第29話 遂に俺様NEW戦闘機復活だZEぇ!!
人間慣れればその環境に適応していくことができる。
PVE解禁の初日こそは紅に全プレイヤーが踊らされたが二日目以降は本調子の実力者たちが本気を出して脅威的なスピードで初日の差を埋め始めた。
紅が占拠しているとも言える中央エリア以外を中心とした区域で活動する多くのプレイヤー。逆を言えば中央エリアは神災竜の巣穴として認知され誰も近づこうとはしない開放的なエリアとなっていた。
なのでマヤが夜風を全身で浴びたいと言い出し開放的な下着姿で寝ても神災竜の側にいると言うだけで夜行性のモンスターからの奇襲も下心を抱えた男プレイヤーに襲われる以前にそんな危険性の気配も一切なかった。唯一マヤの危険分子である本能に忠実で身体も下半身も元気な紅は「俺様のたまたまちょきーんは大惨事クラッシュボンバーブラッドレクイエム……くぅ!」と昼の手綱は離しても夜の手綱は離さない里美とエリカによって完全制御されていた。
つまり人の姿に戻らせてもらえなかった紅は昼は開放的な時間を過ごし夜は我慢の時間を過ごす生活を送っていた。
そんな開放的な昼の時間に今日新しい風が吹くのであった。
「紅君」
「どうしました?」
「まだ里美たちが寝ているうちに遊んできなさい」
■■■
エリカはニコッと微笑み優しいおはようのキスをする。
ずっと我慢していただけにエリカの方が我慢の限界に早くきてしまった。
女の子だって性欲はあるし、好きな人とイチャイチャしたいって気持ちはある。
それが身近にいればいるほどその気持ちは必然的に高まる。
愛に溺れる若い女子大生はその先は心を押し殺して我慢するが……やっぱり胸の奥が痛くて痛くて切なくて思わず涙が出て来そうになる。
でもそれは紅を困らせることになるから絶対に見せない。
罪悪感はある。
だからって全部我慢出来るほど人間は理性的ではない。
頑張って手放そうとすればするほど密かに一人毎日泣いてしまう。
強がって誰にも見せない涙が現実世界でもゲームの世界でも変わらない。
エリカは自分の心に気付いていた。
なんで自分がこうも紅を諦められないのか……。
答えはとてもシンプル。
考えるまでもなかった。
幾ら周りからチヤホヤされてもエリカがずっと憧れない物を紅が持っているから。
それは――。
【どんな時も自分を信じられる強い心と人が傷付くぐらいなら自分が傷付くことを選ぶ強さ】
たったそれだけ。
でもそれが恋の……いや……愛の……核。
太陽のように膨れ上がる愛はいずれこの身を焦がし自殺に追いやるかもしれない。
それでもいいと思える運命を感じる相手が紅。
世間はよくバカだと言うが……紅はかつて朱音の姉妹の未来のために自分が立ち上がり朱音に喧嘩を売った。結果はボロ負けだったが。
他にも里美たちが神々の挑戦に参加できるチャンスがかかったイベントでは自分は参加できなくてもいいとエリカに深く頭を下げてイベントボスと戦うための武器を作って欲しいと言い、実際に囮役からラスボスおびき寄せまで全部自分一人で成し遂げ力尽きた。
普段は確かにお馬鹿だろう。だけど仲間のために自分が傷つき自分の未来を犠牲にしても彼は絶対にそれを他言しない。まるでいつも通り何事もなかったようにへらへらと笑い頑張り傷付いている姿は絶対に見せない。
なによりエリカは知っている。
紅の義理の姉となった時、紅の母親から聞いたからだ。
『あの子がプロになった理由はエリカちゃん貴女のためよ』
紅はかつて里美のためにゲームを始めた。
勝敗も大事だけど里美にゲームをいつも楽しんで欲しくて。
そしてプロになった今はエリカの為に続けている。
『別に私は里美ちゃんでもエリカちゃんでもいいわ。あの子を幸せにしてくれるなら。でも忘れないで。里美ちゃんは里美ちゃん。エリカちゃんはエリカちゃん。比べる必要なんてない。だから里美ちゃんに置い目を感じたらダメよ。なにが合ってもね』
紅と里美が付き合ったと聞く前の言葉だった。
言い方を変えれば里美が同居すると聞く少し前でもあった。
『プロになったから里美ちゃんの方が優れているは違うと思うわ』
その言葉の意味が。
必死だった。
里美に負けないように……。
紅の中でメインヒロインは里美になったと思ったから。
だから泣いたし酷く傷付いた。
でも心の傷は広がっても一向に癒えない。
そう……私では里美に勝てない……そうどこかで感じているから。
だけど違う……私の得意分野はこれ……。
そう生産であり開発。
里美に負けないぐらい私の名前が有名な理由は間違いなく紅との関わりが強いからだろう。そう……エリカの中で紅は自分を輝かせてくれる太陽でありエリカは月。だから紅に強く依存してしまうのかもしれない。自分の可能性を今も昔も広げているのは間違いなく彼だから――。
■■■
「言われた通り三機。マヤが里美の目を盗んで素材集めてくれた。後は私が組み立てた。壊してもいいわ、楽しんできなさい。私の将来の旦那さん♪」
エリカはマヤのスキルを使い逆にスキルを別で一つ渡すように命じていた。
それも里美の目を盗み行われた。
つまりパトロンが全力で神災に力を貸したことを意味する。
それはつまり――誰かのフラグ回収。
「里美にも言いましたけど俺エリカさんのことも好きですよ」
「ふふっ、知ってるわ。里美から聞いたからね。でも一番は里美なんでしょ?」
「……はい」
優しい嘘か?
本音か?
建前か?
真実か?
虚像か?
それは言った本人しかわからない。
「ありがとう。私に可能性をくれて。行きなさい」
「はい」
静かな返事に続いて紅が神災竜の姿になる。
そしてイベントを通して多くのプレイヤーが恐れていたことが起こる。
既にポイント差に余裕がなくなってきた神災チーム。
それに合わせ手の内を今まで隠していた里美が動く予定だった。
しかし。
このタイミングでのエリカのお許しがイベントを再び大きく狂わせるきっかけになるかもしれない。
「行くぜ! 俺様たち!」
「おう!」
「おひさ!」
と三人になった紅が今、点火した俺様NEW戦闘機アルファーエックスエックスNo.2・俺様NEW戦闘機アルファーエックスエックスNo.3・俺様NEW戦闘機アルファーエックスエックスNo.4に跨る。
「行く前に伝えておくわ。誰がなんといようと貴方は私のヒーローよ」
「はい!」
力強い返事をして神災竜が大空へ羽ばたいたことで空襲警報が間もなく発令することが決定した。
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