4-31 折れちゃった
ぶっちゃけると決め手として考えているのは、火属性と水属性の魔石爆弾を利用しての、みんな大好き水蒸気爆発である。
立案者は俺じゃなくてルチアだけど。
昨日の二人の作戦会議中に、それをルチアが思いついたのには驚かされた。前に自分が食らったのが頭に残っていたのだろう。
ただ、甲羅の表面で爆発を起こしても、破壊力はほとんど上に逃げてしまう。それではこの甲羅は破壊できない可能性が高い。
火属性の魔石が少ないので、勝負は一度きり。
やるならばなるべく逃げ道をふさぎ、効果的に破壊力を甲羅に伝えなければならない。
そのために作ったのが、このネジである。
これで穴を空けて、その中で爆発を起こせば結構いい線いくんじゃないかと思って俺が出した修正案だ。
ネジなららせん構造で水と接する表面積も稼げるし、うまいこといってくれると信じる。
本当は全部アダマントで作れればよかったが、この量を集めようとしたら三日以上はかかるので断念した。
「では、いきます」
ニケとシータで息を合わせ、ネジの持ち手を掴んで餅つきのように一文字の中央に突き刺す。
一回では大して進まず、何度も繰り返す。どうにか先端のクギの部分があらかた隠れるくらい掘れた。
最期はネジを刺したまま、シータの重量を生かしてストンピング。十回くらい飛び乗って、クギ部分が全部隠れた。
ここで再びアダマンキャスラーが背中を揺する。
こっちはさっきほど派手に動いてはいないのだが、やはり勝手に乗られるのは嫌うようだ。
ルチアは両手で交互に挑発を入れ、合間には魔術も使っている。
それでも魔術の当たり具合とかによっては
少ししてルチアがターゲットを取り戻す。
ネジは自立していて抜けるようなことはなかったので助かった。
場所をまた移動するのにあわせて、俺本体も移動。
そのときしっかり見てみたが、思った以上にルチアの消耗が激しい。
汗で顔に髪が張りつき、移動するときには俺が昔開発した、体力が回復するスタミナポーションをもう飲んでいた。
ポーション類はクールタイムが共通なので、普段あまりルチアは飲まないようにしているのだが……とにかく急ぐしかない。
ニケとシータで持ち手を押すと、ゆっくりネジが回り始める。ギチギチという音がこっちまで伝わってきそうだ。
俺本体に聞こえてくるのはバカーンドゴーンと、冗談みたいな破砕音ばかりだけど。
一周……二周…………三周目にはモウ、牛の歩みになってしまった。ププッ。
なんて冗談を言っている場合でなく、実際かなり回しづらいが……それでもどうにか進めている。このまま行けるといいのだが。
らせん構造の部分などが心配ではあるが、簡単に潰れるようなことはないと思う。
ニケががっつり魔力を流してネジを強化しているし、らせん部分や先端はアダマントでコーティングしている。
この分ならなんとか──そう思いながら突入した四周目だった。
アクシデントが起こってしまったのは。
ネジを回す抵抗の強さに一度止まってしまい、わずかな休憩を挟んで再開しようと持ち手を押す。
まさにそのとき、アダマンキャスラーが体を揺すった。
シータが少しのあいだ地面を転がり、揺れが止まって立ち上がろうと思ったら、背中になにか乗っかっている。
それは、ネジの持ち手だった。
芯に近い部分から、ポッキリと折れてしまったのだ。
そっちが壊れんのかよ……。
「すみません……魔力を流し損ないました」
ニケは謝っているが、今のタイミングでは仕方ないだろう。
ちなみにニケのセリフなどは聞こえないので全部俺の想像だが、たぶん間違ってない。愛ゆえに。
にしても、どうする。
一応予備は作ってあるが、今のよりも脆いので使い物になるかどうか……。
なによりこのネジが刺さったままではどうしようもない。
折れてちゃ抜くこともできないし、これでは無限収納でしまうのは難しいかもしれない。
アダマンキャスラーに埋まっているような状態ではニケが魔力を流しても、完全にこいつの魔力を排除するようなことは難しい。
そして他者の魔力が通っているものを、すぐにマジックバッグなどにしまうことはできないのだ。
そんなことができたら、ちょっと触っただけで相手を素っ裸にできてしまうし、誰が触ったかわからない人混みになんて誰もいかなくなる。満員電車がなくなっていいかもしれない。
ともかく、もしダメなら新しい穴を空けなければならないが、そんな余裕は──
「なに!? くっ!」
そこで響いたのは、ルチアの盾が打ち鳴らした音と、驚愕に彩られた声。
慌てて目を向ければ、なにかを防いだようでルチアが盾で身を隠している──やつの射程外で。
空気砲ではない。音が違ったし、あんな溜めが必要な攻撃、ルチアであれば簡単にかわせる。
では、なにが。
答えはすぐにわかった。
アダマンキャスラーが首をたたみ、頭のイカリの先を地面に深く刺す。
そしてすくい上げるように、土や石を飛ばしたのだ。
おそらく今までやったことがないのだろう。威力はないし、はっきり言ってヘタクソだった。
それも当然か、かつてあんな真正面で戦いを挑んだ者がいるとは思えない。
だが……上達してしまったら。
それでうまく織り交ぜられてしまえば、安全圏がなくなったルチアはさらに消耗する。
……新しい穴を空ける余裕どころか、今の穴に予備を刺し直す余裕すらないかもしれない。
なんとかあのネジを直せればいいんだが、どうやって直せば…………あれ? 普通に直せるんじゃないか?
ラボから出て、玄関扉を消す。
走って向かう先はアダマンキャスラー。
そのまま足に飛び乗る。
「主殿!?」
「マスター!?」
二人は驚いているが、ちょっと待ってルチア! っていうか待たないで!
今はやつの射程外で止まらないでくれ!
今度は地面を飛ばすのではなく、ルチアを追ってアダマンキャスラーが動いてしまった。
あっぶねえ……運良く逆側の足から踏み出したので、俺の乗ってる足が動き出す前に背中に飛びつくことができた。
「すっ、すまない!」
「いいから! ついでに移動させといて!」
ルチアの足場確保のために場所移動が始まり、すぐにニケが迎えにきた。
「マスター! なぜ来たのですか!」
「ネジを直しに来たに決まってる」
今までずっとラボ内でしかやってこなかったが、錬金術って外でもできるじゃん! ということに気づいたのだ。まさに目から鱗である。
……それが普通なんだけどね。
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