4-32 俺のハイライトだった



「ここまできて危ないから帰れとか言うなよ?」

「……わかりました。ですが終わったら、すぐにラボに入っていてください」

「わかってるって」


 俺がいつもラボにこもるのは、中途半端な力の俺がチョロチョロすると二人が心配するし、邪魔にもなるだろうという合理的判断に基づいている。

 決して痛いのとかが嫌だからではない。観戦オヤツタイムなどとは思っていない。いないのだ。


 ということで、場所移動も終わったから早速始めよう。

 ニケとシータで持ち手を支え、ネジ本体と合わせる。

 綺麗に折れているので、これならラボの時短補助がなくてもさほど時間はかからないだろう。


 俺の身長でも届いたので、折れた部分に手を当て錬金術発動!

 どれくらいのMPを使えばいいのか感覚が掴めないが、素材を加工する場合は一発勝負ではないから問題ない。

 錬金術を発動させたまま、流す魔力の量を増やしていく。


 ちなみにMPと魔力というのはほぼ同義なのだが、なんとなく違う。なんらかの意思を持たされて動いているMPのことを魔力と呼んでいる感じだろうか。とにかく俺はなんとなく使い分けている。


 ネジの素材はいい物使ってるのでそれなりの出力が必要になったが、俺の意思通りに素材が動き出した。

 継ぎ合わせている部分がくっつき、隙間の線が消えていく。


 でも……おそっ! ラボ内での作業に慣れちゃってるからなあ……。

 これ流す魔力を増やしたらどうなるんだろう? と思ってやってみたら早くなった。


 ただ、割には合ってない。二倍の早さでMPを消費しても、修復速度は五割も増してない。

 それでも俺のMP量ならもつ。今は時間が惜しいのだ。


 ガンガンに魔力を流し、しばらくして完全に持ち手がくっついた。

 多少曲がっていたので、それもニケに指示しながら直した。


「それではマスターはラボに……マスター?」


 うーん……修理しながら思っていたのだが、甲羅に錬金術使ったらどうなるんだ?


 ゴキブリの錬金はいけた。ルチアもいけた。っていってもそれはルチアにレジストする気がなかったからだ。レジストしようと思えばできたはず。

 アダマンキャスラーもそれは同じだろうが、もしそのレジストを突破できれば……。


 しゃがみこみ、ネジの刺さっているすぐ横に手を当てた。

 そして錬金術を発動させる。


 …………失敗だ。

 甲羅に魔力が入り込んだ感覚はあった。

 しかしすぐに霧散するというか、食い荒らされる感じだ。それなりにMPも使ったのに。


「いくらなんでもそれは……っ、マスター!」


 ニケが俺を呼ぶのと同時に、ガツンと頭の中に火花が散った。

 引っくり返って跳ねてゴロゴロゴロゴロ…………。


 ルチアがターゲットを取り戻すまで短い時間だったのに、揺れが収まってから軽く吐いた。

 しょうがないと思うの。自分とシータ、二つの視界の相乗効果で三半規管がおかしくなるのは。


 おでこ切れて血が垂れてきてるし……ネジのらせん部にぶつけたせいだ。

 ちょうど〈第三の目〉の場所だが、実はこれは本当に目があるわけではない。よくわからない原理によって、そう見えるだけなのだ。だからここをつつかれても、「目が、目がーー」とはならない。


「大丈夫ですか! これをっ」


 クラクラして四つん這いの俺に、慌てて駆け寄ったニケが中位ポーションを差し出してくれる。

 でも俺は、それを押して返した。


「あんがと……だけど今はそれよりこっちだ」


 マジックバッグから取り出したのは、澄んだ薄紫色の液体が入ったビン。

 上位マジックポーションだ。


 瓶を傾け、一口で飲み干した。

 初めて飲んだが激マズ! 本吐きしそう……。

 ぐっとこらえて、はいはいでネジに向かう。


 さっきはちょっと欲張った。

 これ以上ネジを回さずに済むよう、広い範囲に魔力を流して穴を空けようとしてしまった。


 少しでいいのだ。

 ネジを回す助けになるだけでいい。

 MPは満タンだ。ルチアのためにも絶対やってやんよ!


 甲羅に手をついて呼吸を整える。

 目標はネジの先端周辺、そしてその深部。

 錬金術を発動させ、ドカンと魔力を発射する。


 イメージは大砲。でかいのを叩き込んで、アダマンキャスラーの魔力を蹴散らす。

 その隙に食い込み、俺の支配下に置く。


 ……いける! 俺の魔力がズルッと入った!

 そこにやつの魔力が群がってきたので、またでかいのを発射。

 それを繰り返し、細く深く俺の支配下に置いていく。


 ──俺は弱い。

 二人に戦わせて、隠れていなきゃならないくらいに。

 人間だった頃なんて特に、ステータス値なんかMPしか取り柄がなかった。


 でもラボの力もあって、錬金でそのMPをうんざりするほど操ってきたのだ。その技術はかなりのものであるはずなのだ。

 たとえこいつの体の一部だとしても、ちょっとくらいは影響を与えてみせる。


 そして八回目の大砲を発射し、目標地点に到達。

 捕まえた…………はずだ。


 こっちへ来い!

 それだけを念じる。


 やがて味わったのは。

 小さなこの手に味わったのは──


「に……ニケっ」


 ──甲羅が押し上げてくる感触!


「回せぇ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る