吉か凶か
夫が水頭症で入院した。手術を含め三週間の入院で、その後は自宅に戻れるいう。前の病院(ファーストオピニオン)では三週間の入院の後に転院してリハビリ病院で三ヵ月、とのことだった。
コ●ナ下なので、手術前の一週間は感染しているかどうかの見極め、そして、手術後二週間で退院、退院まで面会なし、ここまでは、どちらも同じだが、手術日は自宅待機で、終わったら知らせる、というのに対して、こちらの病院では、待合室待機で、終わったら家族のうち一人だけ三分ほど面会できるという。
認知症で、要介護3。今の状態の夫にとって、家族から全く離れて入院期間が四ヵ月弱と三週間とでは、、雲泥の差だ。
なかなか難しいけれど、手術となったら病院をもう一つあたってみるのも大事なことだと思う。
手術後の夫との面会を終えたら、入院期間中は私がすることは何も無い。この際大いに羽を伸ばしておこうと思った。
まずは、友達との一泊の麻雀三昧。ラストになったら、翌日のランチ代の一部を負担する仕組みだそうだ。何度か誘われたが、一泊は無理なので断っていた。
麻雀というと、夫にはいつも言われる。
「お前は麻雀はよした方がいいよ。頭が悪いから。どうせラスばっかりだろ」
「あら、失礼ね。四人でやるんだからトップもラストも25パーセントの確立なのよ」
そうは返すものの、私の場合、まぁ確かに一般論は成り立たず、鴨が葱を背負って……の状況だが、それでも、今回は心置きなく楽しめる。
次は近所の親しい仲間達と近場の温泉でのんびり宿泊だ!
そう意気込んでいたところ、なんと、夫が手術を受ける日の朝、私は36度9分の熱を出してしまった。平熱が36度1分なのでまもで結構きつい。風邪かコ●ナか、いずれにしても、病院へは娘たち行くことになった。
翌日は36度6分。大分落ち着いてきたが、娘たちにもヤイヤイ言われてPCR検査をした。結果はケイタイにショートメールで届いた。”陰性”だった。
でも、次の日もその次の日も36度6分で喉も痛くなってきた。やはり”あの時”に風邪をひいてしまったか、と思ったが……。
「もしかしたら、今度は引っかかるかもしれないから」
という娘たちに逆らえず、二度目のPCR検査。今度は違う場所で受けた。すると採取方法も違った。スマホだと結果は翌日にメールで届くらしいが、私のようにガラケイだと手書きになるとかで翌々日。しかも結果の通知書を受け取りにいかなければならない、とのこと。娘たちにスマホにするようにと、うるさく言われてはいたが、ずっと聞き流してきた。まさか、こんな目に合うとは思いもよらなかったが、まぁ仕方ない。そして、こちらでも受け取った検査結果は”陰性”だった。
「よかったじゃない。これでもう安心できるし。お母さんはやっぱり今までの疲れが相当たまっていたのね」
そういわれて、私は黙ってただあいまいに頷くしかなかった。
実は夫が手術を受ける前日、
私はお風呂からでてすぐにベッドに入ったが暑かったので扇風機を”強”にし、東と南側の窓も全開で網戸のままにした。どうせ直ぐ止めるし、窓も閉めるし、と思っていたのに、つい眠ってしまった。夜中に寒くなって目が覚めたものの、足元のあおるケットを手繰り寄せて頭からかぶって、また、そのまま寝てしまったのだ。
明け方」、寒さで起きた時は背中がゾクゾクし、頭がガンガンした。扇風機を止め、窓を閉め熱を計ったら36度9分だったのだ。大事な日を前にして、こんな事をしたとは、さすがに言えたものではない。
こうして一週間分を棒に振ってしまった。
そして翌週の水曜日は、14時から大腸内視鏡検査。前日は、お粥のみで過ごし、就寝前に下剤。翌日は朝・昼は禁食。腸洗浄液を指示通り約2時間かけて必死で飲んで、検査に臨んだ。翌日は食べたら、トイレに直行という有り様。
夫は手術後の経過が順調ということで、予定より五日も早く退院した。
私の羽を伸ばす楽しみは、結局、全て糠喜びに終わった。
「俺がいなくて、のんびりできただろう」
笑顔でいう夫の言葉を、これほど恨めしく、これほど複雑な思いで聞いたことはない。
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