7-06 大樹海入りした
まばらに生える木々の合間から目に飛びこむのは、水面が跳ね返す陽の光。
そこまで
「やっと着きましたわね。この湖なんですわよね?」
大樹海に入って二日。
セラはやっと着いたなどと言ったが、普通の感覚で言えばとてつもない早さでここまで来ていると思う。
オーキン玉取りに行ったときよりはるかに強くなっているので余裕だろう、と考えていた俺が馬鹿だった。
三人に抱えられて猛スピードで木々の合間を抜けるのは、普通に怖すぎた。
「そうですね。この湖から北に行けばよく使われる山脈越えの道筋がありますし、一部の獣人はこの辺りで暮らしているはずです」
ニケの言う山脈とは、大樹海を横断するググルニ山脈のことである。
ググルニ山脈は聖国の北東から伸び、王国と帝国の境にまで繋がっている。
そして山脈によって分けられた聖国と帝国側の大樹海が内樹海、山脈の向こう側が外樹海と呼ばれている。
ただしそれは人間の国にとっての内側外側という勝手な理屈での呼称であり、獣人がそれを認めているかどうかは定かではない。
ほとんどの獣人は広大な外樹海に住んでいるのだが、狭い内樹海に住んでいる者もいる。
人間側に近い内樹海になぜ獣人が住んでいるかといえば水資源と、序列の問題である。
どうやら獣人というのは、種族や部族ごとの序列わけがシビアなようなのだ。
そして基本的に力の強い種族は外樹海の中央を縄張りとし、弱い種族は外周部に追いやられる。
そのせいで聖国などに脅かされながらも、内樹海で暮らさざるを得ない獣人がいるのである。
それとあとはワケアリの者たちや、流れ者もこちらに住んでたりする。
大樹海は広いんだから仲良くすればいいのに……獣人も結構めんどくさいものである。
前にフェルティス侯爵に紹介してもらったメリドリドさんは人間との商売歴が長いからフレンドリーだったが、あれは例外と考えるべきなのだろう。
「ミサオたち勇者が助力しているとすれば、やはりこの辺りで暮らす立場の弱い獣人なのだろうな」
「だろうな。つってももう手遅れな気もするんだけど」
最寄りの町で聞き込みをしたところ、剣聖たちは十日ほど前には内樹海に入っている。
いくら俺たちが速かったとはいえ、とっくにここに着いているはずだ。
「かもしれません。ですが少なくとも剣聖は、ミサオたちを捕らえるだけのつもりでしょう。関係が深かった相手の命を奪うような決断ができる者ではないと思います」
「いずれにせよ早く見つけるに越したことはありませんわ。急いで探しませんと」
それからは休もうと提案する度にセラに却下されつつ、〈鷹の目〉などもフルに使ってがんばって周囲を探した。
だが昼から夕方までかかってようやく見つけることができたのは、生活の痕跡だけだった。
おそらく各家庭でかまどのような物を置いて調理していたのだろう。二つ並んだたき火の跡が、周囲にいくつもある。
その内の一つの前で、俺たちは途方に暮れていた。
「このたき火跡、放置されてから結構日にち経ってるみたいだけど……どうしよ。この辺の探索続けるか?」
建物などは見つからないし、ここの獣人は移動式の住居で狩りでもしながら転々としているのだろう。平時であれば。
なのでまだこの辺りにいる可能性もあるかと思って一応聞いてみたが、みんなは首を振った。
「いや、これだけ探し回ったのだ。もう見つかる気はしないな」
「静かすぎますし、外樹海へ避難したと考えるのが妥当かと」
聖国から大規模な征伐隊(という名の奴隷狩り)が派遣されると、内樹海の獣人たちは外樹海に避難することがあるのだ。それぐらいは許されているのだろう。
獣人を追っての山脈越えが大変だったと、騎士が自慢げに話していたのを聞いたことがある。
しかし今回の剣聖一行の目的は、造反した勇者たちだ。それほど兵の人数は多くなかったという情報を、町でも得ている。
だから獣人は逃げるようなことはせず、ここでぶつかっていると思ったのだが……読み違えたようだ。
こうなればもう仕方がない。
「……あきらめて帰ろっか?」
「ダメに決まってますわ。山越えしますわよ」
ですよね……晴彦さんの、ひいては母さんと千冬のためにがんばるか……。
そしてがんばって抱っこされた結果、翌日の日暮れ前には外樹海に到達することができた。
湖の北にあった、山脈の切れ間を抜けるルートは、よく使われるだけあって起伏も魔物も少なかった。
その道中で見渡す限り続く外樹海を見下ろすことができたが、こちらも内樹海同様に密林と呼ぶほどは木々が生い茂ってはいない。
地形は複雑そうだったものの、だからこそ谷や小山など目印となるものも多かった。
〈鷹の目〉もあるし、迷子にはならずにすみそうだ。
ちなみにはるか北、外樹海を越えた先にはドワーフたちが住んでいるようだ。
ドワーフは何年かおきに、鍛冶をしながら各国を集団で回ったりする。
でも聖国には行かないし、俺はまだドワーフを見たことがない。ちょっと興味はあるが、わざわざこの外樹海を越えてまで会いたいという気持ちは持てなかった。
明けて翌日、森に入って地形に沿って進みやすいほうへ進んでいると、大勢の人が通った跡を発見した。
これが獣人たちか剣聖たちかはわからないが、辿らない手はない。
進行速度に差があるので、辿って進めば進むほど、跡は色濃くなっていく。
そうなれば追跡しやすくなって、俺たちの進行速度もますます上がる。
そしてさらに翌日──そろそろ休んで昼飯にしようと考えていたときだ。
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