4-17 ミッションポッシブルだった
将棋盤を作ったあとは、何事もなく話し合いは終了。
勝手に鑑定眼を使われたことをルチアがつつき、素材を売るときは四分の一はギルドに売るということでまとまった。
ぐぬぬとうなるセレーラさんににらみつけられ、ゼキルくんが縮こまっていた。
でも普通はマジックバッグの容量とか腐ったりするせいで、得た素材はどんどん吐き出さなければならないが、俺たちにはニケの〈無限収納〉がある。売る売らないを自由にコントロールできてしまう。
とりあえず今回それなりに売ってあげたが、今後はどうするかなあ。
ぶっちゃけ俺としてはあちこちで売るのも面倒だし、多少安かろうが全部ギルドで売ってもいいのだが……そんなことを言うと怒られるので、二人に任せよう。
ちなみに売るときに、新鮮すぎる素材の数々を見てセレーラさんが不審がっていたが、時間経過がゆっくりになる貴重なマジックバッグを持ってると言ってごまかした。
なんにせよそれらのことは今の俺にとって、ささいな問題でしかない。
なぜかと言えば、なんと! セレーラさんと帰還のお祝いをする話が復活したのだ!
「あなたがしつこすぎるせいですわ」
などとセレーラさんは言ってるが、照れ隠しだろう。素材を売ってるとき、三分に一回はおねだりした甲斐があるというものだ。
いろいろやってたら時間がかかって夜になったが、セレーラさんも仕事を早く切り上げてくれて出発!
ここでオシャレなレストランでも知っていればよかったのだが、残念ながら俺たちはこの街には疎い。
結局セレーラさんにお任せすることになった。
そして着いた先は──
「なんか、ガヤガヤしてますね……」
風情のある安居酒屋……というか、はっきり言ってボロい店だった。
二階から上は安い宿らしく、客もまだ若い冒険者とか、D級止まりのしがないおっさん冒険者っぽいのが多い。
でも注文を取りに来たリス獣人の給仕の子はなかなか可愛かった。
ここの亭主の娘さんだろう。厨房にチラッと見えたのもリス獣人だったし。
とはいえ俺にはルチアのキツネ尻尾があるので、獣人だからといってポイントが上がるシステムは採用していない。特に声をかけることもせず、普通に注文した。
しかし俺としては、料亭的な個室とかでしっとりしっぽりセレーラさんとお食事を楽しみたかったのに……。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、セレーラさんが愉快そうに笑った。
「ふふっ、やはり駆け出しのダイバーが打ち上げするといったらここですわよ。私も昔はよくお世話になったものですわ」
たしかに期間的には駆け出しだけどね……S級なんですが。
ま、セレーラさんの思い出が詰まった場所を紹介してくれたのだから、よしとするか。
「そうなんですか。それはまたずいぶんとした老舗なんですね」
「そんなに前じゃありませんわ! 今のご主人でまだ二代目ですわ! もう、あなたは本当にっ」
「まあまあ、セレーラ殿。そこはもうあきらめた方がいい。しかしこういった食事処も新鮮でいいな」
俺を膝に乗せるルチアは、こういう場所には来たことがないらしい。しきりにキョロキョロ辺りを見渡している。
いくら苦労してきたとはいえ、貴族で騎士やってたルチアはこんなとこには来ないだろうな。
俺たちが街に滞在するときは、宿のルームサービスを頼むことが多いし。
「これが新鮮って……あなた方は本当によくわかりませんわね」
「セレーラ、聞きたいことがあるのですが」
「なにかしら」
これまで静かにしていたニケの問いかけに、セレーラさんが首をかしげる。
それにしても極上の美女三人とか、なんとも贅沢なテーブルである。
周りのやつらもチラチラこっち見ているが、彼女たちは全員俺のもの(予定含む)なのだ。くくく、羨ましかろう。
「エルグレコの言葉は、今でもギルドに伝わっているのですか?」
「エルグレコというと、冒険者ギルド創設者の? 見聞きしたことはありませんけれど……なぜですの?」
「いえ、それならいいのです。ただ昼に貴女が言っていたような理念を、彼も持っていたのではないかと思っただけです」
「ふふ、面白いことを言いますわね。そんな偉大な方と私が同じことを考えているなんて。そうであったら光栄ですけれど」
ニケがこう言うってことは、同じこと言ってたんだろう。エルグレコってのはニケの主だったらしいし。
ニケがあのとき聞き入ってたのはそれが理由か。
えっと、冒険者とかギルドがなんだっけ……忘れたけど、さすがセレーラさん。
「主殿……私を驚かせたときのあなたの気持ちがわかったぞ……」
ルチアはニケの正体をネタばらししたくてウズウズしているようだが、落ち着け。まだ早い。それはセレーラさんを仲間に迎え入れてからだ。
ビックリして縦ロールが横ロールになるくらい驚かせてやろうではないか。
そのあと料理が運ばれてきて、和気あいあいとした雰囲気の中、皿を空にしていった。
料理は安かろう多かろう味普通って感じで、コスパ的には悪くないねって感じだった。
だが料理なんかよりも、俺はミッションを粛々と遂行せねば。
「ささ、セレーラさん。グラスが空になってますよ」
テーブルに体を乗り出し、俺はワインの瓶を傾ける。
「あら、気がききますわね……なんだかあなたの背格好でお酌をされると、悪いことをしてる気分になりますわ」
「僕も飲めればいいんですが、二人に止められてまして」
「当たり前だろう」
「絶対に駄目です」
「ということなので、セレーラさんが僕の分も飲んじゃってくださいね。あ、ワイン空になっちゃいました。お姉さーん、一番強いお酒をお願いしますー」
「下心透けすぎですわよ!?」
「やだなあ、セレーラさんに楽しんでもらおうという真心しかありませんよ」
「絶対ウソですわ……」
例え背中まで透けていようが、やり遂げなければならぬ。
最低でも酔ったセレーラさんをお家に送って、どこに住んでいるか突き止めなければならないのだ。
するとそこに、店に入ってきた客から声がかかった。
「あれっ? 『
「おおっ、久し振りだな」
なんじゃあ! ナンパか!
とミッションの邪魔者をガルルと威嚇してみれば、そこにいたのは六十歳とか七十歳くらいのジイ様四人だった。
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