第7話 花倉城

「恵探殿は必ずや殺さなくてはなりませぬ。」


雪斎は義元に詰め寄る。


「それはわかっている。しかし我らが殺せば小田原がどんな付けごとを仕掛けるかわからんぞ。」

「そうです。そのため殺したのが我らではないと貫き通さなくてはなりませぬ。」

「今、目の前にいるがな。」


雪斎と義元は二人のみで恵探のいる花倉城に潜伏していた。他の付き添いがあれば情報が漏れるかもしれないからである。

目的は花倉城から呑気に出てきた恵探を仕留めることであった。


「花倉城から出てきた恵探は必ずや油断しております。そこを狙うのです。」

「花倉城からは見られるがそこは岡部の兵で潰せばよいのか……。なるほど…。」

「そうです。」


花倉城の城門前で殺せば花倉城内から見られるのは必定。そのため少人数しかいない花倉城内の兵、全員を殺すため近くに岡部親綱率いる約二万の軍勢が控えている。


「もうしばらくの辛抱ですぞ、義元様。」

「うむ。」



そして時は来る。



恵探が数騎の供回りを連れて花倉城から出立したのだ。花倉城の門前にはお見送りの家臣が五人程度。


「今です!」

「恵探殿!」

 

義元は叫びながら太刀を抜く。


「梅岳承芳……!」

「恵探様!今からでも間に合いまする。花倉城へ!」

「っ…!」 


恵探は駆け出す。


「義元様!恵探があちらに。」

「承知!」


義元が恵探を追う。

残りの恵探方の人数は雪斎により片付けられていた。


「恵探様!こちらです!」


花倉城から声が聞こえる。

福島の残党である。


「まずい!南側から岡部の軍勢が来るぞ!」

「なにっ!」


約二万の軍勢が花倉城に殺到する。


「恵探様!危ない!」


義元の太刀が恵探の横をかすめる。


「承芳!これは私が望んだことではあるまいぞ。」

「とうの昔にそれは重々知っております。今川の家督の席は二つはないのです。」

「ならばっ!」


恵探の脇差が義元の太刀を受け止める。

更に義元は自身の脇差を恵探めがけ突き刺すがかわされる。


「恵探殿。昔は仲良かった二人がこうして刀を振るうのもまた奇妙な縁でしょう!」


「承芳!そなた…!今川家を継いでなにをいたすつもりじゃ。」


(承芳…。そうか……。)


「恵探殿がなされようとしたことですっ!」

「左様かっ!」


恵探は一閃、脇差を義元に振るう。

義元は辛うじて太刀と脇差を交差させ受け止める。


「承芳!よく聞けっ!今川は遺族ではない、武士の家じゃ!」


(恵探殿……。私は。)


「わかっております!」

「ならば良いっ!」



恵探の力が一気に緩む。



義元は太刀を恵探の首に振るい、



直後に恵探は絶命した。



福島の残党及び花倉城内の兵卒は岡部の軍勢により一蹴された。



これにより花倉の乱は幕を下ろすこととなった。



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