5-30 異世界転移は簡単ではなかった
俺が望んだご褒美は、もちろん二人が切り開いてくれた地球への帰還の道だ。
しかし、ご褒美決めは非常に難航した。
水晶さんが褒美として一人あたりに使える力は限度があったのだ。
そのせいでたとえば誰でも使える道具にしたりすると、帰還できるほど効果が高いものはもらえない。条件などを絞らなければならないのである。
「そうなると、己でしか使えないスキルとして褒美を授からねばなりませんね」
「だな。それで俺としては、複数人で自在に往復できる力がほしいんだけど」
だが俺の望みに対する水晶さんの返事は、かんばしいものではなかった。
『複数人で自在にか……それは難しいと言うほかない』
話を聞くに、どうやら地球がある世界は、こちらの世界よりも
そしてそれがゆえに、こちらに来るより向こうへ帰る方が大きな力と高い技能が必要となる。
水晶さんの見立てでは、俺をこちらに喚んだ召喚陣は〈転移術〉スキルによって作られたのだろうとのことだ。
その程度であれば、転移術を極めた者であれば作れる可能性があるらしい。
しかし転移術では、こちらから地球側には行けない。
地球側の方が位が高いからだ。
転移術では向こうから無理やり引きずり下ろすことはできても、押し上げることはできないのである。
どうりで聖国であれだけ資料を調べたのに、帰った人がいなかったわけだ。
しかもそれは事故も起こり得るし、互いの世界にとっても望ましくないそうだ。召喚するために空ける穴がなかなかしっかりとはふさがらないとかで。
そういえば俺と一緒に召喚された中年男性教師が転移術持ってて、うらやましかったな。どうにかしたら日本に帰れるんじゃないかと思って。
教師はほとんど会話もしたことないまま、さっさと一人で聖国から逃げやがったが。
でも持ってたら転移術で帰ること試みて無駄に時間を費やすことになったから、持ってなくてよかった。
「それで転移術は無理として、主殿が帰るためのスキルはなにかあるのだろうか」
『現存するものであれば、〈
〈遷ろう眼〉というのは転移術とは原理が違う転移用スキルであり、それであれば帰るのは不可能ではないらしい。
転移術がトンネルを掘って空間を繋げるものとすれば、遷ろう眼は注射針で自分をその空間に注入するようなもののようだ。
水晶さんの言葉は硬すぎてよくわからなかったが、自分なりにそう解釈した。
とにかく相当レアな転移術よりも、遷ろう眼は輪をかけてレアであり、転移性能としてこれ以上のものは望めない。
そのスキルを褒美として授かることは可能だ。
でも大きな問題が一つ。
消費の大きい遷ろう眼で地球にまで転移するのは、今の俺のMPでも俺一人が精一杯なのだ。
ニケやルチアのMPでは、世界を越えることもできない。
自分を含めずに転移することはできないので、これでは二人やセレーラさんを連れていけない。
みんなをラボに入れておけばいけないだろうかと思ったが、水晶さんに無理だと言われてしまったし。高度なスキルなだけあって、そのあたりはしっかり精査されるらしい。
遷ろう眼じゃなくて、一度使えば消えてしまうものでよければ、みんなで転移できる力を与えられるそうなんだけど……。
「全員がその力を授かっても、行き来できるのは三回だけか……どうする主殿」
「遷ろう眼が術式に起こせないのは残念ですね。可能であれば魔石で魔力を補充できたのですが」
術式に起こすというのは、術を魔術陣などにして物などに刻み、誰でも使えるようにするということだ。
魔術なら魔術陣にするのはおおよそ可能なのだが、金がかかるし使い勝手も悪いので気軽に用いられるものではない。
遷ろう眼は、魔術ではなく高度で繊細な魔法なのでそもそも無理なのだ。
それができたら、帰れる道具をもらうのと同じようなものだし。
「魔石でも、主殿のMPの何倍も確保しようと思えば大変な量になりそうだがな」
「そうですね。ですがアップグレードでマスターのMPを何倍にも増やすというのは、現実的ではありませんし」
「それはさすがになあ……いや、待てよ」
MPの数値を何倍にもするのは無理だが、逆に──。
「どうしました?」
「できる……できるな! これがやれれば、実質何倍にするのと同じだな! 水晶さん! スキルのアレンジをしてもらうことってできるんだよね?」
『可能なれど、いくら制約をつけようと効率が幾倍にもなりはせぬぞ』
たとえばクールタイムを伸ばすとか、スキルに制限をつける代わりに効果を増したりすることができるらしいのだ。
だが俺がアレンジをお願いしたいのは、どちらかといえばもらうスキルではない。
これならきっと……。
そして水晶さんと相談した結果、俺のもらうご褒美が決まった。
〈
研究所八部屋。部屋の間取りを変更可能。
研究所内に、所持する生産スキルに関する設備を設置することができる。
ただし、設備や設備によってもたらされる素材は持ち出すことができない。素材は加工後であれば持ち出し可能。
研究所内で所持するスキルを使用時、支援を受けることができる。
内包スキル──〈新世界への扉〉
俺が選んだのは、〈
いつのまにかレベルが八になってたが、そこは今どうでもいい。
重要なのは以前まで支援効果は生産スキルしか受けられなかったものが、スキル全般に変わったことだ。
そう、ラボ内でのMP消費が、えっと、今レベル八だから……なんでも十四分の一になったのだ! これでみんなを地球に連れていける!
ただ、ラボをいじるのに力を使ったせいで、もらった転移スキルには遷ろう眼より制限がかかることになってしまった。
そのかかった制限というのは二つ。
転移距離に関わらず、一度使えば丸一日使うことはできないというもの。
それとラボ内でしか使えないというものだ。そのせいで内包スキルという形になった。
多少使いづらくはなったが、転移性能は遷ろう眼と同等だししょうがないね。
それにしても〈新世界への扉〉って……俺は旧世界へ帰りたいんですけど。
……これの中身も、一応詳しく見とこうか。
〈新世界への扉〉
新世界への扉を開く。
うん、そんな気はしてたけど、全然詳しくなかった。
なんで俺のスキルは基本説明が雑なの。
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