断章その2

第42話 休日とたこ焼き器

 俺たちが家でたこ焼きのような物を作る事になったのは、芳佳の思い付きと気まぐれに俺が乗っかったためだ。

 その日は久々の休日で、俺も芳佳も朝は家でまったり過ごしていたのだ。たまたまテレビを付けた時に丁度ご当地グルメをやっていて、それでたこ焼きの紹介をやっていたのだ。芳佳は興味深そうに、食い入るようにたこ焼きを眺めていた。

 そして昼前。芳佳は近所のスーパーに繰り出した。二人で古新聞やチラシを整理していた折に、クーポン券か割引券の類を発掘したのだ。しかもよく見れば、近所にあるスーパーを対象にしたやつだった。

 もちろんと言うべきか、そのクーポン券は芳佳にそのまま渡した。

 彼女との同居生活が始まってはや半月が経過している。そんな中で、俺たちの間でも役割分担も何となく出来ていた。食品や日用品の買い物は、今やほぼほぼ芳佳の役目になっていたのだ。俺も全く買い物をしないわけでは無いが、お米とかお肉とか野菜の類は彼女の方が安値で買う事が多いので、その辺は大体お任せしてしまっている。

 というよりも、たまに俺が買い物をすると、「もっと安くで買えたはずなのに勿体ないわ」と言われる事も度々あったくらいだ。


 さてその芳佳が帰宅したとき、野菜や肉類と一緒に、たこ焼き粉やボイルタコを購入していたのだ。


「芳佳ちゃん。たこ焼き粉とかあるけれど、どうしたの?」

「朝のテレビを見ていたら、何か急にたこ焼きが食べたくなったの。それに、たこ焼き粉も安かったから……」


 俺が質問すると、芳佳は素直に答えてくれた。厳密には、ちょっと照れたような表情で、頬に手を当てて上目遣い気味だったけれど。要するに、今日の芳佳も可愛かったって事だ。


「たこ焼きかぁ……でも俺、最近作ってないけど」


 多分これはたこ焼きを作ろうぜ、という流れだろうな。そんな風に思いながら俺は呟いた。俺自身、最後にたこ焼きを作ったのがいつだったのか、もう思い出せない。実家にいた頃は義弟やその友達の為に作ったような気もするから、十年近く前の事だろうか。

 それはそうと、総菜のたこ焼きそのものではなくて、たこ焼き粉とかを買ってくるのが、何となく芳佳らしいと思った。

 まぁ、彼女は妖狐だから、人間用のたこ焼きを食べられないというだけなのかもしれないけれど。


「直也君が出来なくても大丈夫。私、たこ焼きとかラヂオ焼きなら何度か作った事があるもん。えへ、生まれも育ちも大阪だから」

「芳佳ちゃんは地元民だもんねぇ。俺は姫路出身だけど……そりゃあまぁ関西だからたこ焼きとは馴染み深いよ」


 むしろたこ焼きよりも、たこ焼きのご先祖様(?)である赤石焼きに縁深いかもしれないな。というか芳佳が言っていたラヂオ焼きって何だろう。

 せめてラヂオ焼きの事だけでも聞こうかな。そう思っている間にも、芳佳は具材の下ごしらえをすると言って台所に向かってしまった。

 俺はそんな芳佳をしばらく見つめていたが、台所の隅にあるたこ焼き器を探し始めた。通電式の、一度に二十四個たこ焼きが作れるやつだ。俺自身、特段タコパをするようなつては無かった。とはいえだからと言って、たこ焼き器を購入しない理由にはならないだろう。

 ただまぁ、今回は芳佳と二人でたこ焼きを作るのだ。狐ってタコとか食べて大丈夫なのか、そもそも作ったとしても二人で食べきれるのか。その辺は少しだけ気になってしまった。

 だけどたこ焼き器を取り出しているうちに俺も何かワクワクしてしまい、まぁなるようになると思い始めたのだった。


 ちなみにラヂオ焼きはたこ焼きのご先祖様で、牛スジをたこ代わりに入れて焼くものだった。流石に今回は牛スジが無かったので、ラヂオ焼きは作れなかったけれど。今度タコパ(?)した時に作ってみるのも面白いかも、と思った。


※本文中のキツネがたこ焼きを食べる描写は小説上の表現です。

 犬猫等のペットにたこ焼きを与えると体調を崩す可能性があるので絶対に真似をしないでください(筆者註)

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