第13話 隠しダンジョンとペット
滝の裏側にある隠しダンジョンに入った紅は急ブレーキをかけ立ち止まった。
その時、尻尾に入れていた力が抜け里美とエリカが前方に投げ出されてしまう。
「「きゃああああ」」
二人の身体が絡み合いながらコロコロとボールのように十五メートルほど前方に転がった。
「いてて。私アンタの彼女なんだけど? もっと優しくできないの!?」
身体を地面に強打した里美はゆっくりと起き上がる。
初心者装備のため、防御力は低く普段どれだけ防具に助けられていたか身に染みる。
「いたぁ~い。お姉さん愛のない痛いプレイは嫌い。もっと優しくしてよね」
同じく初心者装備で普段からこういった痛みに耐性がないエリカは涙目になりながら少し怒っていた。
幾ら好きな人とは言え、乱暴に扱われれば当然怒りたくもなる。
里美が彼氏の紅に対して怒らないのは甘いからである。
でもエリカとしては文句の一言でも言わないと気が済まない。
そう思い口を開こうとした時、エリカがあることに気付く。
「ここ隠しダンジョンになってるんだ」
辺りを見渡して早速状況分析を始めた里美。
ヒュ~と風が吹き抜ける音が聞こえる。
まるで幽霊が出そう、と思い後方を見ると、紅が固まっていた。
つまりそう言うことである。
「調子に乗って全速力で駆けていたせいでブレーキが間に合わず滝に突撃パターンと思ったけど、早速チャンス到来かしら☆」
エリカが周囲をキョロキョロと見渡す。
紅と里美の視線の先ではエリカが急にソワソワし始める。
「チャンス?」
里美も周囲を見渡すがエリカの言葉の意味がいまいちわからない様子。
「いやだぁー! 幽霊はぁああああ」
「くんくん、くんくん、匂う、匂うわ!」
「え? だから、さっきからどういう意味?」
里美は疑問の眼差しをエリカに向ける。
「お宝の匂いよ!」
「いや、なんも匂わないけど?」
「とにかくこの奥にあるのは間違いないわ!」
キラキラと光輝くエリカの眼に里美がチラッと絶望の目でダンジョンの奥を見つめる紅を見た。ここまで対照的な二人にどうしようか悩む里美。そもそも紅のテンションがジェットコースターのように上がったり下がったりしてることに既に付いていけてない。もっと言えば急にテンションが上がったエリカにも。
「もしかして行きたいの?」
「うん!」
「なら俺は……出入口でお留守番しときます」
そそくさと後ろを振り返って今すぐにでも一人逃亡しそうな大きなペットが迷子にならないように足元に落ちていた古びた縄と鉄リングで
「だぁめ~♪ 逃がさないわよ♡ うふふっ」
「大丈夫? 紅?」
「……う、うん」
「後でいい子いい子してあげるから頑張れる?」
「……は、はい」
「今日の夜膝枕してあげるから、ね? ってことで出発!」
巨大な首輪を付けれられた神災竜はエリカのペットとしてリードを引っ張られ渋々ダンジョンの奥へと進んでいく。
どんなに嫌でも大好きな女の子たちのお願いには勝てない男子はこの時心の中で「幽霊だけはでませんように……」と必死にお祈りを始めた。
身体は大きくなっても度量は変わらず幽霊嫌いのままだった。
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