第3話



 召喚の翌日、ラウルは自分の執務室に座っていた。部屋は書籍と古文書で溢れ、壁には神秘的な紋章や魔法の地図が飾られていた。大きな窓からは朝日が差し込み、部屋全体を温かな光で包んでいた。しかし、その穏やかな光景とは裏腹に、ラウルの心は穏やかではなかった。


「どうしたものか・・・・」


 ラウルは自問自答していた。彼の心は不安と焦りで揺れていた。


「協力するとは言ったものの、輝弥が使い物にならなければ、私の立場は危うい・・・・」


 彼は窓の外を見つめながら、自分の立場とこれからの行動を深く考えていた。


「ここは何としてでも・・・・」


 彼の瞳は決意で燃えていた。


「そうだ、私は若くしてグラント王国の筆頭魔術師になった男。こんなところでつまずいてたまるものか!」


 ラウルは机の上に広がる書類を見つめ、今後の計画を練り始めた。彼の心は再び魔術師としての誇りを取り戻し、挑戦に立ち向かう勇気を奮い立たせていた。執務室には彼の決意と、これからの苦難に対する覚悟が満ちていた。


 執務室のドアには控えめなノックの音が響いた。ラウルは深い思考から目を上げ、静かに入るように促した。


 ドアが開くと、美しいメイドが部屋に入ってきた。彼女のダークグレーの髪は長く、後ろで上品に纏められていた。黒い目は知性と冷静さを湛え、彼女の眼鏡はその知的な外見をさらに強調していた。彼女のメイド服は、彼女の高貴な雰囲気にふさわしい洗練されたデザインであった。


 彼女は部屋の中央に進みながら、ラウルに静かな視線を向けた。その瞳には厳しさと深い知識が感じられ、彼女の存在感は際立っていた。メイドでありながらも、彼女の佇まいは近寄りがたい印象を与えていた。


 メイド服を着た女性はラウルを見つめながら柔らかい声で尋ねた。


「お兄様、お呼びですか?」


 ラウルは少しのため息をつきながら答えた。


「ミシェーラ、ここではラウル様と呼べとあれほど・・・・」


 彼の声には優しさと少しの苛立ちが混ざっていた。


 ミシェーラはバートランド家の長女であり、ラウルの実の妹だった。彼女は魔術師としての才能は持ち合わせていなかったが、その高い教養と身体能力は広く評価され、城で仕えることになったのだ。年頃ではあるが、彼女の男運は悪く、いつもつまらない男たちを引き寄せてしまう。それがラウルにとっては悩みの種だった。


 ラウルは深く考え込みながら、ミシェーラに問いかけた。


「ミシェーラよ、輝弥の様子はどうだ?」


 ミシェーラは落ち着いた声で答えた。


「はい、お兄様。輝弥様は朝方まで書物にふけっておりました。そのせいか、まだ起きてきておりません」


「何、書物を?」


 ラウルの声には驚きと疑問が混ざっていた。彼は内心で悩んだ。


「おかしいな・・・・自主性はほぼないはず…いや、全く無いはずなのに、書物を?朝まで?」


 彼は焦りながら立ち上がり、決意を固めた。


「もう、打ち合わせをしないと間に合わん。奴の部屋に行くぞ」


 ラウルの心は不安と疑問でいっぱいだった。自分が設定したはずのステータスと輝弥の行動が一致しないことに、彼は深い疑念を抱いていた。


 ラウルは輝弥の部屋に向かいながら、どうやって彼を説得すべきかを考えていた。彼の足取りは速く、心は重い思いでいっぱいだった。


「輝弥をどうやって動かすべきか・・・・」


 ラウルの心は策を練り、その混乱と不安を隠そうとしていた。


 その時、彼はふと、後ろからついてくるミシェーラが何か言いたそうにしているのに気づいた。彼は立ち止まり、彼女を振り返った。

  

「ミシェーラ、何か言いたいことがあるのか?」


 ミシェーラは少し迷いながら答えた。


「いえ、何でもありません」


 彼女の表情には何かを隠しているような、複雑な表情が浮かんでいた。


 ラウルはミシェーラの返答に少し疑問を感じたが、今は輝弥のことで頭がいっぱいだった。彼は再び前を向き、輝弥の部屋へと足を進めた。ミシェーラの心に何があるのかは分からなかったが、ラウルはそれを探る余裕がなかった。彼の心は、これからの輝弥との対面に集中していた。

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