4-30 ただひたすらにうらやましかった
きちんと朝飯を食べ、〈
一時間ほどで呆れるような巨体を見つけた。
夜はこいつも寝ているのかな。
足跡の間の地面が削られていたが、もしかして食事の跡なのだろうか。土の中のなにかを食っているのかもしれない。
まあこいつの生態に多少興味はあるが、今はそれどころじゃないな。
障害物の少ない平地で大きく回ってアダマンキャスラーの前に出た俺たちは、ダグバから降りた。
「本当にやるんだな? 今ならまだ……」
「マスター……朝から何度目ですか」
「心配するな。昨日も大丈夫だっただろう?」
二人の決意は固いようだ。ならばこれ以上はなにも言うまい。
ニケに抱っこされ、アダマンキャスラーに向かって進む。
どうやらあちらさんはすっかり俺たちの顔を覚えたらしい。
こっちを見てわずかに首を伸ばすと、前方の胴体の足を高く上げて猛然と駆け始める。
後方はそれほど動きは荒くないが、背中の岩や木々に住み着いている鳥たちが一斉に羽ばたき去った。
その一歩ごとが岩盤まで破壊し、地表の土が跳ね上がる。
怖い以外の感想が出ない!
あんなのがもし食パン咥えて走ってたら、運命の出会いも木っ端微塵だよ!
あれと対峙しなければならないルチアは、アダマンキャスラーを真っ直ぐに見据えている。
その胸中を占める思いはなんなのか……少しして、顔だけを俺に向けてきた。
「行ってくる」
「任せました」
「気をつけろよ、ホントに」
俺の頭を一撫でして、ルチアが斜めに駆けだす。
アダマンキャスラーは近づいたルチアに釣られ、進路を変えた。そのままルチアが回り込むことで、アダマンキャスラーの勢いが削られる。
一周近くするころには、アダマンキャスラーの足は止まっていた。
「始めるぞ! タウント!」
盾の挑発アーツで、アダマンキャスラーはルチアに釘づけになったはずだ。
「行きます」
「お前も安全なわけじゃないんだから、気をつけてな」
ニケの〈危機察知〉も、危機と完全に接触してる状態ではうまく機能するのかわからないし。
俺を下ろしてうなずいたニケが走りだし、そのあとにシータが続く。
俺はちょっと離れたここで、ラボにこもって見学だ。
もしラボがなにがあっても絶対に壊れないと確定していれば、ルチアはこの中から挑発すればいいんだけど……。
アダマンキャスラーの左から近づき、ニケが後方の胴についている六本足の一番前に飛び乗る。シータもなんとかよじ登れた。
そのまま足を伝い、背中にたどり着く。この周辺は昨日魔石爆弾で掃除しておいたので、黒光りする甲羅が剥き出しになっている。
アダマンキャスラーはルチアに夢中で、こちらのことは気にしていない。まずは第一段階クリアだ。
にしてもこの背中の上、本当に揺れが少ない。
ルチアに対し頭を振り回したり足で踏んづけようとしたりで、前方の胴体はかなり動いてる。それでもこっちにはほとんど影響がない。
〈
やはりちゃんと使えたようで、無限収納から剣を取り出したニケが、近場に鎮座していた大岩を蹴って高く跳躍した。
「飛翔斬・
空中で素早く繰り出された横薙ぎと突きが生んだのは、鳥のような形状の飛ぶ斬撃。
剣術アーツ飛翔斬の速度と貫通力が増した派生技が、甲羅に一文字を刻む。
続けてその中心部に雷を放ってから、ニケは縦に一回転。
「ミーティアキック」
謎エネルギーをまとった右足を伸ばし、斜めに宙を切り裂く。
スカートが激しくはためくものの、見えそうで見えない……まさか計算しつくされた位置取りなのか!? っていうかなにその技! 俺もやりたい! 怪人倒したい! ズルいズルいズルい!
俺の驚きと嫉妬をよそに、ニケはさっきの雷撃の着弾点に流れ落ちた。
弾けて広がる力の奔流。
こびりついて残っていた土砂が吹き飛び、周辺が綺麗に黒一色になった。
しかし……。
「やはりこの程度ですか」
煙を上げる中央で立ち上がったニケが、腹立たしげに剣を振って煙をかき消す。
渾身の連続攻撃を叩き込んだ中心部でさえ、ニケの膝までほどの深さがえぐれただけだったのだ。
しかもこの甲羅、繊維質というか粘り気があるとというか、金属のように綺麗に砕けたりはしない。辺りはズタボロになっているものの、飛び散っている破片は少ない。
「わかっていたことですが──っ!」
一瞬、ガクンと足場がなくなったと思いきや、下からの突き上げを食らってシータが宙を舞う。
右に左に転がり、立ち上がることもままならない。
どうやら背中で派手にやったせいで、ターゲットが移ってしまったようだ。
「タウント! ストーンブレット!」
挑発と魔術をルチアがアダマンキャスラーに当てると揺れが治まった。
叩きつけられるアダマンキャスラーの頭部を飛びのいて避け、ルチアが声を張る。
「すまない! 大丈夫か!」
「問題ありません!」
ニケはすぐに背中に張りついて転がるのを防いだし、シータも問題なく動く。
でも俺はちょっと酔った……。
「ならばついでに少し進ませる!」
すでにアダマンキャスラーの頭部周辺の地面は荒れ果てている。
足場の確保のために、ルチアが距離を取って前進させた。
さすがに標的を追いかけるときは、コケるほどではないが後ろの胴体も動きが少し荒い。
だから必要時以外はアダマンキャスラーを動かさないように、ルチアはヤツの射程の範囲を出入りしているのだ。
昨日試したときとは違う。
相当神経を使っているだろう。早く準備を進めなければならない。
「急ぎましょう」
ニケもその思いは同じだ。アダマンキャスラーの動きが止まると、すぐに無限収納からある物を取り出した。
ニケの身長よりも長いそれは、くの字型のネジ。
太さもニケより太い……いや、胸囲だけなら引き分け。
ネジの先の方はらせん構造になっておらず、釘としての用途も持たせている。
そして六角の穴が空いているボルトを締めるレンチのように、長い持ち手がついている。
昨日得たアダマントや、硬い素材をかき集めて作ったこのネジが、作戦の要だ。
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