6-16 面会謝絶だった
お届け物に喜んでもらえた冒険者ギルドから、ホテルの部屋に帰ってきた。
そのままラボに直行する。
「ただいま帰りました」
返事はない……。
まだ自分の中で
ルチアから降りた俺はそれを押し殺してリビングを抜け、物音がする隣の部屋に向かった。
一度深呼吸をしてから部屋に入ると、そこには──
「ふーん、ふふふふんふ〜ん」
──楽しそうに鼻歌まじりで料理にいそしむ、セレーラさんの後ろ姿があるじゃありませんか!
「セレーラさん、ただいま帰りましたー」
声をかけるとセレーラさんは縦ロールを揺らして振り向き、少し恥ずかしそうにほほ笑んだ。
「あら、お帰りなさいませ。ごめんなさい、全然気がつきませんでしたわ」
「いえいえ、お気になさらず」
はぁん、セレーラさんがいる……。
なんかあれだ。セレーラさんがラボにいるということに身悶えしてしまう。
もちろん悪い意味ではない。
まだ慣れていないのでとても新鮮で、締めつけられたように胸がキュンキュンにドキドキしてしまうのだ。
「セレーラ殿、問題はなかったか?」
ルチアの気遣う言葉に、セレーラさんがうなずく。
「ええ、だいぶ慣れましたもの。心配しすぎですわよ」
ケガ一つない健康体であり至って普通に見えるセレーラさんだが、実は大きな問題を抱えてしまっている。
そのため、セレーラさんをここに
だから冒険者ギルドに行ったときもある意味すぐそばにいたのだが、話は聞いていなかったようだ。特別面白い話をしたわけでもないし、それで正解だろう。
「それならよいのだが。しかしあまり気を抜かないようにな」
もっともルチアがここまで心配するのは、少し違う理由もプラスされてるんだけども。
「セレーラ……まさかとは思うのですが、食事を作っているのですか」
もう正午は過ぎたが、まだみんな昼飯を食っていない。だからおかしくないはずなのだが、ニケは眉をひそめていた。
「ええ、ただ待っているのも暇でしたので」
それを聞いたルチアの顔まで、絶望に染まる。
「それは我々の分もあるのだろうか……」
「そんな悲壮な顔しないでいただけませんかしら!?」
あんまりな二人の態度に、セレーラさんが声を張る。
その拍子に──飛び出てしまった。
セレーラさんの抱えている問題が、ニョロッと。
「ひゃあ!」
ソレを見たルチアから、らしくない……ある意味、らしい悲鳴が上がる。
セレーラさんは理由に気づいていないようだが。
「仕方ないじゃありませんのっ。初めは調理場の使い方がよくわからなかったんですもの。でも二回目からはちゃんと使えていたでしょう?」
「セレーラ」
「はいはい、ニケさんが言いたいことはわかっていますわ。でも言っておきますけど、私の料理は普通です。薄味などではありませんわ。あなた方が贅沢すぎますの。普通はタチャーナさんのようにふんだんに調味料は使えませんもの。でも今回は濃い目に味を」
「そうではなく、出ています」
「出てる? ……ひえっ!」
ニケの指差しに従って振り返り、セレーラさんも悲鳴を上げた。
セレーラさんの背後で
『触手』──を見て。
その触手が伸びてきているのは、セレーラさんの着る俺が作ったTシャツと短パンのあいだから。
なにを隠そう、今のセレーラさんは感情がたかぶると、触手が出てしまう体なのである。
しかしさっき言ってたようにだいぶ慣れたもので、セレーラさんはすぐに我を取り戻していた。
「ああもうっ、戻りなさい!」
イヌに待てをさせるように手で壁を作ると、触手はハーイと素直にセレーラさんの体に戻っていく。
触手は意思があったり、体内で飼っているというわけではないようだけど。この都度ごとに生成されているというのが近いようだ。
いずれにせよ初めのころに比べれば、段違いにコントロールできてはいるが……。
「やっぱまだ外に出るのはやめた方がよさそうですね」
「……ですわね」
セレーラさんは、ため息とともに肩をすくめた。
「早く完全に制御できるようになってくれると私としてもありがたい」
ニケ盾の後ろから顔を出すルチアは、普段からあまりセレーラさんに近寄ろうとしない。触手苦手だから。
「ふふっ、がんばりますわ」
「頼む……で、それはそれとして」
「その食事を食べなければいけませんか」
「あなたたちぃ! あぁまた!」
今度はニョロニョロっと二本飛び出てしまい、頑張って抑え込もうとしている。
「はははっ。でもいいもんですね。帰ってきたらご飯作って笑顔で迎えてもらえるとか。新婚さん気分になりました」
「しっ、新婚ってそんな……ああっ」
なんかさらに一本追加されてしまった。
セレーラさんの社会復帰にはもう少し時間がかかりそうだ。
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