FtMの須王のこと
二人目は仮名を須王としておこう。元々は同じ大学で知り合った。なんだか気が合ってふんわり長く付き合いが続いている数少ない友人だ。その頃の須王はまだ体は女性に見える人だった。
近況報告をするたびにやっている事が変わる、と言う感じの友人だったが、なんだかんだあって、Twitter(現在はX)をフォローしあう事になった。
そこに「FtMのゲイ」と書いてあった。須王は『体は女性だが性自認は男性で、恋愛対象は男性』と言う事になる。
いや待て初耳なんだが私とお前の仲でそれはないんじゃないか。そう思った。
だけれどまあ、そう言う事もあるんだろう。直接の友人に自分は実はこうで、と言いにくい事もネットなら受け入れられる事もある。
「体が女性で恋愛対象は男性なら、それって異性愛者の女性じゃないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、本人的には精神的には男なのでゲイなのだ。うーん、難しい。
後から直接須王に聞いた事を書いておく。
須王は第二次性徴時、大体11歳の頃から「自分は何かが違うのだけれど何が違うのか分からない」と悩んでいたのだが、小学生は残酷でそれを友達ですらからかう。だから周囲に悟られないように隠していたらしい。
須王が自分の性とじっくり向き合うようになったのは一人暮らしを始めてからだそうだ。実家ではきょうだいがいるのでプライベートな空間がなく、家族と切り離された独りの空間で自分自身と向き合い、初めて自分が何者であるのか考えた。
そこで、「何かが違うと言うのは自分がFtMだ」と言う仮説を立てると全てに説明が就く事に気が付いた。それが28歳の事だ。須王と言う「私」は17年と言う歳月をかけて答えに辿り着いたのだ。
須王が私と親しくしていた大学時代は「性同一性障害とは体を改造して性別を変えたいと思っている人」を指す言葉だと考えていたらしい。なので、自分はそれに当て嵌まらないと思っていたと言う。須王は今も昔も体を何かしらして変えたいとは思っていない。大学当時は「自分は性同一性障害と言う程深刻に悩んでいる人に該当しないのでは?」と思っていたので、たとえ仲が良くても私に明確に性自認について明確に伝える事が出来なかったそうだ。その段階に至った後に私が須王の性自認を知ったのがたまたまXだっただけの話だ。
20代から30代の頃は興味を持っている仕事の分野に飛び込み、そこで限界を感じては次の分野へと渡り歩いていた状態だった。聞いている限り自分探しと言うのだろうか。今はアラフォーになり良い年齢だし転職せずに落ち着くつもりでいるとのことだ。今は服飾関係であれこれ働いている。
今は同じ某配信アプリで配信の相方をしている。気軽に出来るのが売りのVライバーアプリなのだが、それの須王のアバターが完全に男性なのに須王の声がやたら可愛くて困惑する。私はショタでやっているが、やや低めの女性ボイスである。
喋り方も須王の方が大人しいので、これは一体。となってしまう。と言うか現実の須王を知っているので可愛いボイスで話されると違和感が半端ない。お前の年齢性別見た目諸々知っているのでそんなイケメンアバターで可愛いボイスされると脳が混乱するのだが。
本人はボイスチェンジャーを使っていないし、使う気もないらしい。そこまですると画面越しに接した人は須王を男性だと思ってしまう。騙しているようで心が痛むそうだ。それと、男性のアバターと女性の声を通して、「自分は男のつもりでいるが、体から発する声は女性であると言う違和感を体験して欲しい。それが今の自分の現状であり、トランスジェンダーへの理解が深まるのではないか」との事だった。
因みに、声が可愛いと言われるのは配信アプリで何度か経験があるらしいが、対面では指摘された事がないらしい。原因は不明だ。
これが発表された後には須王と約5年ぶりのカラオケでも楽しんでいる事だろう。
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