわからない。やはり、シスイさんがアスタリオンにいるの危険です! 今すぐに追い払うべきだと思います!」
「僕は反対かなー」
そう言った後、トルアは欠伸をした。
「あなたもなんですか!? トルアさん!」
「だって僕ー、シルヴァの倒した魔法にスゴく興味があるもん。王国から追い出したら損になるよ、僕にとっては。ねぇねぇ! あのシスイくんの魔法って一体何なの! 教えてよ、シルヴァ!」
トルアは子どものように目を輝かせながらシルヴァに尋ねると、それに付随して他の団長らもシルヴァに視線が集まる。
(あっ。やっぱり、みんなも気になってたんだね……でも)
シルヴァは人差し指を当て、ニヤりと意地悪そうな笑みを浮かべる。
「な・い・しょ。知りたかったら実際に戦うことだね」
「えー! シルヴァのけちー!」
「あはは。ごめんね?」
(まぁ……僕、シスイ君の魔法の正体に全く気付いていないんだよね……。一瞬しか見えなかったし、何をされたのかも分からなかったから……。本当、何なんだろう……あの魔法……考えても考えてもわからないや)
団長らの前ではシスイの魔法を知っている振りをし、内心ではシスイの魔法について思考して諦めるシルヴァ。
だが、そんなシルヴァを見透かしていた。
―――トルア以外の者たちが。
彼らはシルヴァが人差し指を当てて話す時は、嘘を吐いていると知っているため、絶対気づいていない、と瞬時に彼らは理解した。
なので、シルヴァとトルアのやり取りを、冷ややかなジト目で見ていたのだ。
しかし、シルヴァの嘘に意識が傾くのはマズいと思ったウェンディは、本題に入る前にこほんっと咳払いをする。
狙い通り、皆の視線がウェンディへと移り、それを確認したウェンディは本題へ入った。
「皆さんにお聞きします。シスイさんがこの王国にいても良いのか、否か! まずは……いて欲しくない人!」
「「「…………」」」
「えっ?」
一人だけ意気揚々と手を上げるウェンディは、ぽかんと口を開け円卓を見渡す。
なぜなら―――ウェンディ以外、誰も手を上げていなかったからである。
「ど、どうして何ですか!? どうして誰も手を上げないんですか!? このままだと王国が滅ぼされてしまうかもしれませんよ!?」
「いやー、直接戦ったシルヴァが言うんだったら大丈夫じゃねーかって思うなーあたいは」
「そうだよね……悪い人って感じがしなかったし……」
バリスとオーエンの発言に、ウェンディ以外が頷き肯定を示す。
「そ、そんな……」
自分以外がシスイという未知の存在に危機感を抱いていないという事実に、ウェンディは肩をガックリと落とす。
その姿を見ていられなくなったシルヴァは「きょ、今日はここまでにしようか。ささっ、解散解散」
そう言うと、各々退室していき『軍議室』にはシルヴァとウェンディのみとなった。
シルヴァは恐る恐るウェンディに近づく。
「その……ウェンディ。すぐに、シスイ君を信じろとは言わないけど……一先ずは、様子を見るってことにしないかな?」
「様子を……ですか?」
俯いた顔を上げ、意気消沈とした顔をシルヴァに見せるウェンディ。
それを見て、シルヴァはウェンディの凄まじい落ち込みように「うっ…」と息が詰まりながら頷く。
「そ、そう。ゆっくりと時間をかけてシスイ君のことを知っていけばいいよ」
「時間……ですか。確かに……私は焦り過ぎていたようですね……」
「そうそう。ウェンディは焦り過ぎなんだよ。さぁ、もう遅いからさっさと帰ろう。ねっ?」
「はい……」
シルヴァはウェンディの背中を押し、半ば強引に『軍議室』を退出した。
一方その頃―――シスイのいる『客室』に、ある一人の人影が忍び込んでいた。
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