続 村の少年探偵・隆 その1 他人任せ

山谷麻也

第1話 愛鳥爺さん

 小杉隆の生まれ育った千足村は、徳島県の西部にある。

 平成の大合併で、M郡からM市に変わった。隆の少年時代は村に12軒の家があったが、現在では3軒を残すだけになっている。隆の家も洋一の家も、もうない。


 かつて、村には人がたくさん往来していた。5人、6人きょうだいという家はめずらしくなかった。隆は6人きょうだいの末っ子だった。洋一のように2人きょうだい、ましてや従弟の修司のように一人っ子はごくまれだった。

 人も多かったが、動物も多かった。飼い犬・飼い猫が家族の一員になっていた。肉牛を育てて生計を立てている家がほとんどだった。たまに牛が逃げ出し、村人は戦々兢々せんせんきょうきょうとなった。


 隆の家では牛のほかに、猫がいた。祖父がメジロを飼っていて、庭の生垣に籠をおいて鳴き声を楽しんでいた。

 権蔵爺さんも鳥については、人後に落ちなかった。

 庭にはいくつかの巣箱をつくってやり、営巣を助けた。その時だけは、村一番の嫌われ者・権蔵爺さんの面影はなかった。


 冬には野山が雪に覆われ、野鳥のエサが枯渇する。

 子供たちは雪の上にあわひえ蕎麦そばの実などを撒き、大きな籠を仕掛けて捕獲する。野鳥は貴重なタンパク源となった。

 権蔵爺さんだけは、鳥たちが焼き鳥になることについて、誰よりも心を痛めていた。


 憂鬱な冬が過ぎ、権蔵爺さんの庭に今年も、ホオジロがやってきた。

 やがて、つがいになり、庭先でチチッ・チチッとかピピッ・ピピッとささやき合う。どこででも見かける鳥だが、権蔵爺さんはなぜか気に入っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る