7-08 かつてない激闘が始まろうとしていた
「あの人たちなんなの!?」
「まさか……地球人なのか?」
俺のシェイクを見て獣人側の地球人たちは、困惑して顔を見合わせている。
対する聖国側には、剣聖以外には一人しか黒髪がいない。ルチアのジーンズを目ざとく見つけた女だ。
そいつも含めて剣聖のハーレムパーティーだろう。五人の女が騎士たちの後ろでまとまっている。昔は美紗緒も入れて三人地球人がいたと思ったけど。
その女は、リーダーらしき騎士に向けて金切り声を上げている。
「ワケわっかんないけど、とにかくアイツら捕まえて! なんでシェイクなんか持ってるのか吐かせないと!」
「はっ、了解しました。おい、行け」
騎士リーダーの命令で俺たちを捕らえようと騎士が三人突撃してくるが、セラとルチアに簡単にのされた。
すぐさま女の叱責が飛ぶ。
「ちょっとぉ、なにしてんのよ。つっかえないわね!」
「もっ、申し訳ありません。しかし今の動き……きゃつら、かなりの
「だったらもっと大勢いかせればいいでしょっ、バカなの?」
「それでは獣どもの相手が……」
「ああもう、いちいち口ごたえしないでなんとかしなさい! 絶対捕まえるのよ!」
キーキーとヒステリックに叫ぶ女に、苦虫を噛み潰したような顔で耐える騎士。よく殴らずにガマンしているものだ。
「あれはたしか回復魔術使いの女ですね。あの女以外は顔ぶれが変わっているようですが」
ニケが教えてくれて少し思い出した。
「ああ、性格はまるで癒やしにならないアイツか。剣聖の次にノリノリで俺をイジメてくれたな」
「……そうなんですのね」
一瞬セラが浮かべた凍りつくような冷たい目は、背筋が寒くなるほどだった。
縮み上がった金玉をほぐしているあいだに、一連の流れで獣人聖国双方の警戒レベルが上がってしまったようだ。
お互いだけでなく、こちらにも対応できるように陣形が変わっている。
その様子を眺めるルチアは、ちょっとガッカリしていた。
「やはり聖国に神奉騎士はいないようだな」
藪からの覗き見ではハッキリわからなかったが、聖国側は全員正規の騎士ではあるものの、黒い修道服に紫鎧の神奉騎士の姿は見えない。何人かくらいは同行してても良さそうなもんなのに……。
そしてニケは、獣人を見て不思議がっている。
「それにしても獣人は、ずいぶん数が少ないですね」
逃げた獣人たちに聖国が追いついて戦闘になったのかと思ったが、それにしては獣人の数が少ない。
内森林のたき火跡から推測すれば、戦える者はここにいる数よりも断然多いはずなのだが。
「ま、獣人は放置でいいか」
「もちろんですわ。こちらから手を出して敵に回す意味はありませんわね。あちらから手を出してくる余裕はないでしょうし」
「ではミサオと話をするためにも、聖国を叩くということでいいな?」
わざわざここまで来たのに、目の前で美紗緒が殺されでもしたらムダ骨すぎるし仕方ないな。
ルチアにうなずいた俺を、ニケがセラに渡した。
「では騎士たちには私が当たるので、セレーラは念のためマスターをお願いします。ルクレツィア、貴女は剣聖の相手をなさい」
「ん、いいのか?」
因縁のあるニケが剣聖の相手をするのかと思っていたが、意外にもその気はないようだ。籠手やすね当ては装備しているが、剣も出していない。
因縁なら俺もあるけど……俺じゃ勝てないでしょ。
絶対この手でぶっ殺してやる、みたいな強い思いもないし。
俺にとって剣聖は、どっかで無様に野垂れ死んでくれたらいいな、くらいの相手である。
「ええ、むしろ関わりたくありませんし。私はあれらが動いたときに対処します」
「……なるほど」
二人が目を向けたのは、剣聖のハーレムパーティーだ。
今は騎士に守られる陣形になっているが、剣聖と行動を共にできるほどの実力者であり、騎士たちより強いはずだ。注意を怠るべきではないか。
「では遠慮なく私がいかせてもらおう。剣聖職の力、どんなものか楽しみだ」
ウキウキのルチアだが、一応クギは刺しとかないと。
「楽しむのは構わないけど、気をつけろよ。さっきの剣聖は手を抜いてたんだろうからな」
「わかっている。以前ニケ殿も勇者は脅威だと言っていたしな」
水晶ダンジョンでの話だな。ちょっとうぬぼれかけていた俺たちは、ニケにそう言われて戒められた。
剣聖なんて、脅威の最たる者であるはずだ。泰秀と戦っているときはそこまでには見えなかったけど。
「たしかに言いましたね……ぷぷっ。では行きます」
……なんでニケちゃん笑ったの?
よくわからないが、ニケはそのまま騎士のほうへ向かった。
そしてニケの謎の笑いに気づかなかったルチアは、うれしそうに剣聖に向かって駆けていった。うーん、この戦闘狂よ。
セラに抱えられる俺も一応マジックバッグからシータを出し、憑依眼なしで人形繰りだけを使っておく。
その間にも騎士二人を倒したルチアは、剣聖の前に立っていた。
「へぇ、結構やるみたいだな。なにもんだ、テメェら」
口では感心したようなことを言っているものの、剣聖は余裕しゃくしゃくで担いだ剣をプラプラさせている。
泰秀はルチアの動きに目を見開き、剣聖とルチア交互に槍を向けていた。
「キミたちは……味方なのか?」
問いかけに、ルチアは首を少し傾ける。
「どうだろうな。少なくとも今は敵ではないが。私がこの者の相手をしているうちに、態勢を立て直すといい」
「やれるのか?」
「おそらく」
「……助かる」
美紗緒なんかは大技使ってクールダウンが長いだろうし、戦っている獣人たちも手傷を負った者ばかりだ。倒れている獣人の中には、すぐに手当てすれば助かる者もいるだろう。
ルチアを信じた泰秀は、素直に他の獣人を救援しにいった。
それを目だけで追ってから、ルチアは剣を突きつける。
「では正々堂々手合わせ願おうか、剣聖」
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