4-12 強い子に会えて帰ってきてよかった
幾度かの攻撃をしのいだ後、無傷の俺たちに業を煮やしたのか、雪の中からアイシングリバティとかいう魔物の本体が現れる。
その姿はまるで、超巨大な神経細胞。
本体の内側にうっすら透けて見えるのは、雪のように白い石。希少な氷属性の魔石だ。
それを中心として氷が触手のように広がっている。
ただし魔石の総数は、えっと……六つか七つくらい。
氷触手同士が結合していて、群れで一つの生命のように行動しているのだろう。
それが雪上で立体的に絡み合いながら、ドーム状になったり三角柱になったり、幾何学的な形に刻一刻と形状を変えている。
その動きは滑らかで、驚くほど素早い。
ニケとルチアが放った雷撃と岩塊も、前面に広げられた氷触手に防がれてしまう。触手は砕いたものの本体には届かず、またすぐに生えてくる。
近接攻撃をしようにも、雨あられと突きや払いが浴びせられなかなか近寄れない。ヤツは自身の近くの方が、氷をうまく操れるようだ。
それに雪上という足場の悪さも影響が大きい。
「くっ、どうするニケ殿。突っ込んでアーツで一気にいくか?」
「いえ、この数が相手です。下手に突っ込むのは危険でしょう」
たしかに全部仕留められなければ、生き残りに反撃を食らってしまう。賭けに出るにはリスクが大きすぎる。
ふふ……そうか。
人任せではダメだということだな。
人差し指で押しちゃった怒りを静めるためには自分でやれと、天は俺にそう言っているんだな。
へたりこんでいた俺は立ち上がり、ラボのスイッチを薬指で押す。もう押す指はどうでもよくなった。
「主殿!?」
「マスター!?」
ラボの扉を開けたことに驚く二人を尻目に、ラボの入り口に立ち〈第三の目〉を発動する。
見よ! 本邦初公開!
「〈熱線眼〉んんん!」
注がれる魔力を代償に、額に生まれる熱。
怒りに任せて魔力を注ぎ続け、熱が臨界を越え──
「URYYYYYYY!」
例の掛け声とともに額から発射するのは、極太レーザー!
まあどう考えても、アニメじゃないアニメのMSの方が近い。
その太すぎるレーザーのせいで視界は悪いが、ニケとルチアにさえ当たらなきゃいい。
なんとなくで見当をつけて凪ぎ払う。
「溶けろ砕けろ! 弾けて消えろ! ふはははは!」
ひたすら首をフリフリ。雪煙や蒸気で、周囲一体が白い煙幕に包まれる。
だが、これにてドロンなどさせてたまるか。
二人がなにか言っているがよく聞こえないので、確実に仕留めるために撃ち続けた。
そしてついにMP空っぽに。
「マスター!」
撃ち終えると白煙の向こうから、ニケの声がしっかり届く。
「ニケ、敵は!」
「もうとっくに終わっています!」
そうか、勝ったか……。
ふぅと一息吐くと──
「……んぎゃああああああ! あちぃ! あぢゅぃ! ACHYYYYYYY!」
一気に熱さっていうか痛さっていうかが、どばっと来た! 額を大根おろしで小一時間おろされたような痛みだ! やられたことないけど!
たまらず近くに残ってた雪に、顔面からダイブ!
ショタオデコを中心に、ジュワーと雪が溶けるどころか蒸発する音がする。
──俺に錬金した〈熱線眼)。
これ一応ほとんどのエネルギーは前方に向かうのだが、漏れてるのか熱せられた空気のせいか、自分の方にも熱がきてしまうのだ。
そもそもこの眼は、熱に強い特性を持つ魔物が持っていた。
自らの放つ熱線眼に耐えられる体だったからこそ、こんな眼を持っていたのだろう。
この魔眼を俺が持っているのはイレギュラーであり、もともと人が使うことなど考慮されていないのだ。
要するに俺の熱線眼は、自爆技なのである。
錬成人は調整ガバガバの新規種族だから、こんなこともあるよね……この眼を選んだ俺がバカなわけじゃないよね……。
「マスター! 大丈夫ですか!」
大丈夫じゃないの! 返事もできないくらい痛いの!
駆けつけたニケが俺を雪から引き抜き、ポーションをかけてくれた。
あぁー、癒される……これ上位ポーションかな? かなり酷いことになってたのかもしれない。
「マスター……無茶をしないでください」
「悪い、巻き込んだか?」
「そういうことではありません。そんなになるまで使って……やりすぎです」
たしかに、俺のバカみたいな量のMPが切れるまで使うことはなかったかもしれない。
ルチアもそばにきて、俺のオデコを撫でている。
「よかった。傷跡は残っていないようだな」
残っててもアップグレードで素材をちょっと使えば治ると思うが、めんどくさいからやらずにすんだのはありがたい。
そしてニケにお姫様抱っこされ、改めて周りを見たが……たしかにやりすぎたか。
アイシングリバティがいた周辺には雪など全くなく、抉れた地面に小川までできている。
それと熱線眼が通った跡だろう。山のはるか向こうまで、巨大迷路のように雪が溶けてできた道が入り組んでいた。
それでも貴重な氷属性の魔石は無事だったようで、ルチアが五つ見つけて持ってきてくれた。
熱線眼は物理的な破壊力は高くないのがよかったのかもしれない。
「すまなかったな……私たちが苦戦していたから、助けてくれたのだろう? そんなになってまで」
……………………ゴゴ。
「いや、違うけど。ちょっとムカついて」
…………ゴゴゴゴゴ。
「……マスター。そういうときは、そういうことにしておけばいいのです」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
「なんで二人してガッカリしてんの? ていうかなんの音?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ! ってうるさいので山の方を見上げてみれば……まだ距離はあるが、雪煙が横に一列になってこっちに向かってきている。
「あれは……
「雪崩だろうな」
「雪崩でしょうね」
そっか、雪崩かー。
「………………撤収! てっしゅーーー!」
──進むも戻るも間に合わないということで、俺たちはラボに逃げ込んだ。
雪崩が押し寄せてくるまでは距離も時間もあったから、ニケの〈危機察知〉も反応が遅れたようだ。あんな広範囲ではどうしようもないだろう。
そして相当な規模だったので、ラボの玄関ドアは完全に雪に埋まってしまった。
ここから出るには地獄の雪かき作業が待っているのである。
現実逃避した俺たちは、とりあえず風呂に入ることにして今に至る。
カポーン。
ドボドボドボ。
「今日はもうよしとするか……」
「そうですね……」
「そうだな……」
二人はまだ無限ループを引きずっているが、のぼせたし風呂を出ようと立ち上がる。
そんな俺に、二人の(ちゃんと聞こえる)小声が届いた。
「こうなったのは全部マスターのせいですし、マスターが責任を取って……いえ、なんでもありません」
「そうだな、主殿の熱線眼であればあの雪もすぐに溶かせる……いや、なんでもない」
ひどくない!?
あんな心配してたのなんだったの!?
結局それは、よくわからないけどガッカリさせられたことへの仕返しの冗談だったそうだけど……三割くらい本気だったんじゃないかと思っている。
だって最終的に雪かきを開始したのは、ラボに閉じ込もってゴロゴロウダウダイチャイチャして、丸三日経った後だったから。
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