第2話 『6月生まれの魔女の娘』
アレクサンドリアは、とても儚げな美しさをもつ少女だった。小さな顔。そして精巧に彫り込まれたような造りの顔立ちは、人形のよう。その顔の周りを包み込むやわらかな髪の毛も透き通るような青みがかった銀髪で、人間離れしていた。
彼女は救国の魔女を母に持ち、父も上司も夫もその仲間であった。しかし、そんな父も母ももういない。無駄に大きいだけの屋敷を維持するために一生懸命働いていた。
かつて、大冒険をして数々の英雄譚を残した両親。無事冒険を終えた魔女と勇者は子を設けた。
名前をアレクサンドリアとした。
過去にアレキサンドラという高名な男性がいたため、この名前は今までは通常男性につけられていた。当時としては古風な響きだったので、そもそも男性につけられることも稀だった。
それを、面白そうだと言う理由で魔女は娘につけた。
救国の魔女に新しい家族ができたことは、国にとっても吉報だと、大々的に報じられた。
長年国中を苦しめた怪異を解決した魔女御一行。暗い時代を乗り越えた国民にとって、新しい命の誕生の知らせは新しい時代の幕開け、その幕間から差し込む希望の光だった。
そして、救国の魔女にあやかって、その年に生まれた女子の親はこぞって同じくアレクサンドリアと名付けた。もちろん男子にも名付けられた。
役所の住民課は大混乱だ。来る人来る人、アレクサンドリアと名付けた出生届を持ってきた。中には改名を申し出る姓名変更届けの届け出もあったが、それは保留にした。
あまりにも多くの親がアレクサンドリアと名付けたため、国は混乱を防止するため、アレクサンドリアという名を禁止することとした。
しかし、すでに名付けられた子供たちの名前を変えろとまでは国は言えなかった。そのため、その年だけ異常な数のアレクサンドリアがいることになる。
数多いるアレクサンドリアを区別するため、みなそれぞれの特徴を冠言葉にして呼んだ。黒髪がうつくしければ、『黒髪』のアレクサンドリア。家が石屋であれば、『石屋の娘の』アレクサンドリア、などと呼んでいた。
そして、本物の魔女の娘のことは、特別こう呼んだ。
魔女の娘は6月の末日にうまれ、7月に発表された。そのため、6月生まれのアレクサンドリアは本物の魔女の娘ただひとり。ゆえに『6月生まれの、魔女の娘』のアレクサンドリア、と。
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