第11話 国王の想い
シスイとエリスが立ち去ると、シルヴァ以外の王国聖魔騎士団団長らは、一礼をしてから立ち去った。
つまり、現在『玉座の間』には、国王とシルヴァだけがいた。
皆が立ち去った瞬間、国王は重たく「はぁ……」と疲れた顔で溜息を漏らし、依然としてシルヴァは口角を上げニヤついていた。
「……あの不審者くん、態度デカすぎない。僕に向かって『お前』とか『アイツ』呼ばわりする何てさ……生まれて初めてだよ」
「ははっ。国王陛下の前でも敬語とか一切しませんでしたね。僕もビックリしちゃいました。普通だったら、『どんな些細なことでも、気に障ることをしたら処刑される!』……と怯えて、国王陛下みたいな王族の方の前では謙虚になるのですが、彼からは態度を改める気など微塵も感じなかったですね……」
(エリス様にも、同じ口調で話していたし……あっ、国王陛下の前でもそうだったから当然か)
そのことに気がついたシルヴァは、「ふふ……」と拳を口元に当て微笑んだ。
「僕たち王族は、そんな器の小さな人たちじゃないよ。あー……でもなぁ……」
「? どうかしたのですか? 国王陛下」
突然、頭を抱え悩まし気な声を出す国王に、微笑むのを止めて心配そうに見つめるシルヴァ。
すると―――
「うぅ……僕、エリスに酷いこと言っちゃった……!! どうしよ……嫌われちゃったよ……!! シルヴァ……!!」
唐突に国王は泣きじゃくり、玉座に座りながら潤んだ瞳でシルヴァを上目遣いで見ていた。
(突然、泣き始めたから、どうしたんだろうって思ったけど、そのことか)
シルヴァは心配する必要は無いと判断し、再び口角を上げ意地悪そうな笑みを浮かべてから国王に真実を告げる。
「確かにそうですね。あれは完全に嫌われます」
「そこは嘘でも……『嫌われなんかしませんよ、国王陛下』って言ってよ! シルヴァ、酷いよ!」
シルヴァが、泣き縋る国王を崖から落とすような、容赦の無い即答を放つと、国王はシルヴァの声真似をしてから、さらに瞳を潤ませ頬を膨らませた。
「あははっ。生憎と僕は、誤魔化すことはあっても、嘘は吐きたくないものでして、申し訳ありません」
シルヴァはニヤけながら、プンプンと怒る国王へと頭を下げる。
そしてシルヴァは、国王の顔を見て思い出していた。
(怒り方まで、エリス様にそっくりだ。親子ってここまで似るものなのか。遺伝ってスゴい……不思議だな)
シルヴァは遺伝の神秘に感動しながら頭を上げ、涙を流す国王の瞳を見て口を開く。
「国王陛下、一つ質問があるのですが……よろしいですか?」
「質問かい?」
頬を膨らませるの止め、大きく瞳を開ける国王に、シルヴァは「はい」と首を縦に小さく振る。
「エリス様は不審者くんに好意を持っており、不審者くんも『専属騎士』となり、エリス様の支えになることを望んでいます。何より彼、滅茶苦茶強いですよ? 僕が会った誰よりも……戦わなくとも分かるほどに」
「まぁ…うん、僕も同感……。フェルネストの騎士を一人で倒したのも事実だろうし、何より凄く自信に満ち溢れているように見えたしね……。まっ、だからこそ、あんな態度を貫けたのだろうけど」
「ふふ、確かにその通りですね。後、これは私情ですが、不審者くんの方が―――あの婚約者よりもお似合いだと思いますよ? 彼をエリス様の『専属騎士』兼『婚約者』とすれば、エリス様の恋も成就しますし、その間に生まれた子は≪魔法≫を使えます。アスタリオン王国にとって非常に有益だと思うのですが、どうして彼をお認めにならないでしょうか?」
「それはできないね」
シルヴァの質問を国王は一刀両断し、鋭い視線をシルヴァに向ける。
それを受け、シルヴァはニヤニヤとした顔から、滅多にしない真剣な顔つきとなる。
国王は、両肘を自らの両膝に置き、組んだ手を口元に当て、前に屈んだ姿勢で、向かいにある『玉座の間』の扉を真っ直ぐ見つめ語る。
「エリスのためを思うなら、あの才能に溺れている傲慢少年よりも、まだマシな不審者くんと結ばれてほしい。だけど、それは『アスタリオン』のためにはならない。確かに、シルヴァの言う通り『貴族』と『平民』との間に生まれた子は≪魔法≫を使うことができる。だが、『混血』と『純血』での力差は比べるまでも無い。『混血』が『純血』に≪魔法≫で勝つことなど絶対に不可能だ……これがこの世の本質なんだよ」
「………」
そう言ってから、国王はシルヴァの瞳を見る。しかし、シルヴァは頷くことも目を見ることもできずに俯いた。
(それは違うと思うんだけどな……不審者くんの『色』を見る限り……)
シルヴァは心の中で小さく、国王の『純血主義』的な考えに反論した。
「……王国を守るためには、存続させるためには、貴族としての『血脈』は何としても受け継がせなければならない。エリスの恋心を踏みにじることだと分かっていても、僕は不審者くんをエリスから離さないといけない……たとえ、エリスに嫌われることになっても……」
「いえ、先ほども申し上げましたが、もうすでに嫌われていますよ」
「だから、言わないでってばぁああああああっ!!」
再びニヤけ顔で間髪入れずに告げるシルヴァによって、滝のように涙を流す国王。
そのやり取りによって、シリアスで暗い雰囲気から元の明るい雰囲気が『玉座の間』に広がった。
「というか、シルヴァ。偉く不審者くんのこと気に入ってるけど……わざと負けるつもりじゃないだろうね」
「無論、国益や私情など関係無しに、勝利を掴み取ります。ご安心ください、国王陛下」
涙を止めジト目で疑いの眼差しをする国王に、シルヴァは華麗なお辞儀をした。
―――自身の発言に嘘や偽りは無いと、証明するために。
「ホント? それなら、よかったよ」
「……はい」
ゆっくりと頭を上げるシルヴァ。
その顔には“狂気”や“執着”といった、とても執念深い感情が含んだ、酷く歪んだ笑みが浮かんでいた。
(あぁ、楽しみだな。早く明日になって、不審者くんの力に触れたい。たった一日だけなのに、凄く待ち遠しいよ、僕は。はぁ、まだかな、戦いたいな……)
そう明日の真剣勝負に恋焦がれるシルヴァに―――
「ホントのホントだよね?」
「はい、本当の本当です」
再度、念押しをするほどに『天然』な国王は気づくことはなかった。
だが、そんな目に余るほどに、勘の鈍い国王も無視できないが、それよりも無視できないことがあった。
それは、誰一人として―――シスイの“意志”を無視し、勝手にエリスと両想いなると思い込んでいることである。
国王とシルヴァが、シスイの『本心』を知り、果たしてこの二人は、どのような反応をするのだろうか……それはまだ、遠くない未来の話だ……。
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