第四十一話 新たな協力者
状況は正に、ご破算と言った所か……。
次の当ても、特にない状態だがどうするか?。
◇◇◇◇◇◇
――帰路に就こうかと、思ったその時だった。
大通りに面した、広場からけたたましい悲鳴が上がる。
「おい!まさか!?」
堪らず駆け出すライドに釣られ、俺達も広場へと駆ける。
腰が抜けてしまい、へたり込んでいる女性の目の前には、惨殺された遺体。
「うっ……」
小さく声を上げながら、躊躇を見せつつ遺体の傍らへとミーナがしゃがみ込む。
「リアム、これ……」
震えた指先が示す先には、点々と続く血痕。
目を凝らし、血の周りを確認すると石畳を何かで引っ掻いた跡も残っている。
「ダメ元かも知れないが、追ってみるか?」
「そうだな、このまま収穫無しって訳にも行かないからな」
些か後ろめたさを感じながらも、遺体に背を向け血痕を辿る。
広場を離れ、再び大通りへ……そして住宅が立ち並ぶ区画へと続く血液の跡。
手掛かりを逃すまいと地面に注視する最中、ふと振り返る。
真後ろには眼帯の少女、そしてその後ろには筋骨隆々の男、最後に見た目だけは普通の男……そして其れの先頭に立つ俺。
傍から見れば、俺達もかなり怪しい集団だな。
そんな奇妙な集団で、血痕を追い辿り着いたのは、人気の無い商業街跡地。
そして薄暗い路地裏で、唯一の手掛かりは途切れてしまう。
しかし、此処までかと見渡した先には、如何にもな怪しい人物。
「おい、アイツ……」
「あぁ……如何にもって感じだな」
ライド、クルダーと目を合わせ、二人が頷いたのを確認し俺はゆっくりとその人物へと近づく。
短剣を引き抜き、喉元へ――
「ヒィ……」
悲鳴?。
「アンタ、何者だ?こんな所で何をしてる?」
「じ、自分は……その、情報屋で……広場で見つけた血痕を……」
「情報屋?なぜ危険を犯して殺人鬼なんかを追っている?」
先程の小さな悲鳴、そして小刻みに震える身体……突き付けた短剣を下ろし、男を解放する。
「友人を……」
「友人?其れがどうしたんだ?」
ポツリと呟いた言葉に尋ねると情報屋の男は俯いてしまう。
「以前、名刻の殺人鬼に友人を殺されました。だから、確かめたいんです……何故、友人は殺されなければならなかったのかを……あなた方も奴を追っているのですか?」
「そうだ」
「……協力して頂けませんか?どうしても……知りたいんです」
殺された理由……正直な所、大義名分など有るとは思えないが……。
しかし、考えてみれば以前は俺も……。
「分かった。ただし条件が有る」
俯いた顔を上げ、光の宿った瞳が向けられる。
「俺達が殺人鬼の確保、若しくは討伐に成功した暁には、その活躍が多くの民衆に知れ渡る様にして貰いたい」
「多くの民衆のですか?……分かりました、自分の知り合いを通じて、あなた達の活躍は必ず世間に広まる様に尽力します」
良し、新たな協力者が得られそうだな。
だが、どう動くが難題だな……。
「しかし、俺達も多くの情報を持っている訳じゃ無い。何かいい案は無いか?……奴を何処かにおびき出せればいいんだが」
「おびき出す……ですか。余所者……主に領外から来た人が被害に遭っているのは知っていますか?」
酒場の店主の話……領内ではこの話は多く出回っているのか?
