第2話
部屋には緊張感が漂い、周囲の者たちもこの瞬間に集中していた。彼らは一様にラウルの召喚の成功を見守り、彼の努力の成果を目の当たりにすることを待っていた。ラウルは深呼吸をし、集中を高める。彼の過去の苦労と努力が、この一瞬に集約されていたのだ。
召喚の儀式がクライマックスに達し、魔法陣から溢れる光がピークに達した。部屋全体が眩しい輝きで満たされ、その中心で、何かが形を成すかのようにゆらゆらと揺れていた。緊張の糸が張り詰め、ラウルの心臓の鼓動が耳に響くほどだ。
やがて、光の渦の中から人影がゆっくりと現れ始めた。光が徐々に収まり、その姿がはっきりと見えてくる。ラウルは息を潜め、固唾を飲んでその瞬間を待ち構えていた。彼の目は、召喚された存在に釘付けになり、期待と不安が交錯していた。
部屋の他の者たちも静かに見守り、誰一人として声を出さない。全ての注目が、ゆっくりと現れる人影に集中していた。
ついに、魔法陣の光が収まり、一人の男が現れた。彼は黒い髪を持ち、身長は高い。端正な顔立ちに黒い目が、彼の存在感を際立たせている。見た目からは、彼が非常に優秀そうな印象を受ける。
男はじっと立ち、周囲を冷静に観察している。そして、ラウルの方を向き、彼に冷たい視線を送った。その眼差しには、深い知識と経験が感じられ、ラウルはその視線に圧倒されるようだった。
召喚された男は、静かな足取りで前進し始めた。彼の歩みは堂々としており、そのたびに部屋にいる者たちの視線が彼に釘付けになった。ラウルの横を通り過ぎる際、彼はラウルにわずかに目を向けたが、何も言葉を交わすことはなかった。
男は王の前まで進むと、礼儀正しく跪いた。その所作は優雅であり、同時に力強さを感じさせるものだった。部屋の中は一瞬にして静まり返り、全ての者がその一挙手一投足に注目していた。
「私はあなた方の世界に召喚された者、上条輝弥」
男は落ち着いた声で語り始めた。
「私の力を必要とするなら、私は王の命令に従うことを誓います」
彼の声には、決意と尊敬が込められており、王もまたそれに感銘を受けた様子であった。
上条輝弥の挨拶が終わると、部屋には再びざわめきが戻り、人々は互いに視線を交わし、彼の出現について話し始めた。ラウルもまた、安堵と驚きの表情を隠せないでいた。彼の計画が、思いがけず成功したかのように見えた。
ラウルは、召喚された輝弥の振る舞いに心の中で安堵の息をついた。彼は心の中で喜び、始めの不安が杞憂に思えてきた。
「行ける!案外、これはうまくいくかもしれない!」
上条輝弥の堂々とした態度と王への敬意ある行動は、ラウルにとっても意外なほどの成功だった。彼は内心、自分の召喚術の成功に少し驚きながらも、その結果に満足していた。
「これで、私の立場も安泰だ・・・・」
ラウルは心の中でつぶやき、周囲の者たちが自分の成功をどのように見ているかをうかがうように視線を巡らせた。彼の心は、今回の成功によって自信に満ち溢れていた。
上条輝弥の予想外にも完璧な対応に、王は一瞬困惑した表情を見せた。しかし、すぐに王は落ち着きを取り戻し、威厳ある声で自己紹介を始めた。
「私はジルベスター・フォン・グラントリア、グラント王国の国王だ」
王は輝弥を見つめ、言葉を続けた。
「我が国のために尽力してくれることを期待している。君がここに召喚されたのは、運命に導かれたとも言えよう。」
輝弥は王の言葉に静かに頷き、その言葉を重く受け止めている様子だった。王の言葉には期待と、この新たな存在に対する希望が込められていた。
周囲の者たちも、このやりとりを注目深く見守っていた。ラウルは、輝弥が王に対してどのように振る舞うかを見て、内心で自分の成功を確信していた。
間堂輝弥は、力強いまなざしで国王ジルベスターに向き合い、深く頷いて承諾の意を示した。
「国王陛下、私はグラント王国のために尽力いたします」
彼は堂々と語った。その言葉には決意と強さが込められており、周囲の者たちは感銘を受けていた。
その後、輝弥はゆっくりとラウルの方へと歩み寄り、彼の横で立ち止まった。ラウルは何かを言おうと口を開いた。
「この国の・・・・」
しかし、その言葉は中途で途切れた。輝弥が彼の顔に近づき、小声で話し始めたからだ。
「これでいいんだろう」
輝弥が囁いた。ラウルは驚き言葉を失った。
「え・・・・?」
彼の表情は虚を突かれたように狼狽えた。
輝弥はさらに続けた。
「後はお前が適当にやれ。俺は知らん」
その言葉にラウルは青ざめ、思考が追いつかない様子を見せた。彼の心は混乱し恐怖に襲われていた。
「こ‥こいつ知っている・・・・のか?」
ラウルは混乱の中で必死に頭を回転させた。
「な・・・・なんだこいつは・・・・何かがおかしい・・・・」
彼は焦りながらも、冷静さを取り戻そうとした。そうだ、思い出せ。割り振れなかったステータスは・・・・何だった?
