第一章 神災者の名の元に スキル集め編
第11話 イベント前
■■■
イメージチェンジで髪色を変えた小柄な女性はタバコに火を付け煙を吐き出す。
「ハンデがなくなった。明日は己のプレイヤースキル以外全て零になる」
蓮見の家から比較的近いホテルのベランダでそう呟く朱音は夜の街が作り出す光の世界をぼんやりと身ながら呟く。
吐き出す息は煙とは別に朱音の悩みも内から吐き出していた。
娘たちの未来である。
娘たちの同世代は例えるなら視線を上げた先にある一等星の集団。
どれもこれも輝いていて、決して輝きを失わない星の集団。
その中に一つだけ自ら光を放つ常識外れの星が一つ七色の光を放っていた。
その七色の光の美しさに惑わされた星たちは美女に惑わされた哀れな男のようにホイホイと集まっている。
その星全てが娘たちのライバルである。
「明日は何のスキルを持ち込むのが正解かしらね」
同時に朱音が最も興味を持つプレイヤーでもあった。
なぜなら惑わされたのは娘やその周囲にいる者たちだけでなく、朱音自身もそうだったからだ。
約二年前まではとても小さく輝く予兆すらなかったただの石ころ。
だけど片鱗はすぐに置き、気づいた時には光る七色の石となり巨大化して宇宙に飛んで行き人々の関心を惹いた。
原点回帰と言う言葉があるように、あの少年の原点回帰。
なぜだろうか?
朱音は自身に問いかけ、心の声に耳を傾ける。
息を吸いタバコが短くなるように朱音は自身の出すべき答えを自らの意志と信念で手繰り寄せ再確認をする。
疲れからくる疲労感。
それを忘れさせるほどの存在が明日敵として現れる。
娘たちの心配。
戦うことでその悩みを忘れるのではなく、解決できそうな気がする相手。
アイリスだけでなくアリスもチームに加わり一強の最強過ぎる迷い。
世間は違った。
世界で活躍する自分たちよりネット世界は今――渡辺蓮見の話題一色で盛り上がっている。
そう――少年こそが最恐であり、朱音にとってのラスボス。
少年を倒さずして、朱音のプロゲーマー人生に終わりはない。
――過去。
日本に置いていた娘たちをアメリカに連れて帰ろうとした時、娘たちの為に自ら立ち上がり朱音に喧嘩を売った少年。
そして、本気でゾッとさせられた。
自分のためには何一つ戦えない弱々しい印象だった少年が娘たちが願った日本に残りたいと言う願いの為だけに信じられない力を発揮し朱音に立ち向かってきたからだ。
圧倒的な力の差を見せつけるように正面から勝負を受けて立ち捻り潰した。
それでもボロボロの身体をゾンビのようにゆっくりと動かして、フィードバックで襲う痛みに耐え力強い眼差しで朱音だけを見ていた真っ直ぐな瞳は今でも忘れることができない。
なにより強くなりすぎて数年の間湧くことがなかった高揚感をあの少年は与えてくれる。
強者としてのプライドがたった一人の少年に恐怖した日のことをまだ心の中で許してくれない。
だから――朱音は少年の家がある方向に向かって小さくこの言葉を夜風に乗せて送る。
「私は本能に従って同じ土台に立ったダーリンを倒すわ。もうプロと素人言う垣根はないしね、うふふっ」
それは美魔女の微笑みか、それとも先輩としての微笑みか、はたまた違う微笑みか、その答えは明日へと持ち越される。
■■■
――翌日。
宇宙フィールド実装までの時間稼ぎとしてではなく、プレイヤーに娯楽を提供する目的で開催された『時を超えた時空』。
開会式に合わせ、多くのプレイヤーがログインしてその瞬間を待つ。
それは参加者だけにとどまらず、
ある者は、野球観戦感覚でイベント観戦。
ある者は、身内や友人の応援。
ある者は、特定の誰かの活躍を見に来たり
観客席も賑わいを見せていた。
イベントにはサプライズ参戦者として普段はプレイヤーたちを苦しめる存在として知られる小百合も参加する。
その正体は運営陣と一部の者たちしか知らない。
既に小百合の中身はNPCではなく、生身の人間に変わっていて、それが誰であるのか。
そんな小百合の視線の遠くにある男がログインしてきたのが目に入った。
「ようやく来たわね」
高校時代の蓮見のクラスメイトにして美紀の親友でもある橘ゆかりは小さく微笑んだ。
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