第2話 鳥か猫か

 権蔵爺さんの巣箱に、ホオジロが頻繁に出入りするようになった。

 オスが小さな虫や穀物を運んでいる。ヒナが生まれたのだ。権蔵夫婦は家の中から息を殺して見守っていた。


 夫婦には1男4女がいた。

 長女は夭折した。高熱を発し、ふもとの医者に診せに行く途中で息絶えていた。愛児を失い、夫婦はかたくなな性格になっていった。

 3人の娘は県外に嫁いだ。息子は嫁を取ったが、半年ほどで嫁を連れて家を出てしまった。

「一生の不作や」

 3人の孫に恵まれた今でも、嫁に対して評価は厳しかった。


 権蔵爺さんが居間でお茶を飲んでいた。婆さんが駆け込んできた。

「ヒナがやられとる!」

 2人で巣箱を見に行った。下にまだ産毛も生えていないヒナが、一羽落ちていた。

 手厚く葬ってやった。

「どうしたんやろなあ」

 権蔵爺さんは、手を合わせながら言った。

「富江んところの猫が歩いとったんや」

 婆さんは洋一の家の猫を目撃した、という。


 権蔵爺さんは夜、洋一の家に向かった。

 富江が勤めから帰り、夕食の準備をしていた。洋一と和子はテレビを観ていた。

 権蔵爺さんは猫をにらみつけた。その剣幕に、猫は姿勢を低くしてうなった。

「ええか。今度こんなことがあったら、その猫、ブチ殺してやるからな」

 爺さんの話は、富江たちには信じられなかった。


 猫が足を引きずるようになった。

「変な歩き方しとる」

 最初に気づいたのは、和子だった。

 洋一が見てやると、後ろ足にケガをしていた。


 隆も猫に同情した。

「どこでケガしたんやろなあ?」

 洋一は権蔵爺さん家の一件を話した。

「まさか?」

 隆にはありえないことだと思われた。

「いや、あの爺さんなら、やりかねんで」


 2人で権蔵爺さんの庭に忍び込んだ。

 やはり、小型のトラバサミが巣箱の下に仕掛けられていた。当地では「チャン」と呼ばれているものだ。強力なものだと、猪や鹿など大型動物の骨をも砕く。

「畜生! ホオジロと猫、どっちの命が大事なんや」

 洋一は唇を噛んだ。

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