「確か・・・・戦闘には関係ない項目だった・・・・」
ラウルは必死に記憶を辿る。
「そうだ・・・・思い出した・・・・協調性、自主性、やる気・・・・」
彼の心は徐々に憤りで満たされていく。
「なんだ、このステータスは・・・・」
彼は改めて考え込む。
「とんでもないじゃないか・・・・今時の子供の成績表でもこんな項目見たことないぞ‥‥」
ラウルの顔には、自らの状況の理不尽さに対する怒りが浮かんでいた。彼は自分が割り振らなかったステータスが、今目の前で起こっている状況にどう影響しているのか、見当もつかないでいた。
王ジルベスターが、ラウルと輝弥の様子に気付き問いかける。
「どうかしたのか?」
ラウルは強烈な焦りを感じながらも、何とか誤魔化そうと努めた。
「いえ、何も問題はございません、陛下。ただ、少々確認をしているだけです」
しかし、ラウルの心は猛烈に動揺していた。彼は再び輝弥に向き直り、早口で小声で尋ねた。
「お前はこの国のために力を貸すんじゃないのか?」
「無理だ」
「む・・む・・・・むり!な・・・・なぜだ・・・・なぜ無理なんだ!」
輝弥は再びはっきりと言った。
「めんどくさい」
ラウルの心は絶望で叫んでいた。
「やる気ゼロのせいか!!!」
彼は息を切らしながら、現実を受け入れた。
「はあはあ・・・・そういうことか・・・・そういうことなのか?」
その時、輝弥の声がラウルの頭の中で響いた。
「そういうことだ」
ラウルの心はパニックに陥った。
「な・・・・なんだ!直接頭の中に声が!直接、こいつの声が頭の中にーーー!」
「落ち着け、ただの魔法だ」
「こんな魔法があるわけないだろーー!」
彼の声は心の中で絶叫していた。
「今作った」
ラウルは呆れと驚きを隠せずに言った。
「つ・・作った・・・・だと・・・・」
彼の心は再び高速で動き始めた。
「そんなことできるのか?聞いたことがないぞ・・・・しかし、圧倒的な知識があれば・・・・できるのか?」
輝弥は冷静に話し続けた。
「とにかく落ち着け。俺は何もする気は起きないが、体裁だけは整えてやる。めんどくさいがな。だから、お前も協力しろ」
ラウルは内心で憤りながら反発した。
「協力しろだと、何様のつもりだ・・・・」
彼の心は怒りと不満でいっぱいだった。
しかし、その時輝弥が彼の思考に割って入った。
「ミスをしたのは俺ではない、お前だ。後は分かるな」
ラウルは冷や汗をかきながら心の中で慌てた。
「バレてる・・・・まさか、こんなことになるなんて・・・・」
輝弥はその心の声に反応した。
「ああ、バレている」
ラウルの心はパニックに陥り、彼は自分の立場がどれほど危ういかを痛感していた。輝弥の言葉は彼に重くのしかかり、ラウルは自らの失敗とその結果に直面していた。
ラウルは悔しさを抑えながら言った。
「仕方ない・・・・とりあえず、何をしてほしいんだ?」
「とりあえずも何もない。どこかの部屋で休ませろ。細かい話は明日でいいだろう」
ラウルは内心で愚痴をこぼした。
「めんどくさいだけじゃないか・・・・」
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