3-14 ピクニックデートではなかった
リース第四広場にある、ダスティリアの泉。
史上初めて七十三階層まで到達した聖騎士ダスティアと、生涯の仲間であり伴侶となる魔術師シリアは、この泉で運命的な出会いを果たした。
それから現在に至るまで、この泉は
そしてまた一組の男女が、恋人たちの聖地で出会う。
「お待たせしてしまったかしら。申し訳ありませんわね」
女の名はセレーラ。
「いえ、今来たところですよ。気にしないでください」
男の名は真一。
ああ、泉の精霊よ。
新たなるつがいの誕生に祝福を──
「小一時間ほど待っておいて、なにを言っているのですか」
「だからあれほど早すぎると言ったではないか、主殿」
……むう、せっかく人が妄想に浸っていたのに。
「ニケ、ルチア。いいかね、デートというものは男が一時間待ってからが始まりなのだよ」
「……タチャーナさん、今日なんのために来ていただいたのかわかっているかしら」
ワンピースを着たセレーラさんのジト目が刺さる。
体を締めつける服を好まないというエルフの血がそうさせるのか、ワンピースは腰だけが締められているが全体的にゆったりとしている。それでも胸部ロケットの自己主張は激しいが。
ギルド職員のタイトスカートもよかったが、私服のセレーラさんもいいものだ。
「もちろんです。これからピクニックデートに行くんですよね?」
「まったくもって違いますわ! ハァ……あなたはこれが罰だということをちゃんとわかってるのかしら。もういいですわ、行きますわよ」
プリプリセレーラさんのプリプリお尻を追いかけることしばし。俺たちはとある建物についた。
「ここで少々お待ちくださいませ。すぐに連れてきますわ」
勝手知ったる様子でセレーラさんが門を開け、建物の中に入っていく。
しばらく待っていると、やかましい声と共にヤツラが出てきてしまった。
「うわー、この人たちがぼうけんしゃー?」
「女の人だよー?」
「おっぱいでけー!?」
「あっ、子供だ! 子供がいる!」
「ほんとだー。なんでなんでー?」
雪崩のように押し寄せてきたのは……そう、子供である。
この建物は孤児院であり、セレーラさんから受けた罰とは、子供たちが街の外に出るための護衛任務なのだ。
この護衛任務はちょっと特殊で、名目上の雇い主はリースを治める領主ということになっている。
それをもともと他のパーティーに頼んでいたのだが、怪我人が出てキャンセルになってしまったので新しい護衛を探さなければならなかったらしい。
そこに俺たちが、罰としてブッキングされたわけだ。
無料の護衛として都合よく使われる感はあるが、これを罰ということにしてギルド内で問題になるのをセレーラさんが抑えてくれたのかもしれない。
……というかね、子供多すぎ。
街の外に出るのは孤児院の中では年長の子供たちで、十歳前後の子らしい。しかしどうやら、小さい子まで見送りに出てきてしまったようだ。
俺の鶴の構えでの威嚇をものともせずに、子供たちは無軌道な動きで群がってくる。
「寄んな! 触んな! 全員で喋んな! ええい、そこになおれぇ!」
「主殿は子供が嫌いなのか?」
ルチアは子供たちの真ん中で、片手に一人ずつ抱え上げている。
「好きか嫌いかは個人による。だが総じて苦手であることは間違いない。だってこいつらなに考えてるかわからないし突拍子もないことするし、理知的な俺とは相容れない。ゴラァ服ひっぱんじゃねえ!」
「……主殿。同族嫌悪という言葉を知っているだろうか」
「知ってるけど?」
「そうか、いやなんでもない」
なにを言いたかったんだろう? ルチアは笑いながら子供の相手に戻ってしまった。
首を傾げている間もニケに抱っこされている俺に、ヨダレとか鼻水とかを拭いたであろう手でベタベタ触ってくる子供たち。
仕方ないので、それを打ち払うときにこちらも鼻くそほじってなすりつけていく。
「ぎゃー! 鼻くそつけられたー!」
「うわー、きちゃないー!」
鼻くそ攻撃に恐れをなし、子供たちは距離を取った。
はっ、しょせん俺の敵ではないな。
「なにをしているのですか、マスター……」
「これは教育なのだニケ。彼らはこうして人の痛みを知るのだ」
「まるでなにを考えているかわかりません」
「だろ? これだから子供は」
「ハァ、貴方は本当に……ふふっ」
ニケの大きなため息と笑いで漏れた吐息が、俺の髪を揺らした。どういう感情なのかよくわからない。
ニケも子供が苦手なのかな? 俺とニケで子育てなんてできるのだろうか……自分の子供ならまた変わってくるかな? 少なくともルチアは子供が好きそうだから安心だけど。
「あらあら、もう仲良くなっちゃって。お若く見えるけれど、こちらはあなたのお子さんなのかしら」
ニケに話しかけてきたのは、孤児院からセレーラさんと共に出てきた初老の女性だ。
二人の後ろには、いかにも新人冒険者といった装いのパーティーもいる。
「いえ、マスターです」
「マスター? ええと……」
「ナディア、彼もれっきとしたダイバーなのですわよ」
「そ、そうだったの。ごめんなさいね、ボク」
セレーラさんにナディアと呼ばれた女性が、申し訳無さそうな表情で頭を下げた。喋り方も動きもゆっくりで、穏やかな人柄がにじみ出ているようだ。
こんな人を困らせる気はないので、気にするなと首を振っておく。
「ありがとう。私はこの孤児院の院長しているナディアです。今日はこの子たちをお願いしますね、皆さん」
面倒だし気は重いが、これはセレーラさんからの罰なのだ。やり遂げなければならない。
俺たちはナディアさんに、しっかりと頷いた。
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