7-03 新しい婚約者のお披露目だった
当初の予定では第一目標である召喚陣をこっそり壊して、そのあと転移で跳んでビチスを狙うつもりだった。
ただビチスの部屋にはほとんど入ったことがないので、跳ぶのは他の高僧のところにだ。
その予定とは異なり騒ぎになってしまったが、さほど支障はなく、今から跳んでも構わない。
だがどうせなら、騒ぎを有効に使うことにしよう。
「こちらで暴れて、高僧がいる区画の警備を手薄にしますのね」
「うん、あっちには
聖国最強。神に全てを捧げた者たちで構成される精鋭部隊。
それが神奉騎士団だ。
俺たちはステータスは高いが、人数が少ない。ヤツらともろにぶつかるのは避けたい。
聖庁舎はアホみたいに広いし、こっちに敵を引きつけてスキを見て跳べば、少しは楽になるだろう。セルフ陽動作戦である。
とはいえビチスは遊説などに出ている可能性もあるし、今は取り逃がしてもやむなしのつもりでいるが。
どうせその気になればいつでも転移して来れる。いつ来るかわからない襲撃者に怯えて眠ればいいのだ。
方針が決まり、三人が装備を取り出す。
防具はすでに着用しているので、武器や盾だけだ。シータは……いいか、出さなくて。
最近あまり体を動かしていなかったこともあり、ニケとルチアはどことなくうれしそうである。それを見るセラはやれやれといった感じだったが。
それとせっかくなので侵入者らしく、目から下を隠す
怒り顔を模した、顔用の防具だ。
三人はあまり乗り気じゃなかったが、可憐な乙女たちが美しい顔を隠し、いかつくて怖い面頬をつけているのは妙に興奮する。今日の夜は、面頰のみ着用でいたしてみることにしよう。
「ではここは私が」
全員の準備が整ってから、扉の前に立ったルチアが盾を持つ左手を引く。
「バッシュ!」
分厚かった両開きの扉が、衝突音と共に完全にひしゃげて無理矢理押し開かれる。
扉の片方は、枠からも外れて転がるほどだ。
「こっ、こんなっ、一体なにが……なっ!? お前たち! どうやって──」
この場に残っていた騎士は、問答無用でルチアに斬られて倒れ伏した。
それをまたいで、長い地下通路を進む。
召喚の間は聖庁舎と地下で繋がっているが、距離的には少し離れているのだ。
「ついでに美紗緒が出てきてくれるとラッキーなんだけどなあ」
剣聖たちは街に住んでた他の勇者と違って、聖庁舎にずっと住み着いていた。出てきてもおかしくはない。
「まだ生きているのであれば、その可能性もありますね。それはそうと兵が来ました。私がいきます」
長い地下通路の先にある階段から、騎士や僧侶が降りてきた。
報告に行った騎士は俺たちを見ていないから、どこぞから現れた俺たちにみんな戸惑っているが、こちらが武装しているのを見て剣を抜いた。
とはいえ残念だがそれに意味はなく、走りながら放ったニケの雷撃で一網打尽である。
しかし階段の上にも兵がいたようで、賊だ、出合えーっと叫ぶ声が聞こえてくる。
その長い階段を跳ねるように数歩で登り、聖庁舎の外れにある部屋に出た。
そこで叫んでいた兵士を張り倒して、部屋の外へ。
「それでどちらに行きますの?」
「んーと、あっちかな」
正面の廊下はビチスの執務室がある中央へと伸びているので、今はそっちではない。
残る一つの、正門側へ向かう左を指差す。
そうこうしているあいだにも、廊下には兵士たちが続々と現れていた。
「では次は私の番ですわね」
セラが俺を片手で抱え直し、正面の廊下に向けて杖を構える。後続を断つためだろう。
真新しいその杖は、俺が作った新作。
その名も『セラの怒りん棒』であるウグググウソですごめんなさい呼吸をさせてください。
竜骨とオリハルコンを組み合わせた杖の先端には、魔力を蓄積するための青い宝玉がつけられている。
魔力の通りやすさだけを見れば竜骨だけの方がいいが、セラは棒術も使うので硬さと重量のあるオリハルコンも用いた。
セラの防具はみんなに準じたものだが、魔術師らしく軽装である。
それとトップスの立ち
これは腰の背部周辺から触手が出ることを考えてのデザインである。
本当はホルターネックにして丸見えの背中とか横乳とか堪能したかったが、胸当てをつけたりする関係上断念せざるを得なかった。
でも今もセラは恥ずかしがって陣羽織を羽織っているし、これで良かったかもしれない。
陣羽織は前が閉じないので、このデザインだとキレイなおヘソはいつでも見れるのだ。
「アイスブレット・グルーム」
セラが突き出した杖の先に、氷塊が生まれる。
先端の尖ったラグビーボール型の氷は見る見るうちに大きくなり、俺を超えたあたりで発射。
しかしその速度は、見た目に比例して速くはない。
こんなんで当たるのか? と思っていたら、少し進んだところで氷がドリルのように高速回転を始めた。
それと同時に、周囲に小さな複製のような氷塊をいくつも射出する。
その姿はずぶ濡れの大型犬がぶるんぶるんしているようだ。
ただし、まき散らしているのは水滴などより遥かに大きく危険な、氷の塊である。
逃げ場のない廊下。
木霊する兵たちの悲鳴。
やがて直進した氷塊は行き当たりの壁を破壊し、力を使い果たして消えた。
あとに残るのはうめき声ばかり。
その光景を前にして、ニケは少し呆れているようだ。
「アイスブレットの派生ですか……ずいぶんと派手にいきましたね」
氷塊が通過した廊下にはそこかしこに氷のトゲが突き刺さって、崩壊寸前なほどになっている。
対多かつ対空用といった魔術だろうか。壁、床、天井、余すところなくボロボロだ。
これはもう修繕ではなく、一帯の建て替えが必要なレベルである。真っ白な建物と透き通った氷のコラボは、ちょっとキレイだけど。
もしかして装備や自分のステータスに慣れていないせいで、威力を調節しそこなったのかと思ったが、そうではなかった。
「この国を好きなエルフなど、いるはずありませんわよ? 私は元エルフですけれど」
暴れると決めたときのやれやれ感はなんだったのか。
そう言ったセラは、いかにもすっきり爽快といった笑みを浮かべた。
この国は亜人の天敵だし気持ちはわかるが、美紗緒が出てきてもうっかり殺しそうで心配。
ともあれ、そうだとは思ってたけど……セラはやっぱりやるときは殺る人のようだ。
頼もしい婚約者が増えて、心強い限りである。
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