第一章:キツネに惚れられ共に過ごす縁
第1話 コドクな過去と恋の終わり
※
孤独感に疎外感。俺はずっと、そんな感覚を抱いて生きてきた。
ぼっちでコミュ障だとか、そういうフワッとしたものとは違う。何せ俺は……一緒に暮らしていた両親や義弟からも距離を置かれていたんだからな。義弟とは八歳違いでそこそこ歳が離れていたから、両親もある程度大きくなった俺よりも、弟の方が手がかかるんだろうなって思っていたさ。
でもそう言えば、弟が生まれるうんと前から「直也はしっかり出来るだろう」「直也はちゃんとやりなさい」って言われていたっけ。子供の頃の記憶なんてあやふやだから、その辺は忘れちまったけれど。
その両親が本当は育ての親であるって事を知ったのは、高校生の頃だったはずだ。実の両親だと思っていた二人には血の繋がりは殆ど無くて、その二人の実子である弟も、義理の弟に過ぎなかったという訳。
もちろん驚きはしたけれど……でもそんなにショックを受けたとか、そこまではいかなかったかな。ああ、そうだったんだな、という思いの方がむしろ強かったくらいだし。血が繋がっていない養子だったから、両親も弟に較べてよそよそしく振舞っていたんだなってな。
家でそんな風に扱われていたからなのか、学校のコミュニティにも俺は馴染めなかったと思う。見てくれは悪くないと言ってくれる女子なんかもいたけれど、基本的にはからかわれるか、単なる陰キャとして放っておかれるかのどっちかだったっけ。
でも俺としては、からかわれるよりも放っておかれる方が辛かったかな。からかわれるのなら、まだ相手との繋がりもある訳だし。
学園生活はアオハルだなんて言うらしいけれど、俺のアオハルは、ひどくくすんだグレースケールの日々だったような気がしてならない。もっとも、そのせいで部活や遊びにうつつを抜かす事はなく、その分のエネルギーを勉強なんぞに注いでいた訳だから、成績だけは良かった。そのおかげで学費の安い公立大学に入れたし、そこからの縁故でそこそこいい会社にも就職できた。それは育ての親たちも喜んでいたかな。
……もしかしたら、親に喜んでもらう事を見越して、俺は勉強を頑張っていたのかもしれない。今になってからああだこうだ思っても、どうにもならない事かもしれないけれど。
それでも、就職して真面目に働いているうちに楽しみが出来たんだ。
まずもって好きな娘が出来た。
だから俺も、段々と彼女の事が好きになっていった。付き合う事が出来ればなぁ、なんてこともいっちょ前に思う位には。
でも実際に告白しようと思っても、その一歩手前で踏みとどまってしまい、尻込みしてばかりだった。俺は木幡さんの事は好きだけど、向こうはどう思っているのか。単なる同僚として見ているだけなのかもしれない。運が悪ければ俺は拒絶されるかもしれない……そう思うと、俺は中々彼女に告白が出来なかった。
その代わりに、彼女がどんな事が好きなのか、それとなく調べる事にしたのだ。前もって彼女の好みを知っていれば、彼女が好んでくれるような俺を演出できると思っていたから。
しかし――そうした俺のささやかな努力も全て無駄だった。要は失恋したのだ。
なんと木幡さんには恋人が出来ていた。相手は
その藤原と木幡さんが一緒にいる所を見て、俺は悔やみきれないほどに悔やんだ。自分はやはり選ばれない存在なのだ、と。そしてもしかしたら、そうして卑屈になって行動を起こさないから、尚更俺は孤独になってしまうのではないか、と。
たった一人だけで片想いに溺れ、何の行動も起こさぬままに恋が終わる。確かに情けない事だとは思う。それでも想い人に彼氏がいたショックとおのれの不甲斐なさに頭がどうにかなりそうだった。
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