第10話 魔法陣
今日のハレキソスの占い『
子爵令嬢のアンナはクラスメイトを自分の屋敷に招待するため念入りに準備をした。
彼女はアレクサンドリア達を貧しく哀れな者たちと考えていたが、嘲笑するつもりはなく、貴族の子女としての義務感に駆られて最大限のもてなしをできるようにと考えていた。
先日アンナの友達のレティシアが声をかけたところ、アレクサンドリアとハレキソスは奨学生ではないことがわかった。
クラスを担当する教授に確認すると、その二人は通常の入学生とのことだった。しかし、他に奨学生がいることがわかったので、その子も誘うことにした。ルーシーという名前の、茶髪でそばかすのある元気な子だ。
さらに、仲良しのマーラとレティシアも誘った。
口頭で予定を確認した後、書面でしっかりと招待状を出した。きっとこのような基本的なことも知らないだろう。招待状など初めて見たかもしれない。そう思っての気遣いでもあった。
さらに、お茶会ではなく食事会にしようと考えた。その方が学びが多いだろうと。
食事会当日。
3人のことを迎えに馬車を出していた。
4頭立ての黒毛の馬に牽かれた立派な馬車から、3人と案内の者(アンナの家のメイド)が降りてきた。
屋敷についたルーシーは、その豪奢さに驚き、空いた口が塞がらない。まだ門もくぐる前なのに、上を見上げ、横を見渡し、また上を見上げる。
「こんなに立派な家に住める人がいるだなんて……」ルーシーの口から無意識に言葉が漏れる。
正面玄関からしずしずと出てきたアンナは背筋を伸ばし、微笑む。
「この国は開かれた国です。誰もが努力すれば成功者になれます。皆さんは、魔法学園に入れたのですから、その第一歩はすでに踏み出せています。今日一日私と過ごすことで、皆さんが何かしらを学べることを期待しています」
すでに到着していたレティシアとマーラと玄関ホールで合流し、アンナを先頭に屋敷の中を歩いていく。
相変わらずあたりをキョロキョロ見回しているルーシー。
何を考えているのかあまりわからないが、「凄いな」とローブの下でつぶやいていたハレキソス。
しかし、屋敷の様子にあまり驚かないアレクサンドリア。時折随伴する執事に建築様式について訪ねている。
その様子に気がついたアンナは後ろを振り返る。
「アレクサンドリアは建築物に詳しいですね。そう言えばあちらこちらを旅していたのですね。このような屋敷を見たことがあるのですか?」
「はい」
「だからあまり驚かないのですね」
「使用人の多さに驚いています」
「使用人? そうですね。広大な敷地と、貴族にふさわしい暮らしを維持するためには、このくらい必要なのです」
アンナは目的の部屋に到着すると、くるりと招待客たちの方へ体を向けた。
「本日は、料理長に腕をふるってもらい、貴族が食べる本物のコース料理を用意いたしました。マナーはわからないかもしれません。ですが、学園で学んだことを活かせば自ずと正しいマナーに近い行動を取ることができるでしょう。そして、ぜひ我が家自慢のおいしい料理を存分に味わってください」
そうして食事をしている間も、ルーシーは驚き、アレクサンドリアは質問をし、ハレキソスはよくわからない反応だった。思っていた反応と違うことに少し戸惑っているアンナだったが、皆大きなマナー違反もせず残さず食べているので、成功だったと思うことにした。
食事が無事終わり、アンナは皆を見渡す。
「環境のせいで正しいマナーを学べない者たちがいることを私はわかっています。正しくないマナーが、更に貧しさを助長していくのだと私は考えています。皆さん、自分を卑下することはありません。これからしっかり覚えていきましょう」
それを聞いて、シュンとするルーシー。
反応のよくわからない、ローブ二人。
「ローブも本来であれば脱ぐのが当然です。基本以前の問題です。しかし、いきなり全てを変えることは難しいのでしょうね」
アンナの方を向いているので、話は聞いているのだろうが、反応が薄いローブの二人。
少し異様な雰囲気になってきたので、一旦空気を変えようと、アンナは手を叩く。
「本日は、皆さんをお招きできてよかったです。談話室にて一旦休憩を入れた後に、ご自宅へと送り届けたいと思います」
談話室でマーラとレティシアとも少し話して、いくらか打ち解けた6人。
そうして子爵令嬢アンナの食事会は、無事解散となった。
外から見ると反応のよくわからないアレクサンドリアだったが、『アンナたち三人組と仲良くなったわ』と、満足していた。
翌日の授業にて。
隣の子がペンを忘れたと言うので、アレクサンドリアは自分の羽ペンを貸してあげた。
「何このペンすごく書きやすい!」
使ってみた途端、とても驚く隣の子、エクセラ。
「アレクサンドリアさん、このペン、とても書きやすいですね!」そう言って、色々ノートに試し書きをしている。
その様子に気がついた周りの子も書いてみたいという。
次々に貸されていくアレクサンドリアの羽ペン。
「私のは、家にあった古いペンなのよ」だと嘆く子もいる。そのペンは祖父の作ったのだそうだ。骨董品だと自嘲していた。
しかし、逆にアレクサンドリアはそのペンに興味を示す。
「貸してくださいませんか?」というアレクサンドリアに、自分の骨董品のペンを渡す。
「とてもいい品です」と、ペンの触り心地を確かめながら、感心していた。
「ちょっと使ってみてもいいですか?」というので勿論と応えると、アレクサンドリアは見事な魔法陣を書き始めた。
そのペンで書いた魔法陣は、柔らかな火を灯した。
「これは……。悩んでいた謎が解けたかもしれません」アレクサンドリアはそうつぶやいた。
◇◇◇
今日のアレクサンドリアのメモ『髪の毛を2つ結びにする時の位置は、高くなると元気な子に見える(ルーシーの髪型より)』
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