あなたに会いたい
@zadazeke
無くしてから気が付きました
『その日は雨が降っていました。
悲しいくらいに静かに降る水は、私を鬱陶しく濡らしてゆきました。
度々通る車の音がより寂しさを引き立てました。
私はどうにも
それでもあなたは現れてはくれませんでした。』
そこまで書いて、私は鉛筆を置いた。
私は、今、亡き人への手紙を書いている。
書き終わって、墓の前に置いておくために。
毎週、時に毎月。
あなたが目覚めるのなら、どんなに喜ばしいだろうか。
ふとそんな事を思って、それは最早ゾンビだと思い直した。
あの人がいない生活も苦しいが、ゾンビがいる生活も良くはない。
ああ、こんな妄想をするのももう何回目だろう。
あなたがいた時は、私は心から楽しかった。
毎日毎日がそれぞれ強い個性と学びを持っていて、あなたがそれに一言加える。
今は、毎日の区別がつかない。
色がついていない。
あなたがいた、あの夏の日は、あなたが入道雲を写真に撮って、そのまま暑さにやられた頭でカメラを冷蔵庫に仕舞った日。
あの冬の日は、あなたが冷え切った手を私の首筋に当ててキレた私が「その上着の中身を全部雪に変えてやろうか」と言って実現した日。
あの春の日は、私があなたにおもちゃの芋虫をくっつけてあなたが飛び上がって半泣きした日。
あの秋の日は、あなたが落ち葉に火をつけて花壇の花の一割が灰になった日。
今は、あなたがいなくなったあの日は、私が抜け殻になってそのままずっと眠り続けた日。
後は、今日とその日以降今日以前の毎日だけだ。
今日は何を食べた?食パン?違う、それは…あれはいつだろう。
昨日はどんな服を着た?セーター?違う、それは…あれはいつだっけ。
ずっとそんな調子だ。
だから、あなたに宛てたその雨の日の手紙も、雨になる度にもう五回くらい繰り返しているであろう行動だ。
私があなたに手紙を書くのは、あなたがもしかしたら一言加えてくれるかもしれないから。
あなたが、戻ってきてくれるかもしれないから。
会いたい。
会いたくて、もう待つことすら、私にはできない。
私もそっちに行きたい。
でも、もしそこであなたが戻ってきてしまったらと思って、私はずっとずっと待っている。
早く、あなたに戻ってきてほしい。
ああ、早く。
早く。
あなたに会いたい @zadazeke
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