2-18 錬金術師じゃなくなった




レベル ーー

種族 錬成人 Wirepuller

職業 錬金人形師


MP 6900/6900

STR 839

VIT 862

INT 1165

MND 1521

AGI 956

DEX 1340


〈錬金術8〉〈研究所(ラボ)6〉〈MP回復7〉〈MP消費6〉〈人形り1〉〈第三の目〉〈アップグレード〉




 やはり〈アップグレード〉は二人と変わらない内容で取得していた。錬成人にこれがつくことは確定だろう。


「これがマスターの新しいステータスですか。すごいMPですね」

「ああ、すごいMPだな主殿」


 …………。

 …………しーん。


「ひどくない!? 強くなってるじゃん!」


 錬金術師レベル二十九だったころより、倍以上にステータス値は上がってる。今ならオークのオクラくんなんてソッコロできるのに……。


「す、すまない。確かに強くなったとは思う。ただ……」

「パッとしませんね」

「お前らと比べんな!」


 おのれ職業格差め……。


「しかしワイアープラーねえ」

「人形遣い、黒幕、謀略家といったところでしょうか」


 人形遣いだと職業とかぶりすぎててピンとこないが、他のはなんか悪口っぽい……なんで種族にそんなの書かれるの?


「職業は錬金人形師ですか。聞いたことがありませんね。また新規の職業でしょう」

「新スキルは二つだな。主殿、この二つはどういうスキルなのだ? それと魔眼が見当たらないのだが……」


 俺が錬金時に使った魔眼は二つ。

 一つは視点を変更して、遠くまで見れたり俯瞰ふかん視できるようになる〈鷹の目〉。

 二つ目は名前まんまの〈熱線眼〉。せっかく人間やめたし、目からビームくらい出したいよね。

 それらがステータスに表記されていない。


 だが──


「ふ、ふふふふふ……よくぞ聞いてくれた、ルチアよ。そして恐れおののけ、なんとこの〈第三の目〉とはいろいろできる魔眼なのだ。恐らく二つの魔眼が融合して、変質した結果なんだと思う。なんでそうなったのかはわからんが」


 俺の目の色は変わらず黒っぽいままだ。

 錬成人になるときに元から持っている部位は、見た目の変更が起こらないのかもしれない。ルチアも片目はそのままだったし。そのわりに俺は子供になったが。


「いろいろとは具体的になんだ?」

「わからん。説明に、いろいろできる魔眼まる、としか書かれてないから」 

「雑ですね」

「そだね……で、でも少なくとも錬金で使った魔眼の効果は発動できるはず。ちょっとやってみよう。〈第三の目〉で〈鷹の目〉発動!」


 上を向いて魔眼を発動させてみた。

 少しだけ消費されたMPが、切り離されてひたいからピシュンと飛んでいった気がする。


 そして視点が増えた。


「うわ、なんじゃこりゃ気持ちわるっ」


 ちょっと思ってたのと違う。

 てっきり片目の視界が切り替わるのかと思っていたのだが、なんと言えばいいか……普段の視界にプラスして、脳天側に新たな視点での視界が増えた感じ? これは慣れないときつそうだ。


 目を閉じて集中してみると、脳天視界は頭上から俺たち三人を見下ろしていることがわかる。

 おほっ、素晴らしい谷間。なんだと……ズームインもできるじゃないか! 絶景かな絶景かな。これはエロエロ……もといいろいろと悪用……もとい有用に使いうる能力であろう。


 ズームアウトすると教養のなさそうな子供が、テーブルの上でだらしなく口を開けて天井を見上げている。あれは絶対エロいことを考えているに違いない。


 おでこにおっきな目なんかつけちゃって、いったいどこの子かしら。

 ほんとおでこに目なんかつけちゃって。

 目なんかつけちゃって。


「ぎゃああぁあ!」

「どうしましたマスタあぁぁあ!?」

「主殿どうしたあああぁ!?」


 びっくりしてテーブル上でひっくり返った俺のおでこを見て、二人が椅子ごと後ずさった。ひどい。


「中止中止! 〈第三の目〉中止!」


 脳天視界が消え、俺は恐る恐るおでこを触ってみる。

 なにもない。

 普段通り皮膚の下に硬い骨があるだけだった。よかった……。


 一体どういう原理で目が現れるのかはわからんが、とんでもなく怖かった。

 なにが怖かったって、目が死んでいたことだ。濁りきっていた。死んだ魚どころか腐ってから蘇った魚の目をしていた。呪われると思った。


「マスター、第三の目は多用しないようにしてください」


 まだ近寄ってこないニケの言葉に、もっと離れてるルチアもコクコクと頷いていた。


「うん、そうね……まさか本当に三つ目の目だなんて思わなかったよ……」


 あれは必要時以外は使わないことにしよう。

 ……と思いつつも鏡を見ながら使ってみる。


「〈第三の目〉発動!」


 ぴゃあ怖い!


「中止中止! ……でももっかい〈第三の目〉! ひぎぃ! 中止!」

「なにをやっているのですか……」


 怖いもの見たさってあるよね?


「まあこの目に慣れていくのはおいおいとして、もう一つの新スキル。これは──」




〈人形り1〉

 MPを消費して、一体の人形を意思で自在に操ることができる。




「──ってスキルらしい」


 魔術使いたくて、ゴールデンパペットマジシャンの素材を使ったせいなのだろうか。俺の魔術はどこいったの……。


「人形か……今一つ想像がつかないのだが、平凡なステータス値の主殿を補助することはできそうだな」


 平凡って……ルチアさん歯に衣着せなさすぎじゃないですかね。


「人形とはどういったものを指すのでしょうか」


 ニケはモビ◯スーツが人形に入るか気になってるようだな。お髭の白いやつはドールと呼ばれてたからいけるんじゃないだろうか。


「このスキルもおいおい検証してくしかないな。今は人形なんて持ってないし。で、だな。俺のステータスを踏まえた上で、どのように帝国を潰すかだが」

「帝国は潰さなくてもいいのだが……」


 あれ? そういう話でまとまらなかったっけ。

 首を傾げる俺をニケが引き寄せ、膝の上に座らせた。


「駄目ですよ、マスター」

「なんですと!? まさか俺の復讐を邪魔する気か!」


 暴れようとしたのに、体あちこち撫で撫でされて落ち着かされてしまった。


「そもそも貴方の復讐ではないですが、別に復讐するなと言うつもりはありません。ただ、まだマスターのステータスでは、貴方も言ったように騎士一人を相手にするので精一杯です。その程度の力では危険度が高すぎます」

「そういう意味で言ったわけじゃないんだが……ルチアは早く仇をグチャグチャにしてやりたいだろ?」

「私もニケ殿に賛成だ」

「なぬ! まさかそう言ってまた一人で楽しもうと」


 ひょいっとニケから俺を奪うと、今度はルチアが膝の上で撫で撫でしだした。


「主殿が心配なだけだ。言っただろう、今の私はそこまで焦っていない。だが、言うことを聞いてもらえないなら手伝わさせない。私一人で楽しむことにする」

「むぐぐ」


 なぜかニケがクスクスと笑っている。よくわからない。


「仕方ない……それなら予定通り水晶ダンジョンへ行って、力を蓄えるか。その力で完膚なきまでに帝国を叩き潰そう」

「それが賢明でしょう」

「俺が弱いせいで、すまんなルチア」

「いいんだ…………ありがとう」


 俺を片腕でぎゅっと抱き締めて、ルチアは鼻先を俺の髪にうずめた。なんか冷やい。ヨダレ垂らしてない? まあいいか。



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