5-19 走れ真一だった
もう連戦でだいぶ消耗していたのだ。
空を飛ぶ厄介なゴールドグリフォンだけでもきついが、他にも絡んでくるようなことになっていればどうなったことか。
二人のほうが戦闘のプロフェッショナルだが、今回ばかりは俺の判断が正しいはずだ。
それを証明するように、正座するニケはバツが悪そうに目を伏せている。
しかし……むーん、どうしたもんかなぁ。
九十一階層に入って先に進む難度が跳ね上がると、俺が感じていた二人の攻略への焦りも増してしまった。
今は反省しているが、同じような状況になったとき繰り返しそうな気がする。
こういうときは……真心込めて二人と話して、思いの丈を聞くしかないか。
お宝騒動のときのほうれんそうでは、吐き出し方が足りていなかったのだ。
そう思い、ルチアにも正座させて俺も正座した。
リビングでソファーに座らず正座で向き合う変な絵面の中、俺はそれぞれ二人の目を見つめた。
「もう帰る。次の階層行ったら、お前らが寝てるあいだにこっそり帰る。んでもう二度と水晶ダンジョン来ない」
「マスター!」
「主殿それはっ」
「それが嫌なら話せ。二人とも、なにをそんなに焦ってる。話さないならほんとに帰る」
「もう、卑怯なやり方ですね……」
今はとにかく二人に思いを吐き出させるのが真心なのだ。
そしてどうやら俺の真心は伝わったようだ。
「……私たちが今恐れているのは、まさにマスターが攻略を断念することです。危険性を考慮する面でもそうですが、マスターが飽きてしまいそうで……そうならないように、進まなければと」
渋々と話したニケに、ルチアも続いた。
「私たちのワガママに主殿をつき合わせてしまっているのは申し訳なく思っている。だが必ず攻略してみせるから、どうか辛抱してほしい」
ラボがなければ厳しいというのもあるかもしれないが、それでも以前なら俺は地上に戻って待っていていいとか言い出したかもしれない。
一蓮托生。その思いは共有できていてよかった。
それはそれとして、たしかに攻略をあきらめる考えはずっとつきまとっている。
まずもってリスクとリターンが見合ってないのだ。
高すぎる危険を冒してこれ以上進むことに、そこまでの価値があるとは思えない。
二人がずっと戦い続けてるのも心配だし、よく飽きないなとも思う。
俺は正直すでに飽きている。特に今はなかなか進めないし。
だが、それでも二人は間違っている。
さっきはもう来ないと脅したが、簡単にやめる気なんてない。
二人が俺のことで焦っているなら、俺も胸の内を明かすべきだろう。
「……俺は二人がやめたいと言い出さない限り、絶対にやめないぞ」
「本当ですか!?」
うなずいて見せると、二人の顔が安堵で緩んだ。
「お前たちがなんでそこまで攻略にこだわってるかはわからん。どうせこれは言う気ないんだろ?」
アダマンキャスラー戦前に言ってた、名誉的な理由で攻略したいなんてのがウソというのは、さすがにもうわかる。
そんなことで二人がここまで必死になるとは思えない。
「……すまない」
「どうかそればかりは」
頭を下げようとする二人を、俺は首を振って制止する。
「いいんだよ、そんなことはもうどうでも。やめる気がないというならそれだけで。俺は、頭きてるんだ」
「それは……私たちにか?」
ルチアがうかがうように聞いてくるが、そんなわけない。
「わかるだろ……水晶ダンジョンにだよ! なんだよここ! 慣らし階層はどこいったんだよ! いきなり殺しにきやがって! ここは修練場じゃなかったのかよ! 詐欺だ! こんな裏切り絶対許さない!」
俺は激怒した。必ず、かの邪智暴虐のダンジョンを攻略せねばならぬと決意した。
「主殿……それは清々しいまでの一方的な言いがかりでは」
「しっ、黙っていなさい」
「だから二人とも少し冷静になれ。ここからは確実に攻略するために、時間をかけてじっくり行く」
焦燥感からか、このところ少し険しく見えた二人の目に、ようやく穏やかさが戻る。
「マスターがその気であるのなら、もう焦る理由はありません」
「ああ、じっくりでもなんでもいい。私たちで必ず攻略しよう」
決意も新たに、俺たちは互いにうなずき合った。
じっくり行くといっても、基本は変わらない。
ただ連戦になりそうなときは早めに切り上げ、休みも多く取って常に万全の体制で進んだ。
そして強化できそうな敵は積極的に倒し、こまめに〈アップグレード〉することにした。AGIくらいしか上がらなかったけど。
どうやら敵の種類や強さは、階層を進んでもあまり変化しないようだ。戦闘自体は慣れにより多少楽になっていった。
しかし九十階層台の環境は今までの縮図になっていたので、攻略にかかる日数は増えた。
九十五でまた雪山になったときは、やっぱり攻略断念しようかと思ったよ……。
それと武器も更新することになった。
二度ほど見つけた遺宝瘤から、大量の
ということで昔ルチアに約束したニケの昔の姿、ケーンのレプリカを作ることにする。
ケーンの美しい姿は、俺の目に焼きついている。寸分違わず完全なケーンを再現することなど造作もなく──
「どこが焼きついているですか……こことこことこことここ、あとここも違います」
「えー、こんなもんだったじゃん」
「全然違います! いいからやり直してください」
結局ニケのオッケーが出るまで、何度も作り直すハメになった。
ルチアはシュバルニケーンという名を使いたがっていたが、ニケに許してもらえなかったからシュバリエールと呼んでいる。
ちなみに遺宝瘤からは他にもそれなりに面白いものは出たが、スキル習得スクロールはなかったし、俺がくすねたお宝以上の物はなかった。
そして九十二階層のあの日から、丸二ヶ月。
「着いちゃったな」
「……着きましたね」
「本当に着いたんだな」
俺たちの前には、最後の……百階層へのゲートが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます