第3話 離反

「河越城は欲しい……。だが本当か?」


北条氏綱は幾度も反問する。家臣の下北正実はもてあます。


「武田からの証拠も十分です。今川の太原雪斎からの書状としっかり一致しております。」

「左様か……。」


氏綱は関東一円の制覇また、河越城の奪取にどれだけの智謀をかけたかわからない。

それほどの城であるが、武田と今川が自然にくれてやるという。疑わないわけがなかった。

だが証拠は十分過ぎた。


「殿やっと河越城が手に入るのでございますなぁ……。」


正実は声を湿らせる。


「まだまだ信じたわけがあるまい。」

「しかしですぞ。この好機をみすみす逃すのもよくありますまい。」

「殿。よろしいですか。」

「おお!幻庵殿!お待ちしておりましたぞ。」


北条家の軍師、北条幻庵はこの年、四十六。

ますます智謀に磨きがかかっている頃合いである。


「今川及び武田からの書状はまず信じてよろしいでしょう。もし破約させられた場合ですが……。」

「うむ。」

「我らが今川領を侵せばよろしいのです。福島につくにしても、梅岳承芳につくにしても内乱のあとの今川領はそれ程、堅固ではございますまいて。」

「背後から武田が来た場合いかがする。」

「先に今川、北条国境付近に兵を結集させてください。あとは流れが決めます。武田は心配に及びません。迅速に今川領を侵せばよろしいのです。」

「承知した。正実、以上のことを皆に伝えて参れ。幻庵殿は今川方面軍に加わってくだされ。」

「承知いたしました。」


北条氏綱は福島から離反し、梅岳承芳につくことを決定した。


福島は最大の後ろ盾をなくした訳である。





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