第四十三話 強力な武器
抵抗しないのか、出来ないのか……何れにせよさっさと動きを封じてしまった方が良さそうだ。
その前に一つ。
「とある情報屋の友人を殺したらしいな……理由は?」
「……」
やはり、大義など無い唯の快楽殺人か……このまま時間を食う訳にも行かないな。
「――何をしている」
広場中に響き渡る剣幕な怒号。
辛うじて動かせそうな右腕を足で押さえつけ振り向くと其処には、銀灰色の髪を首元で切り揃えた、茶褐色の肌を持つ女性。
そして彼女へ従う様に、傍らへと付き添うガッチリした体格の男。
「レイナード支部長、奴らが」
微かに聞こえる囁き声。
支部長?不味いな……ギルドの連中か?
「レイナード支部長!今更なんの用だ!?」
民衆から次々に声が上がる。
「そうだ、そうだ!アンタ等ギルドがロクに仕事もせずに放置していた事件を解決してくれたんだろう?」
徐々に罵声と怒号に包まれる広場。
それぞれが思うままに、ギルドへの不満を放ち始める。
段々と熱が上がり、そろそろ炎でも上がるのではないかと……。
「――良いか?お前達はコイツ等を英雄の様に扱っているが、この者達はバーキッシュ領にて謀反を起こした蛮族共だぞ」
その言葉をきっかけに寂然となる広場、忍び声が飛び交う。
否定するべきか?しかし、下手にこの場を逃れようとすれば怪しまれるかもしれない……どうする。
「皆の者、落ち着きなさい」
「兄ちゃん、済まねぇな。遅くなっちまった」
バルモンディと、其れに付き添うクルダーの姿。
胸を撫で下ろしたのも束の間、次はバルモンディの姿を目に、民衆が騒ぎ始める。
「バルモンディ様だ」
「おい、一体何なんだ……」
「しかし、謀反を起こした蛮族って……」
俺達を疑う声、バルモンディへの尊敬を思わせる声が無数に上がる。
「お静かに!……この者達は蛮族などでは有りません。そちらの青年達は
「バルモンディお前、何のつもりだ!」
「レイナードさん、其れは此方の台詞ですよ。政府や貴方達ギルドはこの期に及んで真実を隠し通そうとする、おつもりですか?魔族、国王の死の真相を隠し続け、自分達だけ甘い蜜を吸い続けるおつもりですか?」
民衆へと更に困惑だけが広がる。
「魔族がどうしたって言うんだ?」
「国王は魔族に殺されたんだろう?」
「おい、剣士の兄ちゃん!アンタ、バルモンディ様の協力者なんだろ?……政府やギルドが何か隠してるってのは本当なのか?」
そろそろ頃合いだろう――
「本当だ。この男が言っている事に偽りは無い」
さて、王家の復権を望む者達の記憶に全てを賭けるとするか……。
胸甲を外し、胸元を捲り上げる。
降り注ぐ訝し気な視線、ひそひそと声が上がり始める。
「おい!あれって……名誉王族の刺青じゃないか?」
又もざわつき始める民衆、確かな手ごたえを感じ取った。
「剣士のお兄さん、アンタ本当に名誉王族なのかい?」
「あぁ、そうだ」
徐々に、上がる声は歓声へと変わりつつある。
「ミーナ、こっちへ!」
「おいおい、今度はなんだ?」
一斉に浴びた視線に、恥ずかしそうに頬を紅に染めるミーナの肩へと手を伸ばす。
「彼女はミーナ。ミーナ・バスティーナ、国王ラルフ・バスティーナの息女であり、新たにこの国を牽引する君主だ!」
「……でも、王族って瞳の色が左右で違うんだろう?」
さぁ、どうなる……。
「確かそれ以外にも、身体能力が凄く高いって……」
「そう言えばこの
俺は胸の中で思わず、拳を握った。
「じゃあ彼等は本当に!」
空気が揺れる程の歓声が上がる。
王家帰還の熱狂が民衆を包み込む。
「王が、この国に王が還って来たぞ!」
「どれだけ、この瞬間を待ち望んだ事か」
鳴り止まない声……上がり続ける熱。
だが、その熱はギルド……レイナードへの怒りへと変貌を見せる。
不味いな、このままでは暴徒になり兼ねない……。
「皆、落ち着きなさい」
「バルモディ……貴様……」
「以前、貴方に忠告した筈です。民に寄り添わず、ただ言いなりになるだけでは何れこうなってしまうと……己の思いが有る貴方なら理解できると思ったのですが」
青筋を立て、舌打ちを一つ……レイナードは足早にその場を去ってしまう。
未だ歓喜の渦に包まれる広場、その光景は正に圧巻。
王家王族に対する信頼と尊敬が強い、此処だから成し得た事だろうな。
「おい、兄ちゃん……今が、一番いい時期なんじゃないか?」
「そうだな……今なら」
大きく息を吸い、吐き出す。
鼓動を落ち着け、再び息を吸い込む。
「聞いてくれ!」
同時に一点へ集まる瞳。
「俺達は今、魔族の真相と国王の死、暗く深い闇へと閉ざされた真相の為に戦っている。敵は強大だ……より多くの力が、より多くの声が必要だ!我が主、ラルフ国王と共に復興と繁栄を目指した者達よ、再び共に立ち上がってくれ!」
広場から領内、そして国中へ響き渡るかのような喝采が巻き起こる。
「リアム、嬢ちゃん……良くやった!」
今まで見せた事の無い様な優し気な笑みを浮かべたライド……俺、ミーナの頭を鷲掴みに……くしゃくしゃと撫でまわす。
「お前も良い囮役だったぞ」
「もう二度と御免だ」
まさか、此処まで上手く事が進むとは……あとは可能な限りの支援を続け、領内で一人でも多くの人が立ち上がってくれる事を願うばかりだな。
◇◇◇◇◇◇
――変革の
「では、ノーレン様、バスティーナ王女……そして皆さま、この国が真なる平和へと導かれる事を願っています」
「あぁ、此処まで随分と助けられたな……後は俺達に任せてくれ。レイラ、ペイル、外の事は頼むぞ」
「はい、任せて下さい。リアムさん、ライドさん……皆さんの無事を此処で祈っています」
「ライド、良い結果以外は受け付けないからね」
珍しいな、ペイルが不満を言わないなんて……。
何時も不平やらわがままやらで、俺達を困らせてくれたが……。
「ペイル、お前の真面目な顔、初めて見たぜ」
「今日くらいはね……」
微笑みながら、放つ口調は何時になく何処か寂しげだった。
「さて、そろそろ行くとしようか。今の私達には
低音、そして砂埃を上げながら鉄柵の門が開かれる。
一歩、また一歩と平和への道を確かな足取りで歩み出す。
湧き上がる民衆の声は、その足取りを更に軽く、力強いものとさせる。
静まり返った堂内に連なる足音が響く、止まる事の無い足で階段を踏み締め、二階層、三階層、やがて最上階へ。
豪華な装飾が施された立派な扉を開けば、都市を見渡せる大窓。
そしてその前に佇む、一人の老人……。
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