第11話 閑話 見習い3人組②
アレクサンドリアは仕事場に来ていた。
広い机の片方には見習い魔法使いの3人組。もう片方にはアレクサンドリアと上司のパトリックが座っていた。
いつも物静かなアレクサンドリアが、魔法陣の古書を抱え、今日はどことなく嬉しそうにしている。仕事場ではローブのフードは外しているので、ニコニコしている顔もよく見える。
「実は昨日面白い発見をしたのです」
「面白い発見?」
「そうです。これを見てください」
アレクサンドリアはクラスメイトからもらったペンをどこかから取り出し、机に置いた。
「これは…」
「素晴らしいペンでしょう?」
普通のペンと言いかけたパロ。しかし、アレクサンドリアは素晴らしいペンだと言う。
不思議そうな顔で見上げる見習い3人組と上司。
「これは、クラスメイトのお祖父様が手作りなさったペンなのだそうです。とても素晴らしかったので、私のペンと交換してもらいました」
「えっ!? アレクサンドリア様のペンと?」
「この国での最上級品だよ? あげちゃったの?」
「僕が欲しかった…」
口々にそう言うペロ、ポロ、パロ。
「そうですね。普段私が使っているペンはとても良くできたものです」
そう言いながらアレクサンドリアは二枚の羊皮紙と、自分のペンも取り出した。
「一度見ていただきたいのです」
アレクサンドリアは見事な魔法陣を描いた。一枚目は自分のペンで。
そして、いつもどおり炎柱をあげて天井を焼きそうになるので、とりあえず天井を凍らせて打ち消す。垂れる雫は蒸発させる。
見慣れてはいるがそれでもやはりちょっと引き気味にアレクサンドリア除く一同は炎柱を見上げる。
「アレクサンドリア。そう言えばこのペン学園で使ってたのかい?」
「そうよ、パトリック」
「いいかい、アレクサンドリア。君は、君のペンは普通ではないのだよ? これを学園で使ったら驚かれたのではないかい?」
「そうね。気をつけてはいたのだけど、たまに。でも、この職場では加減をしなくても驚かれないのでとても楽だわ」
「そうかい。(いや、皆驚いてるけどね)」
「それにパトリックが色々とこの国での常識をおしえてくれるから、助かってるの」
「まあ保護者だからね。ああ、話がそれてしまったね。続けてくれ」
その炎柱はそのままに、次はクラスメイトからもらったペンで魔法陣を描く。その先はやはり非の打ち所のないラインを描くが、インクがボソボソと掠れていた。
そのペンで描いた魔法陣は、ほのかな火を
「火が弱いね」ポロがつぶやく。
しかし、「そうなのです」とアレクサンドリアはうれしそうだ。
アレクサンドリアは解説を始める。
「私のペンは、とても良くできています。そのためすべての魔力を完璧に込めることができるのです」
アレクサンドリアは炎柱を見る。そして、もらった方のペンを撫でる。
「ですが、この頂いたペンは適度に魔力を逃しながら描くことができるのです」
何となく、話の流れがわかってきた、見習い3人組。しかし、黙ってアレクサンドリアの話の続きを聞く。
「私が使っているペンや、この仕事場で使っている皆のペンはとても優秀です。対して、この書物が読まれていた時代に使用するペンは、きっとこの頂いたペンのようなものだったはずです。この土地で作られた、素朴な、民衆に伝わる伝統のペン」
愛おしそうにペンを撫でながら話を続ける。
「色々なことに納得がいきました。そして、わかったのです。これはとても素晴らしい発見です」
アレクサンドリアには珍しく、目をキラキラさせながら話す。
そんなアレクサンドリアに少し驚きつつ、何を言うのか、世紀の発明かと身構える面々。
「この本は……家庭の料理本です!」
ぽかんとする面々。
先ほど抱えていた古書を広げ、いろいろなページを指差していく。
「この魔法陣は炎柱の魔法陣ではなく、卓上コンロの魔法陣」
「この魔法陣は竜巻の魔法陣ではなく、ミルクの泡立て用」
「この魔法陣は……」
と、怒涛の勢いで解説を始める。
「なんと……」
意外な展開にあっけにとられる上司パトリック。
驚きはしつつも、途中の話の展開で先が読めていた3人組はその優秀さを発揮し、色々と質問を始める。
そして、パロが質問をする。
「それでは、先日再現された、特大の魔法陣はなんなのでしょうか? 人が百人は乗れそうな面積を焼き尽くす巨大魔法陣のことです」
「それは…、」
アレクサンドリアの答えを聞いた皆は、驚いたあととても楽しそうな顔になった。
「皆も呼んで教えてあげよう!」ペロがそう言って官舎の方に駆け出していった。
ペロが職員(軍人や国の役人)の皆を呼んで、大勢が官舎の中庭に出ていた。
特大の魔法陣を地面に敷いて待つアレクサンドリア。
パロが魔法陣研究室を代表して集まった皆に説明する。
「
ペロも続いて説明する。
「実験も兼ねて、本に描いてある魔法陣を色々試した料理もおいてあります」
ポロもはしゃぐ。
「皆さんでピクニックしましょう!」
そして始まったピクニック。
アレクサンドリアも嬉しそうにその様子を眺めていた。
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