第32話 俺様究極全力シリーズ聖槍爆裂ボーイ
ここまでポイントのことを一切気にしていなかった紅。
だけど現実は。
ここいらで一発ポイントを稼がなければ上位所か中盤まで落とされてしまう。
だけどここで再び大量の点数を稼ぐことが出来れば……。
周囲の目を気にせずに遊んでイベントを楽しむことができる。
そんな状況にいつしかなっていた神災チーム。
現在第二位の朱音たちのチームが僅差まで詰め寄り、第三位と第四位のチームも朱音たちの背中を追いかけている。
普通ならその危機感から真面目に頑張ろうと思うのだろう。
そう普通なら――。
考えて欲しい。
そもそも紅の普通とは一体なんだろうか。
その答えはここにあった。
「大きな声で叫べば届くと信じて 俺から送る愛の言葉~♪」
紅は知っている。
今までの経験上から、自分の思い付きが可能かどうかを。
そして今の紅は確信している。
それが出来ると。
そんなわけでレッドとブルーの演技タイムが勝手に始まった。
「ある日エリカさんの懐から盗んだ!」
「盗んだ!」
レッドの歌に合わせてブルーが続く。
とても楽しそうに歌う姿は場をホッとさせる。
今の所誰も死人は出なさそうだから。
そしてはっ! と最近アイテムの個数がなぜか合わない疑問が解決されたエリカの背中から冷や汗が止まらなくなる。
最近疲れていて見間違いや勘違いと思っていただけに……。
いや……本音で語るなら心の中で紅君ならいいっか♪ と思っていただけに。
里美とマヤから向けられる視線に「もぉ! 後でお仕置きが必要ね!」と本気で怒る演技で乗り切るエリカ。
「砲塔を~ここに設置 マヤさんがくれた~」
「くれた~」
その言葉に今度は里美とエリカの視線がマヤに向けられる。
坊や可愛いから二人に内緒であげちゃう♪ そんな感じで裏で甘やかしてしたマヤの喉が急激に乾く。
なので「いや……ワタシあげた記憶ないんだけどなぁ~」と戸惑う演技でその場で乗り切る。
「巨大化のスキルを使いまーす どんどん大きくなって 俺の心の愛のように 俺のムラムラのように」
森の中心地に塔のような巨大な砲塔が出現する。
それを見て、苦笑いが止まらなくなったイベント参加者が退散を始める。
死なないだけでフィードバックによるダメージはある。
そんなことから巻き込まれたくないと言うのが多くのプレイヤーの意志である。
それは最近神災も落ち着いてもう大丈夫だろうと安堵していた朱音たちも例外ではなく。中央エリアから逃げ始めていた。
それを見た参加者にプライドなど一ミリもなく、逃亡に全エネルギーを注ぐ。
道中。出現率がとても低い変わりに弱くて倒しやすい高ポイントモンスターがいても今は関係ない。ただひたすら皆が逃げる。
「照れ屋のたまたまさん 顔をだしまーす」
「もう一人たまたまさんも 顔をだしまーす」
砲塔の横に顔を出す巨大火薬玉。
正確にはアイテムツリーから取り出した手のひらサイズの火薬玉を砲塔と同じように巨大にして地面に置いただけ。それがレッドとブルーの分で二個。
一体なにをするつもりかしら……。遠くで見守る神災メンバーが首を傾ける。
あれでは今までの爆発となにも変わらないのでは? と。
そもそも今までと変わらないから、水爆とかでいいはずである。
名前が変わった以上なにかあるはず……。
「たまたまさんの要求に 心優しい紅さん 迷わない 手裏剣とまきびしをあげます」
レッドの歌に合わせてブルーが砲塔の中に手裏剣とまきびしをありったけ放り込んでいく。
「ムズムズチクチクの刺激 俺ちゃまの下半身 限界に近づく 時間の問題」
マヤが送ったメッセージ通り、歌と身体による表現で里美とエリカの願い通りに行動する純粋無垢な少年。
「レッド! 全部なくなった! ついでにアルティメットニトロゼロも!」
その言葉に親指を見せて、返事をするレッド。
もう後戻りはできない。
「こんなにも爆発しそうな 俺ちゃまの愛 誘惑するその身体 受け止めて」
レッドとブルーが力技で戦闘機を傾けて高度を上げていく。
「淫らな貴女が見たい 俺ちゃまは今こそ 俺様になって 君に見せる」
歌はラストスパートに入る。
旋回して今度は急降下を始めたレッドとブルー。
二人に迷いはない。
間違った意味で身体で表現する男二人は巨大火薬玉に向かって突撃する。
よく見れば砲塔の下の方には空洞があり空気を受け入れる場所があるではないか。
「これが俺様究極全力シリーズ聖槍爆裂ボーイ!!!」
俺様戦闘機が火薬玉に自爆特攻した。
レッドとブルーの自爆特攻を起点に火薬玉が引火し二つの玉が大爆発。
爆発で得たエネルギーの一部が砲塔の中に流れ込んでいく。
炎がアルティメットニトロゼロに引火し砲塔の中で激しくて巨大なエネルギーが生れていく。しかし巨大なエネルギーの逃げ道は一つしかない。砲塔の穴が空いている空だ。雲一つない大空が夕焼けのようなオレンジ色の炎で焼けている。綺麗な炎の塊から手裏剣とまきびしの雨が降り注ぐ。高い位置から落下した手裏剣やまきびしは当たっただけで激痛を与える鋼鉄の雨となって付近に居たプレイヤーとモンスターを襲う。
反射的に多くのプレイヤーとモンスターが炎の塊に目を向けた。
「ぎゃーーーーー!!!」
「うわぁぁぁぁ!!!」
「ひぇえええええ!!!」
「ウォォォォォんんんん……」
プレイヤーの叫び声が……。
モンスターの叫び声が……。
フィールドの中心地で聞こえてくる。
ランキング表では紅のポイントがどんどん増えていく。
そして悲鳴は大きくなる。
比例するようにモンスターの悲鳴も大きくなっていく。
これがもし来週向けられたら……想像するだけで不安に狩られるプレイヤーたち。
そんな中、爆心地の中心では。
「おぉーーあぶねぇーーー」
砲塔の中に逃げ込み、頭を両手で護り涙目の紅が居た。
「これやりすぎだろーーー」
「知らねぇよ。テメェの頭にニトロゼロの知識がないから全部入れたら……ひぇえええええ」
バサッ、バサッ、ドンッ。
木々を切り裂き、回転して落ちてくる手裏剣にレッドとブルーが心の底から反省する。もしこれが肉体に直撃したら……痛いどころではない。一種の拷問にしかならないと。盛り上がっている時はアドレナリンが分泌されて快楽に溺れていた脳。しかし全てが達成されると過剰なアドレナリン分泌が終わり冷静になる。
そしてようやく冷静になった脳はある答えを導き出す。
今回はやり過ぎた……と。
レッドとブルーの悲鳴は誰にも聞こえることはなく……王都エリアは暗黙の了解で再びプレイヤーが寄り付かなくなった……。
そして紅の首を狙っていた小百合も逃亡し……彼の独擅場となるのだった。
火薬の容量はしっかりと守る!
必要に応じて知識がある者が計算する!
なにより安全第一に使いましょう!
そんな言葉が新しい板で生まれた。
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