第二十六話 それぞれの役割
「まったく……」
そんな言葉を発する、ライドの顔には明らかに呆れの表情が浮かんでいる。
「何だ?お前達の記憶力は、鶏並なのか?」
「えっ?」
続けて放たれる、ライドの愚痴……もとい、罵倒にサイディルは間抜けな声を漏らす。
唐突な、罵倒に対して弁解を求めるサイディルを、失笑であしらいライドは再び口を開く。
「大義名分なら、有るだろう?……お前達は、情報を隠す事に疑問を抱き、其れを良しとしなかったが故にギルドと対立したんだろう?」
情報隠蔽への疑問……そう、仮にギルドと再び刃を交える事になっても、十分すぎる理由がある。
「では、それ等の行いを、第三者……つまり、国民から見たらどうだ?情報をひた隠しにする者と、それ等の開示を望む者……自らが住まう国の水面下で、何かが渦巻いている。其れを知った民はどちらを支持すると思う?」
国民からの支持。
成程な、この男の言う考えがなんとなく分かって来たな。
「そして、既に情報の一部と此度の出来事の全容をバーキッシュ支部と都市の中に、紛れている俺達の仲間が広めている。正直、あまり想像はしたくないが、様々な情報が交錯しているだろう……」
情報の交錯……そういう事か。
ライドの仲間が広めた情報によって今の状況は、イニールド率いるギルド本部の奴等がとある情報を巡って、ギルドに所属していた者達と対立しているという、構図が出来上がっている筈だ。
「そうか……此処で、俺達がイニールド達を倒し、王の死や魔族に関する情報を国民へ示せばって事か?」
俺の問い掛けに、ライドは満足気な表情を見せる。
「察しが良いな。そうなれば、お前達は逆賊どころか
変革者……この男の考えの先に至る所は革命か。
知り得る、真実を国民へ示す事で蜂起を促し、更なる深淵へと隠された情報の開示を、国民と共に新政府へ求める。
確かに、これならば流れる血は最低限で済む筈だ。
短期間ではあるが、
何かしらの、きっかけを示し多くの者、多くの力を動かす事が必要なのだと。
この男が、俺達に真実を伝えた様に。
「――変革者……だからこそ、姑息な手段は使えない」
呟く、ライドに
「真正面から戦いを挑み、勝利と真実を掴み取らなければならない……そこでお前達の力が必要って事だ。俺達の仲間の手を貸してやりたい所だが、其れこそ共謀や、蛮行等と言われてしまう」
その言葉にサイディルは、わざとらしく頷き返し納得した様な表情を見せる。
この演技めいた動作……ライドの思惑をある程度、見抜いた上で其れに対する、正邪を見定めるつもりだったな。
「成程ね。つまり私達は、混乱状態にあるバーキッシュ支部を再び統制した後に、彼等を率いてギルドマスターと再度、真っ向から刃を交えろって事だね?」
わざとらしい返答……だが、不満や反対の意は感じられないな。
「その通りだ。国の秩序を保って来た組織が、隠された情報の為に戦う……そんな構図を描く事が出来れば一層、国民からの支持は高まるだろう」
「……だが、逆を返せばギルドの打倒、情報の開示と民からの支持……一つでも欠ければ、次の目標である新政府の転覆も叶わないと言う事だな」
「どれか、一つでも欠ければ……か」
俺の言葉に、続けて唐突にクルダーが呟く。
暗がりの中で蝋燭に照らされる顔には何処か、気掛かりな表情を浮かべる
「……頭痛の種って所か?確かに、厄介な点が有るな」
「そうだな。戦力の差とギルドマスターだ……バーキッシュ支部が此方側に付いたとしても、圧倒的な戦力差が有る」
「それなら、問題無いと言いたい所だが……ジルリースやディスタルと同様にギルド本部の中にも潜んでいる奴等が他にもいる。戦況が乱れてきた頃なら一気に相手の態勢を崩せるだろうが……イニールド、めっぽう強い、あの爺さんが居ると話は変わるな」
熟考、苦心し、重苦しい空気が立ち込める。
其れを、一掃するかの様にサイディルが声を上げる。
「でも、こっちには渡り合った者が一人居るだろう?」
言葉が放たれると同時に、感じる熱い視線。
「……この状態じゃ、厳しいぞ」
渡り合ったとはいえ、結果は敗北だ。
はぐらかす様な、返答に気は乗らないが、今は自身の身体の状態を把握しているつもりだ……其れが故に。
「勿論さ!……行動するのは、身体が癒えてからだ。今の君なら互角に、いやそれ以上に渡り合える!」
不安を吹き飛ばす様な、満面の笑みを此方へ向ける。
今の自分なら、か……。
『君では、私を殺す事は叶わない』
