第15話 隠し部屋報酬
「いぎゃああああああああ!!!」
「はぁ~」
里美は大きなため息をついた。
息が合っているようでどこか合っていない三人。
イベント開始から数分で各々ハプニング展開の連発に心が少し疲れ始めた時だった。
ドン、ドン、ドンッ!
何度も横の壁にぶつかる巨体の重量に耐え切れず壁の一部が崩れる。
「えっ?」
予想していなかった展開に驚く里美はスカートを整えるエリカに視線を向ける。
「うそぉ!?」
同じく驚くエリカ。
彼女も同じく里美の方に視線を向ける。
どうするか悩む暇もなく、二人はアイコンタクトで、罠はなさそう、宝物は本物っぽい、と素早く意思疎通をして隠し部屋へと入っていく。
「うぎゃあああああ、真っ白おパンツがあああああああ」
ボンッ!!!
ソワソワしながら大きな宝物箱に手を伸ばそうとしたエリカが真っ赤なゆでだこになった。ピタッと止まった手はまるで目に見えない鎖に繋がれた身体のように静止している。
「…………」
見られた羞恥心と紅の悲鳴混じりの言葉に恥じらいを覚えたエリカは息を吸い込んで、
「紅君のばかぁ!!!」
と叫んだ。
もし他のパーティーが居たら全員に自分の下着を暴露されたようなものだ。
それに女性プレイヤーより男性プレイヤーの方が参加率が多い今回のイベントでは尚更色々とアウトな展開。
「もう言わないでぇよぉ」
唇を噛みしめて涙目で訴えるエリカの声は、「うわぁぁぁぁぁぁぁ」と苦しむ男には残念ながら聞こえない。表現が難しい激痛にそれどころではないからだ。
「や、やりすぎたかな……」
来た道を引き返して里美が紅の眼にヒールをかけ回復させる。
そのままエリカが装備させたリードを引っ張り隠し部屋の中で待つエリカの元に連れて行かれる。
「は、恥ずかしいから……皆には私の下着内緒。いいわね?」
「……」
客観的に見れば飼い主にしか見えない女性から放たれる無言の圧に背中をびしょびしょにしながら頷く紅は心の中で反省していた。
この手の冗談は本気で怒られる、と。
その身を持って経験し、気まずい雰囲気にもなることを知った男は里美の顔色を伺う。
「…………」
「…………」
紅の視線に気づいた里美が視線を返す。
「…………」
「……なに?」
「いえ……なんでもありません」
どうやら怒っているらしく声に棘があると思った紅は自らの本能を責める。
この気まずい雰囲気をどうしようかと考える紅に変わって、エリカが口を開く。
「まぁ、私のミスでもあるから……ね?」
「……の割には本気で嫌って感じがしないわね」
「……そんなことないわよ?」
「なに? その変な間は?」
「なんのこと? 勝負下着ならともかくこんな……あ~、えーっと……そ、それより宝箱開けましょうよ!」
エリカの言葉をいち早く察した里美は「もういいわよ、アンタの感性本当によくわからないわ」とだけ言い残して宝箱を開けるエリカに近寄って行く。
「ん? 可笑しいわね……もしかして」
ゆっくりと近づいて来る足音。
軽く、力を感じない。
ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと。
時間が静止したように違和感を感じたエリカ。
このあと、どう挽回しこの状況を解決しようかと脳裏で必死に考えていただけにその違和感は唐突にやって来ては疑問に変わる。
「さっきの言葉で思ったんだけど里美本当は怒ってないでしょ?」
とても小さな声で問う。
「えっ?」
突然のことに思わず反応してしまう。
「嫉妬して素直になれないからとげとげしてない?」
「べ、別に?」
「そう?」
一瞬の錯覚。
紅が取られるのではないかという幻。
まだ自分に自信がないから生まれた幻想は里美の胸を強く強く強く、……強く締め付け心臓を握り潰そうとしたが無理だった。
告白した日の思い出がそれを強く否定したからだ。
『私蓮見のことがずっと前から好き。だから私を彼女にして? 蓮見の一番にして』
プロになり朱音と共にアメリカに行く前日の夜。
里美は紅に告白した。
その日、里美は死んでもいいと思った。
返事は言葉でなく、優しいキスから始まる言葉だった。
『あぁ! 喜んで』
その言葉を聞いた時、心臓が張り裂けそうになるぐらいに嬉しくて死にそうだった。その時の言葉に嘘はなかったって今でも信じられると今の紅を想って感じた。
だから、里美はクスッと笑ってしまったのかもしれない。
「初期装備にあるはずのスパッツ履いてない時点でラッキーハプニングを計算した女には言われたくないわ」
「……あはは、てへ♡」
笑って誤魔化すエリカは宝箱の中に合った巻物を手に取って広げる。
そこには五個のスキルが封印されていた。
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