「あぁ、その話は知ってるぞ……何でも被害者の殆どが余所者だとか」
俺達もバーキッシュ領の人間だと分かれば、狙われる可能性は高い……問題は俺達が何処から来たのかを知っている人物が居るかどうか、そして知っている者が居たとして、その内容がフェール領の中で広がるかどうか。
俺達は良い囮になるだろうが……。
「俺達が余所者だって事と殺人鬼を追っていると言う事を、広めたりする事は出来ないか?」
「広める事は可能ですが……正直、一人で動くには限界がありまして……」
「リアム!バルモンディさん達に手伝って貰うのはどうかな?」
そうだ、その手が有ったな。
此処の事情を考えると、バルモンディ達に広めて貰うのが最善だろう。
「そうだな。じゃあクルダー、バルモンディにこの件の協力を要請してくれるか?」
「ああ、分かった。じゃあ、囮役は……今日の事件が有った広場で良いな?」
これで、上手く情報が伝播し、この件を解決できれば前進も望めるだろう。
「一旦、宿へ戻るとするか。得られた情報と進捗についてサイディル達と共有をするべきだ」
終始、この話の最中に不安げな面持ちをしていたライドが気になるが、俺達は期待を胸に宿へと戻る事にした。
◇◇◇◇◇◇
「――これが今日有った事と、分かった事の全てだ」
「名刻……名を刻む殺人鬼ねぇ……」
「しかし、それほどの被害を出している凶悪な人物相手に、クルダーさんが居なくて大丈夫ですか?」
「いや、大問題――」
今だ、とばかりに口を開こうとするライドの口を手で覆う。
「大丈夫だ問題ない。其れにクルダー以外となると、単独で動くにあたって少し危ない気がする」
「確かにそうだね。さて、私達の方だが……物資の手配も順調に進み、二日程で此方に到着する算段が付いたよ」
情報が得られなかった時はどうなるかと思ったが……そこはかとなく、状況が好転して来たな。
一先ず、大きな問題が二つ片付くと言った所か。
「問題は、これによってどれ程の支持が得られるかどうか……」
「何時になく心配そうだね。でも、何時か君に言っただろう?私の経験上、善意が全て裏目に出た事は無いって……だからきっと上手く行くさ」
きっと上手く行く……相変わらず適当な男だな。
まぁ、そんな楽な考え方も悪くはないかも知れないな。
「じゃあ、そろそろ俺は発つとするか……兄ちゃん、皆、くれぐれも気を付けてくれよ」
「クルダー、君もだよ?」
クルダーの背中を見送り、扉が閉まる。
そして室内に立ち込めた静寂を、力無い声が破る。
「おい、まさかとは思うが……」
「どうした?」
「いや……どうしたも何も、クルダーが伝達の為に別行動だろ?お前がミーナを囮にするとは思えない……と、なると」
不景気な其の表情に、思わず微笑が零れてしまう。
「あぁ……活躍の場が無いと不満だと思ってな」
「ペイルと同じにしないでくれ……ありがた迷惑って知ってるか?」
不満を顕に、そして毒を含んだ笑みをわざとらしく此方へ向ける。
「迷惑?失礼な奴だな、俺は純粋な善意として受け取ってくれると思っていたんだがな」
助けを求める様な視線を周りへ……サイディル、レイラは少々、顔を伏せてしまう。
其れを見て、指を指しながら笑い転げるペイル。
俺が言うのも何だが……ロクな奴が居ないな……。
「はぁ……分かったよ。王女様の為と思えば……」
小さく響く声と同時に、クスクスと小さな笑いが部屋の中へと広がる。
◇◇◇◇◇◇
――さて、あいつを無理矢理あそこへ座らせて、早三日が経つが……。
俺の中で、未だに現れない事へ焦りが広がっている。
しかし、その焦りとは裏腹に広場の景色を目にすれば、何処か安心感を覚えられる様になっていた。
いや、広場だけではない……静まり返り、人の往来など数えられる程しかなかった都市の中は、今や多くの人で賑わっている。
そして只管、殺人鬼が姿を現すその時を待っている最中で励みになる事が一つ。
『名刻の殺人鬼による悪夢が終わる』
あの情報屋が上手く言い回ってくれたのだろう。
この文言が、何度も耳に届く事が只管に待ち続ける退屈な時間を、有意義に思わせてくれる。
恐らくこの賑わいも、その言葉に安心した数名から広がった集団心理の様な物だろう。
多くの人が集まる中でと言う事で、正直一抹の不安は有るが、この状況で本当に悪夢を終わらせる事が出来たのなら、ある程度の支持も得られるかも知れないな。
まぁ、そんなに事が上手く進めば苦労はしないんだがな……。
暫くは辛抱の日々が続きそうだ。
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