その言葉の意味が、分かった気がする。
イニールド……是か非かは、いざ知らずアイツは忠義と己の信念を貫く為に、亡き国王そして、民の為を思い戦っていた。
だが、反対に挑んだ俺は……復讐、そう自分の為だけに、自らの目的の為だけに憎悪を乗せた剣を、振るっていた。
真実を知った今、俺の振るう剣は慈悲を求めた者の思いを乗せ深淵を切り開く……偽善と言われるかも知れない、だが其れは隠された真実を放って置く理由にはならない。
――それに。
「任せろ、両者が生きているのなら、まだ決着は着いてない。……それに、俺は今の現状に納得がいって無いしな」
放つ言葉にサイディルは一瞬、首を傾げ不思議そうな表情を見せるも、再び笑顔を浮かべる。
「そう言う事ね……だけど、あまり気張る必要は無いよ」
俺とサイディルの会話に、周囲は不可解な面持ちを見せる。
まぁ、無理もないだろう……だが敢えて、さらけ出す必要も無いだろうな。
「――決まりだな!」
ライドの放つ声が、流れる妙な空気を消し去る。
「じゃあ、先ずはクルダーとサイディルさんだが、バーキッシュ支部の再統率。俺は、開示する情報を写した文書を大量に手配しておく……リアム、お前は一刻も早く、まともに動ける様に尽力してくれ。良いな?」
一刻も早く……光を失った右目、レイラの言う通り無理は禁物だな。
「では、私は薬等を仕入れておきますね」
「あぁ、頼む。それと、もう一つ……再び統率が執られる前に、襲撃等されれば、この計画の全てが水の泡になる。其れを防ぐ為、俺の仲間達には暫く本部の周辺で暴れてて貰う……勿論、一般人に被害は出さない様に念を押してある。間違っても、そいつ等を制圧したりしないでくれよ?」
こんな所かと、場を締めようとするライドへ不満を露わにした声色で、呟く人物が一人。
「え……僕は?」
「……あぁ、そうだったな……」
ペイルのその言葉を聞き、考える素振りを見せるライド。
その表情には、明らかに煩わしいと言った面持ちが見て取れる。
「そうだ。この件に、片が付いたらフェール領へ向かう。あんた
「えぇ……」
何なんだ?この男、何が不満なんだ?。
「……めんどくせぇな」
ライドの口から確かに聞こえる、もっともな不満。
俺であっても、同じ言葉が出るだろう。
「分かった!じゃあ、オッサンはリアムと一緒に、最前線に立て!それまで待機だ」
あぁ、そう言えば……このペイルとか言う男、危険がどうとか緊張感が、どうとか言っていたな。
それなのに、何故この男は又も、不満そうな顔をしているのか……。
「はぁ。君は限度って物を知らないのかい?分かったよ領主に話を通しておけば良いんだね?」
変人……なのか?。
サイディルも少し変わり者だと思っていたが……ライドの苦労に少し同情してしまいそうだ。
「まったく……ラルフは何でこんな奴に、色々託したんだ?友人が最後に希望を託した奴だから手伝ってやってるのに……」
「あ?何か言ったか?」
「いーや、何も」
サラリと、冷たくあしらわれた言葉だが、俺にとっては、ある記憶が蘇る一言だった。
ここを目指す道中での事……。
『変わった構え……友人に似ている』
ミーナに教わった射撃法、きっとミーナに教えたのは父である、ラルフ国王だろう。
記憶が閉ざされても、ミーナの身体に染み付いた技術……其れを通じて、国王の友人である者と巡り会えた。
死して尚、技術、理想、友人を繋いで俺は今も、あの方と生きている……。
「嬉しそうだね?何かあったのかい?」
ライドから逸らした視線を、ペイルは此方へ向けている……つい、頬が緩んでいたか?。
「……何でもない」
「フーン……変わってるね」
変わってるのは、あんたの方だと思うが。
先程は、思い当たる節でも有るかの様に尋ねたかと思えば、今度は興味なさげな素っ気ない返答。
益々、理解が出来ない変わった奴だ。
「さてと……こう、ゆっくりと話せる機会も無いかも知れないが、そろそろ出発するか?」
腰を上げライドが呟く。
言う通り、今後こんな機会が有るかは分からないが、ずっと此処に留まる訳にもいかない……皆、異論は無いだろう。
外へ向かい出発の準備が全て整った頃、ライドが再び声を上げる。
「お前達……本当に良いんだな?」
そう放ちながら、全員の表情に視線を向ける。
「聞くまでも無ぇか……其の
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