第30話 空襲警報発令とバカの本領発揮
「俺またエリカさん泣かせたな……くそっ」
この世に綺麗ごとがあるのだとしたら紅はそれを願う人間。
人類が誕生して今日まで誰一人制御しプロセスを解読出来なかった恋愛に対して綺麗ごとを願う少年は愚かで無知だと言える。
過去天才と呼ばれた専門家たちですらハッキリと証明できなかったロジックを高校卒業したばかりの男が完璧にわかるはずもない。
そんなこと少し考えれば誰でもわかる。
里美を取ればエリカが泣く。
エリカを取れば里美が泣く。
里美を選べばエリカが悲しむ。
エリカを選べば里美が悲しむ。
どう転んでも現状は誰かが悲しむ未来しか待っていない。
「くそぉーーーー!!!」
エリカの前で取り繕った笑顔は消え天高い場所で男が涙する。
「……」
「……」
エリカがいなければ紅に力はない。
エリカがいなければ……今の人生もきっとなかっただろう。
里美と違って自立した力を持たないから。
つまるところ紅とエリカは共存することでしか力を証明できない。
とことん追求するなら愛の裏にある依存関係。
それが二人の本当の関係。
片方に恋が入った時点で現実世界でもゲーム世界でも。
だけどお互いに居心地が良いのも事実。
だから紅の心は里美一途だったはずなのに揺れ動かされ、結果エリカも傷付くことになる。
「なぁ兄弟?」
「ん?」
「叫ぶぐらい悩んでいるなら担当制にしようぜ?」
(攻撃の話)
ブルーの言葉を聞いて一時的な場しのぎになるが「それだ!」と閃くレッド(本体)は冴えていた。
「なら俺は里美! ブルーはエリカさん! イエローはマヤさん! それで行こう」
(恋の話)
バカもここまで来れば天才と同じく究極の領域に達するのかもしれない。
そう……凡人には理解できない領域という意味で。。。
「……ん?」
話しがかみ合っていない気がするブルー。
ブルーはどこを攻略するか悩んでいると思いレッドに声をかけた。
「……えっ?」
ブルーと同じく攻略の指示と思い聞いていただけにイエローも難色の色を見せる。
だが……数秒後。
信じられない奇跡が起きる!
「なるほど。エリカさん=派手! 任せろ!」
「そう言うことか! マヤさん=恥じらい! こっちも了解!」
ブルーとイエローはレッドの考えをどうにかこうにか無理やり理解しようとした結果がこれだ。
誰が誰を戦場で喜ばせるかの指示と勘違いしたのだ。
会話のキャッチボールが出来ていないのにも関わらずそれぞれが自分の考えが合っていると思うだけにそれぞれの勘違いに気づくことは……ない。
――。
……一番イエロー。
「ったく情けない奴だな、見てろよ!」
スキルで複製された分身とアイテムストレージが共有できるようになった事実にレッドが気付いているかは別として人の姿に戻ったイエローは服を脱ぐ。
ムキムキマッチョでイケメン。
身体に自信がある。
腹筋が割れている。
全部の要素を満たしていない男――紅。
しかし自信に満ちた表情で水がないのでアルコールを頭から被るイエローは髪を手であげて恰好を付ける。
違う。
事実里美とエリカに惚れて貰っている時点で俺(本体)はモテ男だと確信した男は
「ハローエブリワン! アイムクゥレナイーッ!」
朝の挨拶を叫び、手榴弾を火薬代わりにして場を盛り上げていく。
コケッコーコーの変わりに。
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!
と夜明けの時間を皆に教えてあげるイエロー。
「ア~イム~マッスル~!」
ボディービルダーのようにポーズを決めていく。
まずは。
フロントリラックス。
続いて。
サイドリラックス。
リアリラックス。
サイドリラックス
とポーズを決めながら体を一回転させる。
ポーズと連動して火炎弾が投下され森林が燃えていく。
力強さや筋肉の大きさを象徴する代表的なポーズ。
フロントダブルバイセップス。
バイセップスとは上腕二頭筋。
両腕を曲げた状態で上腕二頭筋を見せるポーズだ。
両腕を上げていることから逆三角形の体型や腹筋、身体全体のバランスなどを見ることが出来る。
「マッスルゥ!」
ギャル=ムキムキなイケメンに弱いと考えたイエローは自分がイケメンだと過信することでマヤを悩殺することに決めた。
おまけで。
地上部から聞こえる悲鳴は歓声に脳内変換する自称イケメンのイエローに死角はなかった。
「からの、マヤさん大好きなサイドチェスト!」
胸の厚み。
腕の太さや背中や脚など、主に横から身体の厚みを見せる。
肩の大きさも強調して遠くから見ているであろうマヤに愛のメッセージを叫ぶ。
「アイ・ラブ・マナァーーーーーー!!!」
投下された閃光弾が眩しく光りイエローを光の中に隠す。
その間にポーズを変えて、
「ふぅん~!!!」
サイドトライセップス。
トライセップスは上腕三頭筋。
腕を横から見せて、上腕三頭筋を強調するポーズ。
一見ふざけているようにしか見えないが戦闘機の上でポーズを決めるイエローが通った道は空襲の雨に打たれ赤い炎が燃えていた。
逃げる者に不意打ちを与える閃光弾が目潰しの役割を果たし足止めをしたりと戦果とマヤの心両方で結果を出していた。
結果は――。
「なにやってんの……あの子……」
一ミリも心が揺れなかったマヤは遠くから呆れていた。
「最後はモストマスキューラーだ! さぁ! ときめきポイントは何点だ!?」
身体をやや前傾にして首の横の僧帽筋や肩の大きさ腕の太さを強調するポーズで最後を飾るイエローにメッセージが届く。
「ごめん、意味がわからないから零点」
グハッ!
戦闘機の上で精神的なダメージを受けたことで制御を失った戦闘機とイエローが近くの湖に墜落し湖の藻屑となった。
それを見たレッドとブルーは、
「「イエローォぉぉぉぉ!!!」」
と叫ぶのであった。
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